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数日は何処にも出掛けずに部屋に籠っていた。
「コウちゃん。私携帯持つことになったの。コウちゃんも一緒に見に行こう」
そう言って部屋に押し掛けて来たのは今の俺の唯一の友達、さちえちゃんだ。
何故かここ最近はさちえちゃんの両親も含めて買い物に行く機会が増えた、最初は俺の事を物凄く警戒したが一年を過ぎる頃には仲良くなってきた。
「ねぇねぇコウ君。この間借りたレシピ本、まだ借りてて良い?」
そう話しかけて来たのがさちえちゃんのお母さんだ。
「え、良いよ。
後、最近試した料理のレシピをノートにまとめたけどそれも使う?」
「いいの? 助かるわ。
うちの人、コウ君の味にはまってさ。自分でもたまに料理作るようになったのよね」
レシピ本は俺が料理人のジョブの時に作ったレシピを、忘れないように全てメモして種類分けをした物だ。そこに完成した写真を張ってしまっていたのをおばさんが発見。
コウのレシピ本と言って使っているのだ。
「しかし、コウ君に旦那の胃袋をつかまれるとは。ライバル、ここにあらわる」
「おばさんやめてよ」「ママ、変な事言わないの」
俺とさちえちゃんの言葉にハッとした顔になっていた。
携帯ショップでさちえちゃん達が携帯を見ている間に俺も機種変更を済ませる。
最新のスマホに変更してみた。
するとさちえちゃんとおばさんが何やらバトルを初めていた。
「さちえ、SMSはお母さんと一緒の時だけ。そこはロックをかけるからね。
その約束守れないなら、わかってるね」
さちえちゃんが負けて了承する。おばさんのパワープレーに負けてしまったようだ。
さちえちゃんは項垂れてはいたが、スマホを買えた事は嬉しかったようで終始ご機嫌だった。
そこで2人と別れ1週間ぶりに冒険者協会に来た、2人のお陰でだいぶ気持ちも落ち着き少し頑張れそうな気がして来たのだ。
受付の奥から俺を発見した日丘さんが俺をロックオンする、気配を消して後ろからそっと近付くと羽交い締めにされる。
「おらぁ、コウ。
てめぇこの私に顔を出さずに1週間も何やってんだ、ああぁ(怒)
まさかと思うが、女つくってねえよな」
「日丘さん、まったまった」
そう言ってタップするが離してもらえなかった。たがその背中に当たる温かく柔らかい感覚が離れない事に喜びを覚えてしまった。
「コウ、まだ二十歳になってない私を傷物する気か? 責任取れよ」
そう言って後ろからふくよかな胸をより強く押し当ててくる。
「日丘さん、ごめんなさい。今度からもっと顔見に来るから許して」
「おい、日丘。お前Aランクなんだぞ、その辺で離してやれ」
「留萌課長。この位なら死にません。コウで試してみましょう」
「いや、日丘。コウ君をみろ。本当に死にそうだぞ」
そして解放された俺は一気に空気が体に入り一命を取り留めた。
冒険者協会の職員の多くは元冒険者だ。現役で冒険者をしている人もいるが、そう言う人の方が少ないのかもしれない。
日丘さんはAランクの冒険者だ。以前パーティーでダンジョンダイブした際、左膝を損傷。リハビリを兼ねて冒険者協会で働いている。
そして留萌さんと日丘さんも二次覚醒者だ。
俺と違い二次覚醒した時に物凄く強いスキルを得た。留萌さんのランクは聞いた事が無いが、日丘さんは二次覚醒とともにAランクに移行したのだと言う。
何時ものブースに来てから日丘さんが落ち着いて話す。
「本当にいつも言ってるでしょ。何がなくても必ず1週間に一回は顔を出しなさいって」
「ごめんなさい」
素直に謝ると少し嬉しそうな顔をして俺を見る。
「で、何処まで潜ったの。ボスは行けた?」
「うん」
イベントリから、コボルトの魔石を2個、ロックロック(通称 亀さん)の魔石を1個だす。
「こっちはコボルトね。それでこっちは・・・・
あんた、1人でロックロックの部屋にも入ったな!!」
怖い顔で睨む日丘さんをみて小さくうなずく。
「はぁ コウ。
私が心配している事は理解してるんだよな?
私は凄く凄く心配してるの。
貴方がパーティーを組まない理由は知ってる。あんな大人の汚い部分を見せられたら人間不振になる。
だから慎重にって言ってるの。それは理解しているな」
「わかってる。でも…」
「でも、なに?」
日丘さんが向かい合って座る席を立ち、俺の前に来る。すると俺をハグした。
「コウ、これ以上心配させるな。私が老けるだろう、お前これ以上私を老けさたら責任取らせるからな」
責任? え、俺日丘さんとお付き合いするの、変な事を考えたら顔が熱くなってきた。
って、あるわけ無いか。パーティー組めとかそう言う話だろうな、一緒にいれば安心するだろうし。
「それと、お前私に言ってない事があるな」
そう言って抱きついたまま、顔を近付ける。
「お前、あれイベントリだよな? いつ身につけた?」
話す度に日丘さんの息が顔に当たる。恥ずかしさで顔が熱くなる。
「あの、日丘さん」
「なんだ? 逃がさんぞ」
「あの、嬉しいんですが。少し離れません」
「そ、そうか嬉しいか・・・・・そんな真面目な顔で言うな、照れる」
そう言うと日丘さんが離れる。
「俺のスキルについてはお話出来ません。ですがイベントリは俺のスキルの一部です。
確かに物凄く貴重な物だと認識はしています」
「それを知っているのは誰だ?」
「今は日丘さん1人です」
「わかった。絶対に他の奴には見せるな、私も今後一切この事には触れる事はない。
それでこれは今日の売上だ。
そろそろ自分の武器を準備しないか? ボスを倒せる位だ。レベルも300は超えただろう」
「いえ、俺のスキルはレベルがMAXで300なんです」
「なに? カード見せろ」
カードを出す。カードを見た日丘さんがホッとした顔をする。
「本当なんだな。わかった、なら無理はしないな。
ちょっと安心した。
私達みないに危険な目に会わなくて良いんだな。良かったよ」
「危険な目?」
「初級レベルのダンジョンをDランクダンジョンと言う、初めて冒険者になった奴でも問題なく入れるダンジョンだ。
だが、Cランクのダンジョンからモンスターのレベルがはね上がる。
普通のモンスターが初級ボスクラスになる。
そして階層を上がる事にモンスターが強くなっていき、ボスにいたってはレベルが5000も必要になるモンスターもいる。
冒険者はそんな所まで行かなくても十分に食べて行ける。
いいか、コウ。お前が私をどう思っているか知らない。でも、お前が亡くなると悲しむ者がここにもいると言うことを知っておけ」
思わず声がつまってしまう。
「日丘さん、それはずるいよ」
日丘さんと別れ協会内の武器を扱うエリアに来た。
冒険者協会の中にある武器と防具の専門店、日本刀や剣、単刀、投擲ナイフ等々様々だが、唯一銃火機だけがない。
ダンジョンの中に鉄砲等の銃機を持ち込む事が出来ないのは不思議な事の1つでもある。
ダンジョンができた当時、自衛隊とアメリカ軍が銃機を持ち入ろうとしたが銃機が弾かれてしまう。
外から銃弾を打ち込むがダンジョンの中に玉が入る事すらなかったのだと言う。