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出雲のダンジョンを出ると協会出張所に顔を出す。すると職員の女性が驚いていた。
「あ、あー!! コ、コウさんにさおりさん? あ、足ある。足あるよ。
い、生きてたぁ、生きてたぁ~。よかったぁ~。
うわーん(泣)」
出張所にいる職員の女性が俺達を見て、先ずは足を見た。
足があると生きてるのか? 無いと死んでいると言うことだろうか、良くわからないが俺達が生きていた事を兎に角喜んでくれていた。
「ごめんなさい、少し時間かかってしまって」
さおりが謝ると職員がさおりに抱きつく。
「さおりさん、良かった。
4日も出てこないからもう駄目だと思ってました」
そう言って泣き出す。
「本当にごめんなさい。こんな事になるならダンジョンに入るのを止めれば良かったぁ」
「いいよ。貴女が悪い訳じゃない。冒険者はダンジョンに入ったら自己責任だ。
でも、心配してくれてありがとうね」
「コ、コウさん。わーん(泣)」
そう言うとさらにさおりの胸に顔を埋めて泣き続ける。
そこで初めて職員の言葉が気になった。
「4日も出てこない」
俺達は1泊しただけだ。トータル2日のはずなにの4日も出てこなかった。
と言うことは時間にずれがあるのか? まあ、ダンジョンができて高々50年位だ。知らない事の方が多すぎるか。
俺は時計を見て時間を把握していたつもりだ。だが、3000円の時間だけを刻むだけの時計。
見落とし、いや。気付けなかったのかも知れないし、ダンジョンは時間軸その物が違うかもしれない。
出張所の職員に別れを告げて出雲支店にくる。するとさおりのお母さんが来ていた。どうやら俺達の事で呼び出されていたようだ。
「お母さん。何でここにいるの?」
「さおり、コウ君。貴女達が中々出てこないから呼び出されたのよ。
私ヨーロッパに出張予定だったけど全てお父さんに丸投げしてきたわ」
「そうなんだ。なんかごめんね、こんなに時間たってると思わなくてさ」
「日丘理事、すみませんでした」俺がそう言って頭を下げる。
「り、理事?」変な声が奥から聞こえる。
「まあ、良いわ。それより疲れてなければ中の様子を聞きたいんだけど良いかしら?」
「かまいません」
すると受付の端っこにいる俺達の所に、ダンジョンに入る前に対応した男性職員と支部長が走ってくる。
「お疲れ様です日丘理事。本日はどういった用件で当支部にお越しになられたのでしょうか?」
さおりのお母さんが不審な目で支部長達を見る。
「私が出雲支部に来ては何か不都合でもおありですか?」
「いえ、そうではありません。理事がこられる事が珍しいので」
支部長の苦しい言い訳が続く。
「確かに、外交担当理事が来るのは珍しいかも知れませんね。
ですが私は優秀な冒険者の海外流出を押さえる為に様々な支部を見て回っております。
貴方達は私がいると何か都合が悪そうですね」
「滅相もございません。
それより、そこの冒険者と何やらお話をされてましたが?」
「この子は私の娘です、宿泊しているホテルから連絡があり確認で出雲支部に連絡した所、ダンジョンに入りまだ戻らないと報告を受けて来ました」
「あ、ホテル。忘れてた、まだ料金払ってなかった」
「大丈夫です。ホテル代は私が払いました。
しかしダンジョンから出ないと報告が来なかったのはどういう事でしょう? 今回のダンジョンダイブは、出雲支部からの依頼で本部が冒険者に依頼した上で実現したもの。
2日ダンジョンから出なければ連絡があるはずですが?」
等々さおりのお母さんにチクチクとやられた支部長がすごすごと帰って行く。
その後俺達から、ダンジョン内部の報告をする。
「すみません、確認ですがボス部屋まではBランク相当。ボス部屋が秋田のダンジョンと同じSランク相当だった。
で、間違い無いですね」
「そうです」
「良く、生きて出てきてくださいました」
そう言う職員にさおりのお母さんが自慢げに話を始める。
「大丈夫よ。コウ君は秋田のダンジョンのモンスタートレインをたった1人で止めた実力者よ。
彼に何かあった時は会長達のパーティーでも対応出来ない可能性の方が高いわ」
「そうなんですか? それ程の実力者が4日もかかったとなると相当なボスなんですね、その四聖獣と言うのは」
「そうです。あの会長も逃げ出したと聞いています。まあ、コウ君とさおりなら大丈夫だったでしょう」
俺とさおりを置いてきぼりにして話だけが先に進んでしまっている。
そして協会での話が終わり空港に来た。借りていたレンタカーを返却して空港のお蕎麦屋さんで昼食を取る、ここまで来ると後は帰りのお土産の話でさおり親子が盛り上がっていた。
さおりのお母さんは、兎に角お酒が好きらしく地酒を買って帰るらしい。持てないお酒は郵送すると鼻息を荒くしていた。
さおりもお目当てのお土産があるようで食事の後、2人で空港の売店をずっと散策している。
とか言いつつ、俺も自分用に名産のロールケーキとばあちゃんに持っていくお菓子を買ったりしていた。




