跳べ、LIFE! 1章 空中
器械体操の選手だった 翔。
物事の考え方が潔く。冷たい。暖かい印象の無い 翔 に待ち受ける現実。
翔の行く末は——
最初に覚えたのは空中の時間だった。
体育館の天井は思ったより高かった。
鉄の梁が何本も走っている。
その下で俺はマットに立っていた。
手のひらには白い粉。炭酸マグネシウム。
手のしわ、爪の間にまで入り込んでいる。
先生が言う。
「翔」 「踏み込み強くな」
俺は頷く。
助走を取る。 床を蹴る。 体が浮く。
一瞬。ほんの一瞬。
でも、その時間だけは世界が止まる。
音が消える。
体だけが空中にある。
その感覚が、大好きだった。
器械体操を始めたのは子供の時からだ。
落ち着きがないから。そう言われて始めたらしい。 理由は 覚えていない。
でも、気づいたときには没頭していた。
大会にも出た。メダルも取った。
特別な選手なんかじゃない。
それでも、それなりにはできていた。
体を空中で縦に横に回す。地面を空中で見つける。それから着地まで。
この瞬間だけは自由だと感じた——
ある日、先生に呼ばれた。 誰もいない事務所。 やけに強い芳香剤の匂いが事務所を包んでいた。
先生は困った顔をして口を開いた。
「翔」
俺は何も考えずに答えた。
「はい」
先生は少しだけ言いづらそうに言った。
「お前な」
「足が伸びて見えないんだ…」
意味はすぐに理解できた。
大会に出ても減点をされるところはいつもそこだった。
先生は続けた。
「それは骨格の問題なんだ。」
努力じゃない。体の形の問題だった。
鏡を見て、大会の映像を見て、再確認した。
伸ばしているはずの足が、曲がって見えた。
悔しかった。
それでも、不思議とすぐに諦めがついた。
どうしようもないことは、 どうしようもない。
俺はそういう性格だった。
俺の体操はそこで終わった。
選手はやめた。
それでも俺は体育館にいた。
小さい子への指導をするようになった。
技を教える。 踏み込み。回転。着地。
「高く跳べ」
そう言うと子供たちは高く跳ぶ。
それを見るのは嫌いじゃなかった。
でも、 体育館の外には俺の知らない別の世界があった。
煙草、酒、バイク。いつの間にか好奇心の塊の俺はその世界に魅了されていた。
最初は小さなことだった。
煙草を吸ってみる。
お酒を飲んでみる。
夜に外へ出る。
その生活を続けると、同じように道を外れたやつと会う。
喧嘩。また喧嘩。
気づけばそれが普通になっていた。
学校にはあまり行かなかった。
代わりに、夜の街を走っていた。
その頃の俺はまだ知らなかった。
その夜出会う3人が
人生で一番長い付き合いになることを。
器械体操をやめた 翔 は道を外れてしまった。
知らない世界。知らないことを知りたい。その好奇心が強い 翔 は、好奇心の向くまま行動に移してしまう。
降りかかる火の粉を払うように毎日夜に出かけては喧嘩をして帰ってきていた。
その後の 翔 はそこに何を見つけるのか。




