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(この回は長いです。予め)
次の日、また諏訪市のBランクダンジョンにくる。朝の8時前だと言うのにすでに近くの駐車場まで一杯だった。
週末冒険者の方達だ。要は、普段は一般の会社等で働いて週末だけ冒険者をする人達の事で、この人達はある意味観光気分でダンジョンに入る事が多い。
時折ダンジョンの比較的安全な場所でご飯を食べて帰ると言う人もいる。我々専従冒険者とはある意味相いれない人達だが、それを否定するつもりは全く無い。俺も出来るならそうしたい位だし。
週末冒険者の人達とかち合わないように、ダンジョン地図を見て中程の階層まで一気に移動する。その階層は鬼が出る、そう言われ上級冒険者とそれ以外の冒険者を分ける階層なのだと言う。
おまけにこの階層の入り口にお地蔵様がまつられていてさらに恐怖を誘う。余程、死者を出したのだろう、勝手にそう解釈した。
これがダンジョンの演出でない事を思わず願ってしまった、ふとさおりを見るとさおりも緊張した顔だ。
「さおり、もしかと思うけど二日酔いか?」
「そんなこと有るわけ無いでしょ。昨日は飲んでないよ」
「なら、行こうか」
それもそうか、俺と一緒に買い物いったから酒とか買わなかったもんな。鬼が出ると言われるダンジョンを進むと、それに合わせて俺達を付けてくるパーティーの存在を把握する。
さおりを見ると頷く、さおりも付けてくる奴らを認識しているようだ。
地図を見ながら相談して先を進む、どうやら鬼達に嵌められたようだ。余程頭の良い鬼がいるか初めて入った俺達には分からないルートがあるのか。
そして俺とさおりは広場のようになった十字路の真ん中で立ち止まる。
「やられたな」
「う~ん。でも仕方なくない、私達初めてだし」
すると俺達を付けてきた15人程度の冒険者が集まって来た、こいつらは分かりやすく新人狩りのような奴らだ。だが、俺達の心配は全く別で鬼に囲まれた事だ。初めて対戦するモンスター、負けるつもりは無いがやっぱり緊張する。
「へへ、カップルか? おい、金目の物はおいて行け。そしたら男、お前だ。てめえだけは許してやる」
「俺だけは許すって、アホじゃねぇ。
こいつら鬼に囲まれてるってこと自体理解出来て無いらしいよ」
「ちょっとそこぉ? コウ君、私の事は心配じゃないの? 何か酷くない?」
「え? おま。まさかこんな連中に負けるつもりか?」
「いや、そんな事は100%無いけど」
「だろ。やっぱり心配は鬼だ、奴ら相当強い鬼を連れてきてるぞ」
「「てめえら」ふざけるなよ」
複数の新人狩りのメンバーが騒ぐ。もう見るからにこんな事を繰り返した来たのだろうな、あからさまに武器を肩に担ぎ脅してくる。
新人狩りの連中を相手にしている中で4つの通路全てを鬼が塞いでしまう。
「あ~あ、お前ら逃げるチャンス逃したな。こんな危険な状況も理解出来てないだろう?」
「ゴオー!!」
すると威嚇を兼ねた鬼の雄叫びが通路内に響き渡る。俺達を付けてきた15人の冒険者達が動きを止めてよろめき立って、恐怖にかられしゃがみ込む奴まででてきた。
「あ~あ、来ちゃったよ。お前ら、死にたくなければ動くなよ」
俺は鬼と聞いて昔話の赤鬼と青鬼を想像してたが全く違った、肌色の体にひたいからはえる黒光りした角。2mを越える体躯に筋肉質な体。
はっきりと分かる、スピードよりパワー重視だ。そして固く延びたその爪だ。まるで鉄をも裂いてしまうかのように、その爪がダンジョンの壁にめり込んでいた。
「さおり、先に行くぞ」
