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「この伝説のFランクにお姉ちゃんは襲われた、私はその敵をうつ」
お姉ちゃん? 襲われた? 良く分からないが、その突然の言葉に周りが騒然とする。
すると白石さんと広川さんが駆けつけてきた。
「その話、私達が聞きましょう。
私達は警察の冒険者係と裁判所の冒険者係の者です。私達が話を聞きます」
「今さら何ですか?
警察や裁判所に相談に言った時は何も話を聞かなかったくせに」
ルミちゃんと呼ばれる子が興奮ぎみに文句を言う、するとルミちゃんと呼ばれる子を囲むようにファンだろう男達が取り囲む。
「どうでもいいが、機材チェックが終わらない限りダンジョンには入れない。この2人と少し話をした方が良いんじゃ無いか?」
「「「あーー!」」」
ファン達が騒ぎ始めると、協会職員が来る。
「貴方達、貴方達が邪魔するなら、ムシャ ルミさんは冒険者資格の剥奪とダンジョンに入る事を禁止します。
よろしいですか?」
すると男達が協会職員に食って掛かる。
「止めなさい。私は研修を受けに来たの。邪魔しないで」
「「「「ルミちゃん」」」」
「だから邪魔しないで。これは私がけじめをつける」
どうでも良いけど、お姉ちゃんを俺が襲った? 何の事だ?
それが良くわからん。自慢じゃないが俺は人とほとんど絡まない、絡みがあるとしたらさおりと協会受付のサナエさん位じゃないか。
カメラ等を確認した白石さんと広川さんが俺の所に来る。
「コウさん。少しよろしいですか?」
2人に呼ばれ会場の控えテントに来る。
「コウさんにお伺いします。武者 咲さんは知ってますか?」
「いや、知らない」
「冒険者のパーティー、英雄の姫と言うパーティーは知っていますか?」
「いや、知らない」
「配信者の名前で レイ。ミル。サキと言う名前は聞いた事はありますか?」
「いや、無い」
「ダンジョンの動画配信に伝説のFランクと言う名前でコメントを送信したことはありますか?」
「過去に一回だけ。リーダーがエンジェルリバー。魔法使いマットサイエンス、正騎士パンプアップ。この3人が配信している動画だけだ。だいぶ前に一回、出した事がある」
「その3人とお会いしたことは?」
「わからない。
この3人は顔出ししない配信者だ。だから会ったかも知れないし会ってないかも知れない。
相手が俺を知ってる可能性はあるけど、俺がこの3人を認識はした事はない」
「わかりました。
最後です。伝説のFランクと言って誰かと会ったり誰かを誘ったりという事はありますか?」
「無い。そもそも俺が伝説のFランクと名乗った事はないし、伝説のFランクの呼ばれる事自体が嫌いだ。冒険者協会の日丘さんが俺をからかう為に付けたあだ名ですよ」
「わかりました。準備ができ次第、研修を始めます」
テントから出てダンジョンの入り口を見ると人がこっそりと入るのを確認、慌てて気配遮断スキルをかけてダンジョンに入る。
すると複数の人間が望遠レンズを付けたカメラを持ち、少し離れた隠れる事が出来るポイントから入り口を狙っている。
「からし、出ろ」
常闇の寝床からからしが出る。
「あのアホ達をここに全員連れてこい、間違っても殺すなよ」
「オオ」
からしがダッシュで隠れている連中の後ろに回る。
そして入り口を見て今か今かとまっている男の肩を軽く叩く。
「なんだよ、うるさい」
再度叩く。
「うるさい。今大事な所なんだよ」
再度叩く。
「うるせぇっ あ!!
あ、あの、ど、どちら様でしょ、しょうか?」
「オガーーー!!!」
からしの雄叫びに中に入った冒険者達が一気に出口に向かって走り始める。
そこを挟むように大鎧熊を出す。
「オイ、こいつらを捕まえろ」
「ガガー!」
大鎧熊が逃げてきた奴らを威嚇する。中に入ったやつは全部で6人もいた。
からしが戻るとカメラ等の機材をからしが集める。
それから大鎧熊が一人一人の匂いを嗅ぐ。少しでも怪しい物があれば軽く噛んで取り出すように促す。すると出るわ出るわ。カメラが10台、パソコンが3台、録音機材が4台、その他、メモや筆記用具等々様々だ。
それをからしが持つと、バキバキ、プシュッシューと音をたて粉々になる。だいぶ優しく掴んだはずだが機材全てがバラバラに壊れてしまい、からしが俺を見て笑って誤魔化している。
その時、異変に気付いた協会職員がダンジョンに入って来て固まる。取りあえずからしと大鎧熊をダンジョンの奥に行かせる、直ぐに職員が中にいた冒険者達を連れ出して逃げて行く。
「オイ、直ぐに戻れ」
からしと大鎧熊に命令すると常闇の寝床に消えて行った、俺もそのままこっそりとダンジョンを出て人がいない所で気配遮断スキルを解除する。それから会場に戻ると協会職員達から捕まってしまった。
「コウさん、中に大鎧熊がいました。後、鬼のようなモンスターもいたんです」
ごめんなさい全て俺です。心の中で謝りつつも言葉では全否定する。
「何言ってるんですか。初級ダンジョンですよ」
「本当です。中からおかしな音が聞こえて入ったらこの6人が殺されそうになっていたんです」
「はぁ!? まあ、わかりました。一度俺が中を確認します。
それで何でこの6人はダンジョンの中にいたのですか? その確認は取りました?」
職員達がハッとした顔をしている、マイクを手に取って研修参加者に話をする。
「今、不正にダンジョンの中に入り、撮影を行おうとした者がいた。今回の研修は取り止めとなる。撮影を行った者は冒険者資格の停止と裁判を受けてもらう事になる。
それから、この撮影の為にダンジョンに入った6人の関係者と判断された者も同様に冒険者資格の停止と裁判を受けてもらう事になる。
毎回思うが非常に残念だ。
たった一回、今日この日を我慢すれば良いだけなのにその我慢が出来ない。他の奴も次回の研修までお預けだ、非常に残念だよ」




