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ミジンコから始まる異世界生き残り物語  作者: 英目太郎


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第十一話 炎と肉の激突、そして空の脅威

【炎の抱擁(C)】を習得した幸田博は、その日から、火魔法の修練に没頭した。水陸両用の幼生としての彼は、水辺の陸地で獲物を待ち伏せ、水から顔を出しては小さな火炎を吐き出す練習を繰り返した。最初は線香花火程度の威力だった炎は、日々の修練と捕食活動による経験値の積み重ねで、次第にその熱量を増していった。

最初の標的は、幸田と同じく水辺に生息する大型の両生類、ヒキガエルだった。体長は幸田の三倍近く、約20センチ。幸田は体長10センチほどに成長していた。ヒキガエルは、その巨体と粘着性の舌で水辺の昆虫や小型のイモリをも捕食する、この水域の有力な捕食者だ。

幸田は、水草の陰に身を潜め、獲物を待つヒキガエルの背後へと忍び寄った。そして、全精神力を集中させ、新しく得たばかりの【炎の抱擁】を放った。


「ガァアアアッ!」


彼の口から、約20センチに伸びる火炎が放たれ、ヒキガエルの背中に直撃した。ヒキガエルは、熱さに驚き、一瞬硬直した。皮膚は火傷を負い、その巨大な体がピクリと跳ねる。


『会心の一撃! 炎上ダメージ:-20%HP』


ヒキガエルは激怒し、その巨大な口を開けて、粘着性の舌を幸田目掛けて伸ばしてきた。幸田は【高速移動(D)】で横に跳び、攻撃を回避した。


「火力がまだ足りない! 連発で仕留める!」


幸田は、地面を這いながらヒキガエルとの距離を取り、再び【炎の抱擁】を放つ。ヒキガエルは舌を避けられたので、その巨体で幸田を押し潰そうと跳躍する。だが、その動きは鈍い。


ガァアアアッ! ガァアアアッ!


連続する二発の火炎が、ヒキガエルの顔面に直撃した。ヒキガエルは、熱さに目を閉じ、口から泡を吹いて悶絶する。その隙に幸田は、背後に回り込み、三度火炎を放った。


『炎の抱擁(C)がC+にランクアップしました!』


最後の一撃が、ヒキガエルの弱点である頭部に集中し、ヒキガエルは大きな体を痙攣させ、水辺に倒れ込んだ。


『捕食者ヒキガエルを討伐しました。経験値獲得。』


幸田は、ヒキガエルの亡骸を見下ろした。火傷でただれた皮膚から立ち上る焦げ臭い匂い。水生生物である自分が、炎で同種を倒したという事実に、改めてゾクリとした。

次に幸田が狙ったのは、さらに強大な大型昆虫、オオカマキリだった。体長は約15センチ。幸田よりも大きく、その凶悪な鎌を持つ前脚は、どんな獲物も切り裂く。

幸田は、アシの茂みに隠れて獲物を待つオオカマキリの死角に回り込んだ。しかし、オオカマキリは幸田の気配を【危機察知】よりも早く感知した。


『【危機察知】C-発動! 致命的脅威!』


オオカマキリは、その大きな顔を幸田に向け、素早い動きで鎌を振り下ろしてきた。幸田は水中に飛び込み、辛うじて攻撃を回避する。


「陸上での【高速移動】がまだ未熟だ! しかし……!」


幸田は、水面から顔だけを出し、オオカマキリの腹部に狙いを定めて火炎を放った。


ボオオオッ!


【炎の抱擁(C+)】の火炎は、以前よりも強力になり、オオカマキリの腹部に着弾した。オオカマキリは、熱さに驚き、その薄い腹部を抑えて後ずさりする。


「今だ!」


幸田は、水面に浮かびながら、連続して火炎を放った。オオカマキリは、その巨体で必死に火炎を避けようとするが、水辺に追い詰められ、逃げ場がない。


『炎の抱擁(C+)がB-にランクアップしました!』


連続する火炎攻撃が、オオカマキリの腹部と脚の関節に直撃し、焦げ付かせる。オオカマキリは、最終的にその強靭な鎌で幸田に反撃を試みたが、幸田は【念動力(B)】で水中から泥水を霧状に噴き上げ、オオカマキリの視界を塞ぐ。オオカマキリが視界をふさがれている隙をついて、最後の火炎がオオカマキリの頭部に直撃し、強大な昆虫は、炎に包まれて絶命した。


