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俺の代わりにさおりが文句を言う。
「あんた馬鹿じゃないの。いきなりこんな刃物で斬りつけて来て、死んだらどうするつもり!!」
「こんな奴、死んで当然だ。
こいつが龍善寺グループは全く心配無い、俺が保証するなんて言ってやがるから、みんな。みんな騙されたんだ!!
責任取れよ!! 取れないなら死んで詫びろ。龍善寺の詐欺で何人死んだと思ってるんだ」
それこそ何の話だ?
すると白石さんが確保された女を見る。
「その話も含めて警察が話を聞く。
二前 宏の名前を語り、偽者が広告塔として詐欺に加担しているのは我々も把握している。
しかしだ。本物の二前 宏の住所氏名なんかは閲覧制限がかかっている、例え親族と言えど勝手に住所等を調べたりする事が出来ない、そんなこいつの情報をどうやって手に入れたかも含めて教えてもらうか?」
白石さんの顔が般若に見えた。
それから俺と協会の弁護士との話し合いが持たれた。
その後、俺達が龍善寺グループに対し、広告塔として勝手に利用された事に関する損害賠償を求め提訴した事が、マスコミ関係者の耳に入りさらに大騒ぎになったのは言うまでも無い。
この問題の記者会見が開かれ弁護士3人が俺に代わり対応。その映像を家のテレビで、さおりとさおりの両親と4人で見ると言う訳の分からない状態になってしまった。
しかし、弁が立つから弁護士なのだろうか?
説明の上手さや、質問の切り抜け方なんかは頭が下がる思いだ。俺があの場にいたら何かしら関係無い事でも肯定してしまったかも知れない。そう言う誘導尋問がいかに多いか!? 本当に驚いた。俺には無理だ、それが感想だ。
テレビを見ていたさおりパパがぼそっと感想を言う。
「しかし、コウ君は一切配信してないのに、どの冒険者の方達より有名だね。
顔が表にでないかたまに心配になるよ」
「やっぱりそう思う、私もコウ君の顔が出るじゃないかと思って何時もドキドキしてるの。
おまけに学校でもコウ君の話題って結構出るんだよね。今、最も彼氏にしたい冒険者で顔出しNGなのに常にトップスリーに入ってるんだよ。凄いよね」
さおりが何故か自慢気だ。
そこにさおりママが乗っかる。
「あらやだ。やっぱりほっとけないわね」
さおりをはじめ3人の目が俺に集まる。が、俺は有名になりたくない!!
もう一度言う。俺は有名になりたくない!!
後日、龍善寺 信吉とグループ会社の役員を含む13人が詐欺容疑で逮捕された。やっぱり10年前と同じように上手く行くと思って俺に近付いたんだろうな。
馬鹿だよな。あんな仕打ちうけたら誰だって警戒するし、俺も色んな伝手を使って対抗措置だって取るのにな。
まあ、詐欺をやらかしたんだ。相応の責任は取らないとね。
さおりの夏休みも残す所後わずかと言う時に、秋田にある冒険者協会秋田支部よりお誘いの連絡があった。
内容は秋田のSランクダンジョンに入らないかと言う事だった。
秋田のダンジョンは許可制で、許可証がないと中に入れないようになっているらしく誰でも彼でも入れるものでは無いらしい。
さおりも学校があり、秋田に行くにもまとまった休みが必要だ。
そこでさおりの両親と話し合いで許可証だけもらう事にして、実際にダンジョンに入るのは大型の連休にでもと言う話になった。
その処理の為、俺とさおりの母親の日丘 瑠美と2人で秋田に行き、翌日に秋田から帰ってくると言うスケジュールが組まれた。
しかし良いのだろうか。俺はDランクダンジョンと都内のCランクダンジョンしか完全攻略していない。そんな奴が秋田のSランクダンジョンに入っても良いものだろうか? 心配になってしまう。
支部に付くと何故か歓迎ムードだ。
「お待ちしてました、理事」
「わざわざお招き頂いて有り難うございます、副会長」
そんな挨拶の後で紹介をうける。
「コウ君。この方が紅葉 龍美さん。冒険者協会の副会長で、会長 柴田 円俊とパーティーを組んでいた、最強の冒険者の1人よ」
「初めまして、二前 宏と言います」
「君の事は柴田から聞いてるよ。
私は軍神と言うスキルを持っている。最初に君達がダンジョンに入る時は僕が案内しよう」
軍神。このスキルは物凄く優秀なスキルだと聞いた事がある。
戦闘力として見るとAランクの能力なのだが、戦略や知略に優れ、敵対する相手の能力や戦闘力等を見抜く力があると噂され、そして対戦している敵味方の全ての状態を正確に把握していると噂されている。
噂と言っているのはこの程度の事しか誰も知らないのだ。本当の能力は本人以外には誰も知らない。
この軍神の能力で会長の柴田 円俊と共に様々なダンジョンを制覇してきた最強冒険者の1人だ。
あえて自らは東京の本部に入らず、協会副会長の立場でありながらここ秋田のダンジョンを守っている。
「貴方が守り神?」
「はは、ずいぶんと古いあだ名を知ってるね」
「一度、父から聞いた事が有ります。
父が若い時、大変お世話になった人が守り神と呼ばれていたと」
「そうか。
たが昔の事だ。
それよりも秋田は初めてだろう。旨い物も多いし、何より旨い酒の宝庫だ。
瑠美、コウ君、飲みに行こう」
「待ってました。
本当、会長も来れば良かったのに。いつも旨い酒が飲みたいって騒いでいる癖に」




