跳べ、LIFE! プロローグ
プロローグ
残高27,000円
残高 27,000円
パソコンの画面に表示された数字を、俺はしばらく見ていた。
さっきまでそこにはもう少し桁の多い数字が並んでいた。
でも今は二万七千円だけだった。
部屋は静かだった。
ワンルームに机とソファとパソコン。それだけの部屋。
パソコンのファンの音だけが小さく聞こえている。
俺は画面から目を離さなかった。
焦りはなかった。
怒りもなかった。
ただ、「ああ」と 思っただけだった。
ここまで来るのにそんなに時間はかからなかった。
でも、ここから先は少し時間がかかる気がした。
椅子から立つ。
窓を開ける。
夜の空気が部屋に入ってくる。
遠くで車の音がする。
街灯がオレンジ色に光っている。
その光を見ていると昔のことを思い出した。
バイクの音。夜の街。ジンバのベンチ。煙の匂い。笑い声。そして
あいつら。
あの頃、俺たちは金なんてほとんど持っていなかった。
将来のことなんて誰も考えていなかった。
でも
毎日が面白かった。
人間は空を飛べない。それは体操をしていた時から分かっていた。
どれだけ練習しても人間は飛べない。
空中にいられる時間はほんの一瞬だ。
でも、その一瞬は確かに空だった。
俺はもう一度画面を見る。
残高27,000円。
小さな数字だったが、ここで終わる気はしなかった。
椅子に座る。ノートを開く。ペンを持つ。
負けたトレードを一つずつ書き始める。
理由。
判断。
ミス。
結局やることは一つしかない。
また最初からやる。
それだけだった。
そして
そのとき俺はまだ知らなかった。
この二万七千円の夜が
人生で一番「高く跳ぶ」ための、踏み切りになることを。
本編の前のプロローグです。
本編に興味をもってくれたら嬉しいです。




