◇
諏訪のダンジョンを昼前に出て、その足で道場に真っ直ぐ向かう。夕方になり道場に付くと留萌さんが俺を待っているらしいく呼ばれてしまう。
「コウ。留萌さんが来てる、なんか緊急事態らしいよ」
ムラセさんが俺を見ているニコッと笑う。興味を持たれたようだ。
客間で留萌さんが待っていた。
「コウ君!! 突然すまない」
「いえ、留萌さんがそこまで慌てていると言う事は親戚ですね?」
「うん。龍善寺さんだ。覚えているかい?」
「ハイ、弁護士を連れてきて両親の財産を全て持っていった張本人ですから」
「悪いが協会に来て欲しい。協会弁護士や日丘理事も揃っている」
さおりのお母さんが?
良く解らないが、留萌さんを乗せて俺の車で1度協会の裏手にある自宅に戻る、それから歩いて協会に行き裏口から入って会議室に移動。
すでに弁護士2人と、協会理事の日丘 瑠美、外交担当者の日丘 岳人、そして日丘 さおりがいた。
この場にさおりは必要ない気がするけど。
「コウ君。早速で悪いがこれを見て欲しいの」
さおりのお母さんの日丘 瑠美から手紙のような物を渡される。
中身はアメリカ最大の冒険者クラン。ギャラクシー イレブンからのお誘いだ、そしてそこに叔父に当たる龍善寺 信吉からの推薦と書かれてあった。
さおりの父親の日丘 岳人から質問が出る。
「コウ君。龍善寺と言うのはホテルチェーンの龍善寺グループで間違いないのかな?」
「そうです、約10年前に俺の両親の遺産をほぼ全て吸い上げた奴です」
「そうか。まあ君に聞くのも何だけどアメリカに行くつもりは有るかな?」
「無いですね。観光に行きたいという気持ちはありましたけど、これで観光に行くと言う選択肢も無くなりましたね」
龍善寺グループは倒産目前と言われた10年前に突如として奇跡の復活をとげた、その立役者が龍善寺 信吉だ。
なんて事は無い。俺の両親の事故の後、両親が持っていた会社の株式や資産、個人資産の全てを龍善寺が不正に全て取得。両親が亡くなったのを確認した後に会社を乗っ取り会社ごと全て売却。
その他の俺に相続されるはずの個人資産等もお抱えの弁護士達を使い自分に有利になるように全て自分の物にしたのだ。
その総額は何と30億円近い額だと聞いている。
そして両親の会社等の保有株式を不正に龍善寺に渡した男が、今では龍善寺グループのグループ会社の1つで社長をしている。
おそらく俺の両親の死もこいつらが何かしら関与してる、俺はそう考えているが何の証拠もない。
多額のお金を元手に傾いて倒産を待つ龍善寺グループを建て直したと言われてはいるが、略奪したお金で15億円を超える負債を全て支払い、残ったお金でホテルの全面リフォームなんかをしただけ。それだけだ。
弁護士が話を始める。
「今回、我々からお断りをいれたいと考えています。
我々が掴んだ情報によると、龍善寺グループを支援する代わりに優秀な冒険者の情報を求められ、最近Aランクに上がったコウさんの情報を提供したと聞いています」
「では、お金が渡ったのですか?」
日丘 岳人が弁護士に確認する。
「いえ、おそらくコウさん本人がアメリカに渡り、優秀だと判断されてもお金は出ない可能性の方が高いでしょう。
彼らは冒険者自らが自分の意思でアメリカに渡った。そう言いきるはずです。
ギャラクシー イレブンはそう言う組織ですからね、龍善寺グループはここ最近また倒産の危機に陥っています。そこに目を付けられたのでしょう、お金が支払われたと言う話は出ていません。
ギャラクシー イレブンは棚からぼた餅を期待しただけです。ただで優秀な冒険者が手に入る可能性がある。
その為にただ餌をまいたに過ぎません」
その後、今後の対応についても様々話し合われた。
話も終盤になり、そろそろお開きか。そう思った時に協会理事の日丘 瑠美からとんでもない話が飛び出した。
「ところでコウ君」
「なんでしょう?」
「貴方、さおりの事どう責任取るつもり?」
「せ、責任? 俺は何もしてませんけど」
「言い方を変えましょう。さおりとパーティーを組むつもりは無い?」
何の事だ? 突然、責任取れだのパーティー組めだの。
「返答の前に理由を聞いても良いですか?」
俺の言葉を遮るように日丘 瑠美が話しを始める。
「本来なら、コウ君に護衛を付けたい所なんだけど、それは大変だし色々と面倒なのよね。
それでパーティーのメンバーとしてさおりと一緒に行動しない? さおりの実力は知ってるでしょう。
それにいつも、さおりから付き合おうだの結婚したいだのと言われ続けるのも嫌でしょ。私達の公認と言う事で一緒に活動してみたら」
は、公認? 何を言ってるんだこいつは?
「正直に、俺のスキルは人に見せられない物が多い。それを踏まえた上で今は護衛はいりません」
「でも、後々は必要よ。貴方が何処に行くにも一人での活動は認められない、貴方はSランクを越える力がある。
今ですら、Sランクの私と遜色無いくらいの能力。いずれ世界中に知れわたるわ」
「それはそうなったら考えます。
それからパーティーも今はいりません、さおりが俺と一緒にダンジョンに入るとなると学校を休まないと行けない。
それは俺的には許せないです。
今、学校に行ってるならちゃんと最後まで通うべきだし、もし高校を卒業して進学したいなら進学もするべきだと考えてます」
「私も少しよろしいでしょうか」
そう声を上げたのは弁護士の一人だ。
「コウさんは中卒です。高校は親戚の方達が勝手に辞めさせました。
理由は学校にお金がかかるから、その為です。
コウさんと一緒にいたいと思われるなら、ご自身に何ができるか何がコウさんの思いか。そこをしっかりと見極めるのが良いかと思います」
「でも、それじゃいつまでもっ」
さおりの言葉を父親の日丘 岳人が遮る。
「わかりました。高校の卒業は約束します。
それとさおりの成績なら大学まで行く事はできます。コウさんは今後を考えるとさおりが大学まで出た方が良いと、そう判断されたのですね」
「そこまではわかりません、俺は高校に1ヶ月程しか行ってないですし。
ただ、学校に行ける環境なのだとしたら行ってもらいたい。そう思ってます」