『捕食者オオカマキリを討伐しました。経験値大量獲得。』


幸田は、疲労困憊で水中に潜り、泥の感触を味わった。火魔法の習熟度は確実に上がっている。しかし、水生生物である彼は、まだ陸上での戦い方に慣れていない。そして、本当に恐ろしい敵は、空から来る。

その日、幸田は池の中央、小島となった岩の上で体を乾かしていた。日光を浴びることで、体内のエネルギー生成効率が上がることを経験則で知っていたからだ。


『【危機察知】C-発動! 絶望的脅威! 空域の覇者接近中!』


幸田が空を見上げた瞬間、巨大な影が彼を覆った。

それは、水辺の魚や両生類を主食とする猛禽類、ミサゴだった。鋭い鉤爪を持つ足と、水中を正確に見通す視力を持つ、空からの絶対的な捕食者。ミサゴは、幸田を獲物と定め、急降下してきた。


「まずい! 【硬化外皮】を選んでおけば……!」


幸田は、水中に飛び込もうとするが、ミサゴの降下速度は圧倒的だ。彼の【高速移動】をもってしても、間に合わない。


ズンッ!


ミサゴの鉤爪が、幸田の背中を貫いた。激痛が全身を走り、骨が砕ける音が聞こえる。


『致命的ダメージ! -90%HP! 行動不能!』


幸田の体は、ミサゴの鉤爪にしっかりと掴まれ、そのまま空へと持ち上げられた。水面が遠ざかり、風を切る音が耳元で鳴り響く。彼は、生まれて初めて空を飛んだが、それは死への片道切符だった。


「ここで、終わってたまるか! 俺は人間になるんだ!」


幸田は、残された全生命力を、【再生(A+)】の発動に集中させた。


『【再生(A+)】発動!』


鉤爪に貫かれた背中の傷が、瞬時に修復される。だが、ミサゴの鉤爪は彼の体を食い込ませたまま離さない。再生はしたが、脱出は不可能だった。


「くそっ、このままでは空中で食い殺される! 何か、何か逆転の手は……!」


その時、彼の意識に、あるアイデアが閃いた。【炎の抱擁(B-)】。水生生物でありながら、彼が選んだ、異質な力。


「火だ! 空中で、こいつの羽に、火を放つ!」


幸田は、ミサゴの鉤爪に掴まれたまま、全身をねじり、口元をミサゴの羽の付け根に密着させた。そして、体内に残された最後のエネルギーの全てを、火魔法へと変換した。


『【炎の抱擁(B-)】臨界集中! 最大出力!』


ボオオオオッ!


幸田の口から放たれた火炎が、ミサゴの羽の付け根の柔らかい部分を直撃した。ミサゴは、不意の熱さと羽の損傷に驚き、バランスを失う。


「ギャアアアアッ!」


ミサゴの鳴き声が空に響き渡る。羽毛が焦げ、その衝撃で羽ばたきが乱れた。

ミサゴは、幸田を獲物として空中で保持し続けることができなくなり、その鉤爪の力を緩めた。


『【危機察知】C-発動! 地上への落下ダメージ発生!』


幸田の体は、約10メートルの高さから、そのまま水面へと落下した。


ザッパーン!


水面に叩きつけられ、幸田は意識が朦朧となる。全身の骨がミシミシと軋み、内臓が揺さぶられる。


『落下ダメージ:-70%HP!』


しかし、幸田は【再生(A+)】のおかげで、致命傷は免れていた。水中で急速に体を回復させると、彼はすぐさま水面へと顔を出した。

空を見上げると、ミサゴは羽の一部を焦がしながらも、何とか体勢を立て直し、幸田のいる水域から遠くへと飛び去っていくところだった。水陸両用の幼生に、炎を吐かれて負傷したミサゴは、二度とこの水域には近づかないだろう。


『空域の覇者ミサゴを討伐(撃退)しました。経験値極大獲得。』

『ユニークスキル:【炎の抱擁】がB-にランクアップしました。』

『ユニークスキル:【再生】がA+からS-にランクアップしました!』


幸田は、全身の疲労を感じながらも、勝利の余韻に浸っていた。ミサゴとの戦いは、まさに死と隣り合わせの激闘だった。しかし、その結果、彼は最も困難な敵を退け、火魔法を極め、そして【再生】スキルをS-ランクへと昇華させた。

水陸両用の幼生として、水陸空の捕食者すべてと渡り合える力を手に入れた幸田は、もはや単なる両生類ではなかった。彼は、この異世界の生態系において、「異端の捕食者」として君臨し始めていた。


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