直ぐ様、ジョブを騎士に変更。一番最初に来た鬼の所に向かう。その時、新人狩りの3人位を体当たりで吹き飛ばすがそのまま鬼と対峙する。
さおりが大きな声で俺を呼ぶ。
「コウ君、こいつら守る気なの!」
「こいつら死んだらその遺体運ばないと行けないし面倒なんだよ」
そう返事をして鬼に向かう。縮地を使い、鬼を目がけ距離を詰める。最初に通路から出て来たのは5匹、手前の鬼の首をめがけ刀を振り下ろす。
「ゴアーッ」
叫ぶ鬼の首を切り落とし先頭の鬼を倒す。
手前の鬼が倒れると他の通路の鬼も俺をめがけて押し掛けて来る、俺の真後ろから来た鬼はさおりが対峙したようだ。
それから倒した鬼の真後ろ、呑気な顔をしている鬼にめがけ飛び込み胸を刀で深々と刺す。戦闘の準備が出来ていなかったのか、鬼が俺と自分の胸を交互に見た後に倒れる。
それからマジックマスターにジョブをチェンジ。
近くに入る残り3匹の鬼に対し魔法をはなつ。
「火炎」「風切り」「水弾」
「「「オガー!!」」」」
その様子を見た他の鬼達が俺になだれ込むように攻めてくる、1対多数。マジックマスターのまま風魔法を放つ「風切り」「風切り」「風切り」
その後、残り3匹になった所で火魔法をぶっ放す。「火炎槍」「火炎槍」「火炎槍」連続で火魔法を放ち鬼を仕止める。
結局倒した鬼達は全部で20匹。俺の真後ろはさおりが倒してくれていた。
すると満を持して鬼のリーダーが来る。
俺達を狙っていた新人狩り達が座り込み大人しくしていた。
「さおり、ボスをお願い」
「はぁ? 最後までやならないつもり?」
「しょうがないでしょ。MP切れ」
「昼飯、それで手を打つ」さおりが、ドヤ顔をする。
「そ、なら。全滅だな、さおり今までありがとうな」
そう言って手を合わせさおりをみる。
「クッソ!!」
何か口が悪いな、そう思っていると。鬼のボスが来た、こいつはでかい。普通の鬼が2mサイズ。ボスは3mを越えるサイズに見える。
まるで歩く要塞だ。
「鬼がしらだ!」
新人狩り達が騒ぎ始める。
「おい、鬼がしらってなんだ?」
新人狩りの1人を捕まえて聞く。
このBランクダンジョンのユニークモンスターらしく、所謂レアモンスターなのだと言う。滅多に出ることの無いモンスターでこのモンスターに目をつけられたら最後、ダンジョンを出るまで追いかけて来るらしい。
この鬼がしらを倒せるのはAランク上位か、それ以上でないと駄目なようで新人狩り達が震えてしまっている。
さおりを見ると鬼がしらと対峙していたが、さおりは緊張もなく自然体だ。さおりが居合いの構えを取り、そのままジリジリと距離を詰める。
鬼がしらは警戒してか動かない、ゆっくりと手に持つ木の棒を上段に構えた。
こうなると勝負は一瞬だ。初手で決まる。
さおりはそんな鬼がしらを相手に一歩も引くところを見せない、やっぱりさおりって相当の実力を隠してるよね。
そう思う。
それからどの位の時間だろうか、息が詰まるような長い時間が突然と崩れる。鬼がしらが少し動いた、おそらくしびれを切らしたのだろう。すると鬼がしらが木の棒を振り下ろす、さおりはその動きを見きって木の棒をかわし一気に抜刀。
鬼がしらの体を一刀両断する。
「ふう、思ったよりたいした事無かったわ」
さおりが涼しい顔で言う。
え? たいした事無かったですか? 流石に俺も驚いてしまった。
それから倒した鬼達の魔石や鬼の角を拾い集めつつ、俺達を襲ってきた冒険者達の足首を半分ほど斬って回る。
斬った後で血が出ない程度に回復魔法をかける。新人狩り達が俺達を見る目が完全に死んでいた、よっぽど悪い奴に声をかけたと思っているんだろう。
「ねえコウ君。足首斬ったりすると歩けないでしょう。どうするの?」
