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初心者研修の日、何時ものように少し早めに来て警察官の白石さんと裁判所の広川さんと挨拶をする。
しかし今日も、ものものしい。
俺が担当する時って絶対に何かある日だよね。
今日集まったのは4人。そこにはどう見ても新人に見えないおっさんも含まれている。
一度ダンジョンの中に入り、誰もいない事を確認、その際キリーとブルーが何か気になったのか常闇の寝床から出て俺の周りを警戒し始めた。
麒麟を呼んで確認する。
「どうだ?」
「うん、あの女の魔力が残ってる。それともう1人。もう1人は強いよ」
「今の俺じゃ厳しいか?」
「正直、勝ち目無いと思う」
「わかった、一旦ダンジョンを出る。戻ってくれ」
ダンジョンを出て携帯から協会会長秘書の森田さんに電話をかける。
「あら、珍しい。二前さんじゃないですか?
急にどうしたのです」
「森田さん、久しぶりです。何か声聞きたくなりました」
「あら、そんな事を言ってるとさおりちゃんにしゃべっちゃいますよ」
「あはは。森田さん、じじいいる?」
「会長ですか? 何かありましたか?」
「ハイ」
少し間が空いて会長の柴田がでる。
「小僧か、どうした?」
「今、初心者研修で点検の為にダンジョンに入った。多分だ、日丘 克典と館林 鈴蘭がいる」
「勝てるか?」
「日丘 克典は無理だな」
「わかった」
「これから研修だ。40分は何も起きないだろう。奴らは人を欲しがってる」
「わかった。早めに行く」
そして何時ものように研修が始まる。俺が研修に来て何も問題なく研修が始まる方が珍しい。
そして物凄く珍しく俺が担当しているのに何事も無く研修が終わる。そしてあのベテラン風のおじさんは40を過ぎて冒険者として覚醒したらしい。
基本的に週末冒険者で、レベルアップが目的らしい。
「じゃあ、皆さんお疲れ様でした。
ダンジョンに入る時は出来るだけ信頼出来るパーティー(仲間)と一緒に入って下さい。何よりも生きて帰る、これが一番大事ですかね」
研修を終えて冒険者協会の職員を捕まえる。
「お疲れ様、間も無く会長の柴田のじじいが来るから、俺はダンジョンに入ったって伝えてもらえる?」
「は? 会長が来るんですか?」
「じゃ、任せたよ」
面倒な事は全て協会職員に丸投げしてダンジョンに飛び込む。
するとすでにダンジョンの雰囲気は変わっていた。
ウロチョロとしているモフモフ系モンスターがいない。凄く冷たい空間とかしていた。
「おい、隠れてないで出てこい」
そう声をかけるが返答がない。刀を取り出して、隠れているモンスターを斬り捨てる。
ポイズンスパイダーが2匹、シルバーウルフが5匹。どちらもこんな初級ダンジョンに生息していないモンスターだ。
麒麟の声が俺だけに聞こえるように話す。
「主、逃げよう。こいつら不味いよ」
その声に合わせるように攻撃を受ける。
ビシュッ!! ヒュン!!
目の前に初めて見るモンスターがあらわれた。
木のモンスター、トレントと呼ばれるモンスターだ。トレントは欧米や南アメリカ大陸に生息しているモンスターだったはず。
それも生きたまま連れてきている。
「お前が伝説のFランクか?」
そこにあらわれたのは東洋系の男だ。声をかけられたタイミングでジョブを英雄に切り替える。初心者研修の時はだいたい中級職の騎士にしている、それは新人に変な影響を与えない為だ。
改めて出てきた男を見る、まあ流暢に日本語を話す奴だ。英語をしゃべれない俺にとっては有難いけど。
「お前こそ誰だ? トレントなんて連れてきて」
「トレントを知ってるのか、なら話が早い。
俺と一緒にアメリカに来い。日本なんて小さな国を捨てて、ビックになろうぜ」
「断る」
「ああ、そうだろうな。何せアメリ…ッ? 貴様、もう一度言ってみろ」
「断る。俺はまだまだ日本を楽しみたいと思っている。
まして俺は配信しないし、他の冒険者との関係も無いし言葉も通じない所に何でいかないといけない。
アメリカに渡る理由がわからない」
「くそが、ここで死ね」
男がトレントと共に攻めてくる。
刀をしまい、戦闘術スキルを発動。男の攻撃をかわしトレントに右ストレートを当てる。
バゴン!!
「キシャーーー!!」
トレントが甲高い叫び声を上げて体が2つに割れて倒れる。その様子をぼうっと見ていた男の背中に肘を当てて倒す、ろっ骨でも折れて息苦しいのかヒューヒューと息をしながら俺を見ている。




