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そしてこの日はしこたま飲まされた。この紅葉と言う人はおかしい。俺が日本酒を飲まないと不機嫌になるし、自分が頼んだつまみを食べないと不機嫌になるし、
俺が楽しくしてないと物凄く不機嫌になる。
俺はお酒の席が苦手だ。
上手く付き合えなくてもいい。とにかく酒を飲んで絡まないでほしい。
本当に、日丘 真美を思い出す。
二十歳のお祝いで酒を飲んで俺に絡み、こっそりと俺の部屋まで付いてきて、俺よりも先に俺の部屋に入り、侵入していた俺の親戚を発見。
その親戚に対し、精神をぶち壊す位の恐怖を与えた上で追い出したあげく、俺の貞操を奪おうとしたのだ。
そう思うとやはり日丘の一族は恐ろしい。
だってさおりの母親の日丘 瑠美の目付きがおかしいんだもの、俺を見ると獲物を追うハンターの目付きだ。
それを知ってか知らずか副会長の紅葉が、俺に日丘 瑠美を押し付ける。
「コウ君。瑠美を頼むぞ。後は若い者同士で仲良くやりなさい」
そう言ってそそくさと帰って行った。
やっぱり大人って自分勝手だぁ!!
翌日、ホテルの部屋にさおりの母親を迎えに行く。当然だがやましいことは何1つ無い。それだけは約束出来る。
昨日、さおりのお母さんは結構飲んでいたらしく二日酔いで頭が痛いと言いながら協会に顔をだす。何故か、職員達が右往左往しながら慌てふためいている所をさおりのお母さんが声をかける。
「何があったの?」
「理事、大変です。ダンジョンでモンスタートレインが確認されました。
現在、中に入っている冒険者の方達は全員ダンジョンの外に避難しています。ですが、モンスタートレインを押さえる冒険者がいません」
「発見した冒険者は?」
「まだSランク登録されて間もないの達者です、本日初めてダンジョンに入って研修中にモンスタートレインを発見、それを職員が確認しています」
するとさおりの母親が俺を見てニヤリとする。まさかな。流石にそれはあり得ないだろう、そう高を括った俺が間違っていた。やっぱり日丘の一族は恐ろしい。
そんでもって何故か今、俺は秋田の最恐最悪ダンジョンの前に立っている。ぶっちゃけ最悪なんですけど。
東京に有るSランクダンジョンと比べられない程の脅威を感じる。
「コウ君。このダンジョンって誰1人完全攻略したことが無いの。それもどこまで階層があるかも何処まで深いのかも誰も知らない、ここのダンジョンの別名はバベルの塔。誰も攻略出来ない神を怒らせたダンジョンよ」
「バベルの塔?」
さおりの母親の説明を聞いても正直にピンと来ない。
「まあいいや。
これから入ります。誰1人としてダンジョンに入らないで下さい、巻き込まれても責任は負いません」
そう、宣言をしてダンジョンのゲートをくぐり中に入る。
すると直ぐそこまでモンスターが来ていた。モンスターはゲートから出る事はないと言われているが何処まで信用できる話なのか? 正直にそれもわからない。
刀を抜いて目の前のモンスターに斬りかかる。亜人のワータイガーと呼ばれるモンスターだ。ボス的なモンスターを含め、あらかた倒しスペースを確保する。
「全員出ろ」
クリスを中心に全てのモンスターが出る。
「蹴散らせ」
その言葉に最初に反応したのがシルバーだ。
氷のブレスを出してワータイガー達を凍らせる、そこに太郎と次郎がシルバーウルフを連れだって突進。その後ろを大鎧熊とコングエイプが付いていく。
途中でクリスが何かに気付くとシルバーを止める、するとロックとからしが警戒しつつ先に出る。
ロックがドラミングを行うと一気に馬頭鬼と牛頭鬼がせめて来る、それを見たコングエイプが馬頭鬼と牛頭鬼に向かい突進。
それを追うようにキリーと大鎧熊が突進していく。
馬頭鬼と牛頭鬼をロックとからしがあらかた倒して、コングエイプやシルバーウルフ達がとどめを刺していく。
キリーと大鎧熊は楽しそうに牛頭鬼と馬頭鬼を狩り、おこぼれをコングエイプ、シルバーウルフ達が縦横無尽にとどめを刺す。
しかし流石はモンスタートレイン。そう呼ばれるだけは有る、ダンジョンに入りすでに3時間は経ったはずだ。にも関わらずモンスターが途切れないし終わりが見えない状態に流石に心が折れそうになる。
そして今対峙してるのは俺の最大勢力のウルフ系が苦手な日本鰐亀の集団だ。
「闇霧」
闇魔法の1つで、相手を霧の中に誘い込み視界を無くす魔法。これを放ち日本鰐亀達を足止めする。
「闇槍」
黒い槍が何十本も出現。一気に放つと日本鰐亀達を串刺しにしながら奥に奥にと飛んで行き、地面にぶつかり大爆発を起こした。
倒したモンスターを常闇の寝床に押し込むと、出来た足場を使いモンスターを倒し続ける。
日本鰐亀達を倒し終え、虫系モンスターを倒している時にクリスが何かに気が付く。
「オオーーン!!」
クリスが遠吠えがダンジョンに木霊する。
すると巨大な岩蜥蜴が出た、そのデカい岩蜥蜴が普通の岩蜥蜴達を引き連れて現れた。おそらくあれがラスボスだろう。
クリスが土魔法の岩槍を放つが硬い鱗に守られた巨大岩蜥蜴はもろともせずに向かってくる。
岩蜥蜴の前にいるモンスタートレインのモンスター達は岩蜥蜴が動く度に踏み潰され倒れていく。
やはりモンスター同士に仲間意識はないみたいだ、そんな巨大岩蜥蜴に何を思ったかシルバーウルフ達が向かっていく。
「おい、戻れ!!」
俺の声が聞こえたようで一度こっちをチラッと見ると巨大岩蜥蜴に向かっていった。
「クリス、ここは任せた」
クリスが俺を見て周りで倒し損ねたモンスターを中心に狩り始める、俺が巨大岩蜥蜴の所にたどり着くとすでに20匹以上のシルバーウルフがすでにやられていた。
「どけ、後は俺がやる。お前達は後ろに下がれ」
「闇縛り」
魔力を纏った何百本もの黒い腕が飛び出し巨大岩蜥蜴を縛り付け動け無くする、残ったシルバーウルフが噛みつくが、魔法で縛っているにも関わらず暴れる大岩蜥蜴に潰されてさらに数を減らす。
シルバーウルフは俺の癒しだ、彼らは俺に常に寄り添ってくれた(怒)。
沢山のシルバーウルフを失った俺は怒りに任せ巨大岩蜥蜴の頭に刀を突き刺す。さらに魔力を循環させて刀を一気に深く差し込む。
刺さった刀をしっかりと持つと頭を真っ二つにして戦いを終える。
この巨大岩蜥蜴の後ろにモンスターはいなく全てを倒し切ったようだ。
だが、ただただ残念だ。おれの癒しであるシルバーウルフを失った悲しみが俺の中で当分の間癒えることはなかった。




