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今日は初めてCランクダンジョン来る、双頭の大蛇がボスのダンジョンに来たみたがダンジョンの前に人がいない。通常はどんなに寂しいダンジョンでも人はそれなりにいるのもだがそこに驚きを覚える。
このダンジョンはよっぽど人気の無いダンジョンなのだろう、勝手にそう思って覚悟を決めると。ダンジョンの中で俺を出迎えてくれたのはなんとアンデッド系モンスターだった。
墓場があり、骸骨やミイラのようなモンスターがあからさまにうようよとしている。
その匂い、見た目、倒した時の罪悪感は何故か半端ない。
俺が間違えているのだろうか? 何か出てくるモンスターが亡くなった方々に思えて来てしまって躊躇してしまう、何と言うか俺が墓荒らしをしているような気分になって来てしまう。
咄嗟に気持ちを切り換える為にジョブをマジックマスターに切り換える。ジョブの影響だろうか、死霊系モンスターを見ると救ってあげないと行けないような気持ちになってしまい、全力で回復魔法をかけまくる。
もう気持ち的には哀れな魂を救ってやろう的な感じになっていたと思う、回復魔法を受けた骸骨やミイラが煙となって消えていく。それを見て思わず手を合わせて御冥福をお祈りする。
話しが変わるが冒険者で回復魔法を得意とする者は数が少ない、ましてや現在知られている中で聖女的な能力、つまり聖魔法を持ち扱う事が出来る者は日本に1人しか確認されていないと言われている上に、その存在も良く分かっていないのが実際だ。
ましてや俺が使える回復魔法もたいした事がない。俺も正直、回復魔法や聖魔法に対して憧れは有るけど現実は残酷で現在日本で聖女のスキルを持っているのはよぼよぼのお爺さん、その人ただ1人だけだ。
そう、何故か聖女というスキル名のじいさまがいらっしゃるだけなのだ。
それとは別に、緊急時に回復魔法を使う人達が臨時に救護部隊を作って動く時がある。その回復魔法使いの多くは、刀を手に取り誰よりもモンスターを倒す姿が良く似合う。そんな心強い人達だ。
実際に何度か助けてもらった事がある。未だににほんっとうに感謝しか無い、今でもダンジョンの内外でその姿を見ると心が踊るもの。
負傷者を助ける為に奮闘するその姿、やっぱ格好いい。正直にそれが何よりも格好いいと思う。
ソロで潜る俺には真似出来ないけど、その姿に憧れを持ったのは俺だけじゃないはず。冒険者をやると一度は憧れるよね、そう勝手にそう思っている。(うん、だいぶ話がずれた)
このダンジョンの浅い階層はアンデッド系しかいないみたいだ。ずっと回復魔法をかけ続けたせいか少し回復魔法が強くなった気がしてきた。
アンデッド系の階層が終わると、砂漠の階層が出てきた。
ここってダンジョンだよな? 砂漠に岩山、オアシスまである。ここにモンスターが出てなかったら観光地になりそう程に綺麗な場所だ。
砂漠に出るモンスターってなんだ?
蠍系か。と、なると昆虫系のモンスターかな?
どんなモンスターが出るのか、考えながら砂漠を歩くがモンスターが出てこない。何故か一匹もモンスターに会う事なく階層の最奥にたどりついてしまった。
振り向いて確認してみたがやはりモンスターがいないし索敵にも引っ掛かる事もなかった。
不思議に思いつつも次の階層に行く階段に抜ける、とその時何かに見られた気がして振り返るがそこに誰もいなかった。
砂漠の階層が終わると蜥蜴のエリア、種類は3つ。木蜥蜴、岩蜥蜴、炎蜥蜴。
木蜥蜴の魔石は良質な炭として利用が可能。
岩蜥蜴の魔石は宝石と言われる程に美しく、実際に加工され高値で売買される。
炎蜥蜴の魔石は言うまでもなく火だ。加工され工場等のボイラーの燃料の代わり等で使われているらしい。1個でも相当持ちが良いらしく、大型船やタンカーの燃料としても採用されていると聞いた事がある位だ。
そんな蜥蜴モンスターはでかいし数が多い。
最初は木蜥蜴だ、平坦な場所に10匹程度のグループで固まっている。
「火炎槍」
マジックマスターのまま此処を通りすぎるつもりで魔法を放つ。
炎の槍が木蜥蜴のかたまりめがけ飛んでいく。
ドン!! 炎の槍が木蜥蜴達にