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「さて、いつまでそこで見学しているつもりだ。お前達の魔力に気が付かないわけ無いだろう。出てこい」
霧のような物が消えて男女が出てきた。
1人はレイラだ。もう1人は初めて見る顔で、40歳位のおじ様だ。
レイラの肩にカメレオンみたいなモンスターが乗っている、恐らくあのモンスターの能力で隠れていたのだろう。海外で活躍している日本人冒険者はそこそこいて、彼らの配信に海外特有のモンスターを紹介した動画もあったりする。
その中で見たのは色が変幻自在に変る霧を発生させて身を守るカメレオン系モンスター、名前は忍者。日本の忍者みたいだから、それが名前の由来らしい。
そう言うモンスターがいたのは覚えている。
「レイラか? その肩の上にいるのは忍者か?」
「そうだよ。それよりもまたあったね。二前、なんだっけ?」
「はは、コウだ。二前 宏。コウでいい。
しかし凄いモンスターを連れてるな、忍者って捕まえる事自体が大変なモンスターだろ」
「まあね」
すると男が話を遮る。
「お前が伝説のFランクか? 真美の奴もセンスがないな」
「真美? あー、あんたが日丘 克典か? あんまり日丘さんに似て無いな」
「真美を知ってるのか? 元気にしてるか」
「あんたら兄妹だろ。会って行けば良いんじゃ無いのか?」
「噂で聞いた。今は一番大事な時だろ」
噂で聞いた? 結婚して、妊娠してる事も知ってるのか。まあ、日丘さんの性格だ、会えば一悶着あって当たり前か。
「まあ、どうでも良い。それより今日は帰ってもらえるか。
あんた達がここに来るって噂が立ってる、外は警察やら何やらで一杯だ。正直、研修担当としては迷惑だ」
「そうもいかん、我々も手ぶらで帰る訳にもいかない」
「そうか、なら力ずくでもお帰り願おうか」
「レイラ、手は出すな。久しぶりに活きの良いおもちゃだ」
「闇纏い、籠手」
「ホウ? ナックルガード付きか」
「あんた、相当固そうだしな」
さっき発動した格闘術のスキルをそのままに魔力強化と金剛力のスキルをさらにかける。
縮地を使い日丘 克典に接近、突きの連打を放つ。
バンバンバンバン!!
俺の連打を避けるとこ無く日丘 克典が耐えきる。
「ふう、思ったよりも重たいし強いな。それとムラセと似てる気がするな」
「ムラセさんは俺の先生だ。似てて何が悪い」
「そうか、お前も新真大社流を。なら手加減は失礼だな日丘 克典だ。参る」
日丘 克典が刀を抜いた。日丘 鉄斎のようなあの揺らぎを見せる。日丘 鉄斎をして天才と呼ばれた男が日丘 克典だ。当然、無常を使ってくる、新真大社流の全てを知る男、それが日丘 克典だ。
無常は技の名前じゃない。人が動くには予備動作と呼ばれる物がある、歩く時は軽く体を前に倒す、足を上げる時に上げる足の反対側の肩が微かに動く、立ち上がる時に体を前に倒す。
それらは全て自然に行われる事で、バランスを取ったり動く為に必要な動きだ。
無常はその動きを最小限に押さえ、尚且つ癖や無駄な動きを完全に無くし相手に行動予測させないもの、それこそが戦争の中で達人たちが収得したもの。そして日丘の一族によってさらに昇華され、洗練された殺人術だ。
日丘 克典が俺との距離をジリジリと詰める。相手のタイミングが図れずにいる俺を日丘 克典が狙う。
日丘 克典の目が揺らぐ、とっさに体を後ろに仰け反りながら左後ろにひねる。日丘 克典の刀が俺の顔と首の辺りをかすめていき日丘 克典の動きが止まる。
「グハ」
全てをかわせずに、腹に刀が刺さっていたのに気が付けずにいた。その場に足を付いて倒れてしまう。とっさに回復魔法を腹にかけて何とか、刺された傷口は塞ぐことが出来た。
俺が立ち上がると日丘 克典が振り向く。
「止めておけ、実力差はわかっただろう」
「悪いな、俺の脳みそは筋肉でできてんだ。
今ならあんたの動きを少しは理解出来る、俺はもっと強くなれる」
縮地を使い殴るが逆にカウンターをくらい、頭から後ろに倒れる。
「まだやるか?」
日丘 克典が俺を哀れんだ顔で見る。
「もう無理、チ○コの位置もなおせなねぇ」
「ブハッ。
カッちゃんこの子面白いね。連れて帰ろうか」
「止めとけ。すでに囲まれてるぞ」
「え?」
館林 鈴蘭が辺りを見る、そしてテイムしているシルバーウルフとポイズンスパイダーが俺を囲むようにあらわれた。
「なんだ、克典、レイラ。わざわざ会いに来てやったのにつれないの。
ワシの嫌いなポイズンスパイダーなんぞ出しおって」
そう言って現れたのが柴田 円俊と秘書の森田さん、そして初めて見る男だ。
柴田のじじいが言うよりも早く森田さんがシルバーウルフとポイズンスパイダーを瞬殺する。
森田さんって現役のSランク冒険者より強くね。