「そんなの決まってるでしょう。全員協会に付き出すよ」
「どうやって?」
「あ、心配いらないよ。全員引きずって行くから」
そう言うと初級職のポーター(荷物持ち)にジョブを切り替え、インベントリからロープを出し俺達を狙った冒険者の全てを縛り付ける。
後はポーターのスキルだ。こいつら全員を荷物だと認識して引きずってダンジョンを出る。すると不思議な事に、捕まった連中を難なく引きずって歩く事が出来た。
引きずられている連中は、体中が擦り傷だらけだ。途中で他の冒険者達が俺を見てあたふたとし始めていた。他の冒険者達が騒いだのだろう、ダンジョン出口近くまで来た時にダンジョン前にある協会の出張所の職員が走って来た。
「すみません。この人達が何をして、どういう経緯でこのように引きずられてか教えてもらえますか?」
そう言われて全てを報告。
「実際に証拠となる物はありますか?」
「有るよ。これ。
俺は新人研修も担当している、だからいつも何処に行ってもこの録画機材は付けてダンジョンに入らないといけない」
ごめん、嘘付きました。本当は初めてのダンジョンだから記録残そうと思っただけです。
俺が録画機材をだして録画内容を職員に見せる。
「この録画機材を我々に渡してもらうことは出来ますか」
「無理、必要なら裁判所か協会本部で確認してちょうだい。俺が録画したものは協会本部と裁判所で映像記録として全て残るからさ」
ごめんなさい、これも嘘です。正直に警察と裁判所の二つの機関に提出するつもりはありません。
だが、そう言われ職員が慌てる。
「悪いが俺は警察や裁判所とは良くやり取りをしている。今回のこいつらの証言や行動を撮影した物は、協会本部、警察、裁判所に提出の上で告発させてもらう予定だよ」
「あ、あの。録画をもう一度確認しても良いですか?」
「かまわない」
そう言うと再度見せる。
「やっぱり。レアモンスターだ!
それも初めて映像で捉えたんですね。凄いです!!」
「ああ、あの鬼がしらか、こいつらが言ってたモンスターの事?」
「ハイ、そうです」
「それならさおりが倒したぞ」
「さおりさんと言う方は、お連れの女性の方ですか?」
「ああ」
さおりも頷く。
「申し訳ございません。この機材を持って諏訪支部まで来て頂く事は出来ますか?
このレアモンスターは過去一度も倒された事が無い上、画像として捉えられたのも初めてなんです。
よろしければ画像を調べたいのですがよろしいでしょうか」
さおりが行っても良いと言うので了解する。
その後応援で駆けつけた協会職員と指定冒険者に新人狩りを預けて諏訪支部に来る、改めて俺が録画した画像を見た職員が俺を見る。
「コウさん。疑う訳ではないですが協会カードを出してもらえますか?」
協会カードを出す。相変わらず俺のカードは
名前 二前 宏
職業 剣士Lv 300
としかついていない。
そのカードを見ながら何かをパソコンに打ち込む。
「ありがとうございます。
担当が東京支部の留萌ですね。確認させて頂きました」
その後はかなりスムーズだった。倒した鬼の魔石や角等も全て卸す。
「お二人はこれから何か予定はありますか?」
「「いえ」」
「観光はされますか?」
「ハイ、昨日は諏訪神社や夜景の見える公園なんかを観光しました」
「うなぎは食べました?」
さおりと顔を見合わせる。
「なら、諏訪湖の観光汽船とうなぎをお勧めします。
この辺はうなぎの名産なんです。あと隣の岡谷市も同じようにうなぎの名店が多くあります」
「うなぎ?」
さおりの目の色が変わる。
「わかった、終わったら行こう」
「うん♡」
さおりって、本当に17か? 若者が飛び付く食べ物じゃないよね。




