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ミジンコから始まる異世界生き残り物語  作者: 英目太郎


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第四話 キャビテーション・ブレード

修練と進化への渇望。幸田は、バクテリアの毒から逃れた後、食糧確保の合間を縫って、ひたすらに【念動力】の修練に時間を費やした。

【念動力(F-)】は、あまりにも微弱すぎた。水分子を数個動かすのが精々で、戦闘中に実用化できるレベルではない。しかし、幸田には確信があった。このスキルこそが、彼の人間としての知性を、この異世界で最も効率的に具現化する「魔法の力」なのだと。

彼はまず、念動力と【水流操作(F)】の連携を試みた。


「水流操作は体表の運動器官を使う。念動力は精神力を使う。二つを同時に使えば、より緻密な操作が可能になるはずだ」


水底の砂粒を一つ選び、念動力で持ち上げ、【水流操作】で周囲の水を押し出す。砂粒を浮遊させ、他の砂粒にぶつける。その繰り返し。意識の集中が途切れると、激しい頭痛と疲労がミジンコの小さな体を襲った。

数週間後、【念動力】はFランクからE-ランクへとわずかに上昇したが、その出力はまだ物足りなかった。


「念動力は物理的に動く作動部がないから衝撃波は出せない。水を操作して圧力をかけるしかないが……この水圧では、ヒドラの細胞膜も破れない」


そこで幸田は、前世の工学的な知識を応用することを思いついた。


「水中で破壊力を生み出すには、キャビテーションしかない」


キャビテーションとは、液体中で圧力が急激に低下し、泡が発生・崩壊する際に、強烈な衝撃波を生み出す現象だ。彼の目的は、水分子の運動を極限まで加速させ、局所的に真空に近い状態を作り出し、その後の崩壊によって破壊的な力を生み出すこと。


「水分子を一気に引き離し、次に一気に押し潰す。これを瞬間的に行うんだ!」


幸田は、全精神力を複眼の焦点の先に集中させた。


『【念動力(E-)】臨界集中! 水分子の超加速を開始!』


最初の試みは失敗した。わずかに水が揺れただけで、彼の意識は焼き切れるような激痛に襲われた。HPが10%も吹き飛んだ。

しかし、失敗から幸田は学んだ。必要なのは「パワー」だけでなく「制御」だと。彼は【水流操作】のノウハウを応用し、念動力の出力を極めて精密な、二段階のパルスに分ける訓練を続けた。

そして、一年にも及ぶ猛訓練の末、ついにその瞬間が訪れた。

幸田は、水底で微動だにしないカタツムリのような貝を標的とした。


『【念動力】ランクアップ! Dランクに到達!』


ランクアップの直後、幸田の精神力が爆発的に解放された。彼の複眼が捉えたのは、標的の貝の表面に、目に見えない透明な泡が発生し、そして一瞬で内側に弾ける光景だった。

ドゥン!

周囲の生き物には聞こえない、超高周波の衝撃波が貝を直撃した。硬いはずの貝殻の表面に、ヒビが入る。


『新スキル:【キャビテーション・ブレード(E+)】を獲得しました。』


この新技の習得を試すため、幸田は、ミジンコにとって中型の捕食者であるカイミジンコ(Ostracod)に挑んだ。体長は幸田の二倍。硬い甲殻を持ち、防御力はヒドラ以上だ。

幸田は、水草の陰からカイミジンコを待ち伏せ、敵が獲物(藻類)に夢中になった隙を狙って、全エネルギーを込めた【キャビテーション・ブレード】を放った。


「喰らえ! キャビテーション・ブレード!」


ドゥン!ドゥン!ドゥン!


三連発の不可視の衝撃波が、カイミジンコの甲殻に連続して炸裂した。カイミジンコは、何が起こったのか理解できないまま、体を激しく震わせた。甲殻には三点の白いヒビが入り、その隙間から、体液が微かに漏れ出した。


『会心の一撃! 物理防御貫通ダメージ! -30%HP』


カイミジンコは激怒し、その大きな体で幸田に突進してくる。幸田は、【高速移動】で距離を取りながら、尾棘と【水流操作】で目眩ましをかけ、精神力を回復させる時間を稼ぐ。

際どい攻防の末、カイミジンコが藻類群に突っ込み、体勢を崩した一瞬の隙。幸田は、最後の力を振り絞り、カイミジンコの複眼がある、最も柔らかい頭部に【キャビテーション・ブレード】を放った。


『致命的ダメージ! 捕食者カイミジンコを討伐しました。経験値獲得。』


幸田は、崩れ落ちるカイミジンコの死骸を横目に、藻類を濾過して急速にHPを回復させた。彼の体は完全に疲弊していたが、その複眼の輝きは強い自信に満ちていた。


【念動力(D)】と【キャビテーション・ブレード(E+)】の獲得。


ミジンコとしての戦い方は、受動的な防御と逃走から、能動的な破壊へと、大きく転換したのだ。

幸田博のミジンコ戦記は、新たな段階へと突入した。


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