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サナエさんと部屋に戻ると話を聞く。
「ここから協会職員のサナエさんも加わります。よろしいですか?」
「かまいません」松島が代表して言う。
「協会の群馬支部からも指名依頼がありました。朝日 徹也さん、ヒーラーのスキルを持つBランク冒険者。
それでいて群馬支部の職員だとか?
何故群馬支部が動かずに俺に話を持ってきたのか先ずは知りたいですね」
松島が話を始める。
当初、群馬支部に捜索を依頼した、支部の冒険者や地元の冒険者達が探したが全く見つからず。捜索5日目で死亡しているのではと話があり支部での捜索は中止となる。
その後同じパーティーのメンバーが中心となって探すが武器、防具の欠片すら見当たらなかったそうだ。妻の朝日 洋子からすると、何も見つからないと言う事はまだ生きてる、そう思えてならないらしい。
パーティーのメンバーや朝日 洋子達は、Aランクを越える冒険者に知り合いも居なく宛も無い。そこで以前さおりとサナエさんと一緒に俺がダンジョンに入った事を群馬の職員が思いだし、朝日 洋子に伝える。
それで俺の所ににわざわざ来たらしい。
「理由はわかりました。ですが、ただではやりませんよ。それ…」
「ナッ!!」朝日 洋子が俺を睨む。
「当たり前でしょ、このダンジョンはホテルや宿から離れた場所にある、何日かかるかもわからない上に見つかる保証もない。
そんな状況で全て持ち出しなんてお断りだ、悪いがボランティアでダンジョンには入れない」
「他に何が必要ですか?」
朝日 洋子が怒りを堪えて聞いてくる。
「2つある。まずは発見出来なくても責任は負わない、その上でかかる経費はあんたら持ちだ。
正直に言うとこれだけ探して何も発見出来ないなら、最悪の事態は想定するべきだと俺は考える。
2つ目はダンジョンには誰も入れない。この条件だけは絶体に守ってもらう。もし、勝手に他の人がダンジョン内に入った場合はその時点で終了とする。
よろしいですね」
「我々は問題無い、だが協会と親しい仲間がなんと言うか」松島が頭を抱える。
サナエさんが手をあげる。
「群馬支部には私からこの条件を伝えます。
現在、まともに動ける冒険者で、しかも依頼を遂行出来るのはコウさん以外にいません。もし勝手に仲間の冒険者が付いてきた等があった場合、その冒険者の方の命の保証も出来かねます。それは、ご主人様の親しい方にお伝えください」
「よろしいか、命の保証が出来ないと言うのはどういう事だろうか?」
松島が不安げに聞いてきた、サナエさんの代わりに俺が答える。
「そのままです。俺のスキルの問題ですが、俺と一緒にダンジョンに入って問題無いのは現在1名しか確認出来ていません。
そいつ以外に命の保証は出来ないんです。
ご主人を見つけた時、生きていれば命は保証します。それ以外で勝手に付いてきたり、むりやり付いて来たりした場合の保証は無いです」
「それはコウ君よりも強ければ問題無いのか?」
「俺より強い冒険者を呼べれば、その方にやってもらえれば良いかとは思います。ただ、移動費と協会の簡易宿泊所の費用、食料費だけで受ける奴はいないと思いますけどね」
松島と母娘が顔を合わせる。
「「よろしくお願いします」」
◇◇◇◇◇◇
その日の夜、さおりが俺の部屋に勝手に来て晩飯を食い出す。
「ねえ、サナエさんから聞いたんだけど。1人で行くの?」
「今日は土曜日。ダンジョンに入るのは早くて来週火曜日だ。最長で2週間を予定している。
この日程でさおりを連れていけるわけないでしょう」
「そうだけど」
「おまけに俺のスキルがある。絶対に一筋縄じゃあ行かないよ」
「まあ、だろうね。下手したら本当に冒険者の人を殺したり。しっ、しないよね」
「当たり前だ。本当はさおりが一緒だと俺もありがたい。
あいつらもさおりに懐いてるし、さおりがいるとウルフ系が兎に角喜んでいるしな」
「やっぱり、配下の子達にも私の魅力は伝わっちゃうのかな」
言ってるよ。
さおりが両手を胸の前で組む。
「あのね、私は心配してるの」
「何の?」
「日丘 克典の時も武器すら持たなかったらしいじゃない。誰かいる! そう思ったら本気で戦えないんじゃないの?」
「う~ん。その辺は問題無いとは思いよ、それと日丘 克典の時はわざと刀を使わなかっただけだよ。
それよりAランクダンジョンだ、ダンジョントラップにその人がはまって無い限りは問題無いだろう」
「ダンジョントラップか。
絶体にありそうだね。でもさ、そんな所に1週間以上でしょ。生きてる可能性は無いよ」
「レイラとあった時の話しだけど、日本大蜘蛛がいるトラップがあったの、そこで日本大蜘蛛について調べた結果なんだけど、日本大蜘蛛の糸は腐食性の物質を全てシャットアウトするらしい。その繭玉の中は清潔そのものだと言う話だ。
だいぶ昔の資料だけど、日本大蜘蛛の糸繭から1ヶ月以上も経って生きて救出された例があった」
「え? もしかすると可能性が無くは無いと」
「そう、ただ倒すのが問題。基本的に日本大蜘蛛は火魔法で倒すのがセオリー。
糸繭も火に物凄く弱いしね。
問題はその時、中にいる人も焼け死ぬ可能性が高い事だね」
「厄介ね」
さおりが渋い顔で唸る。




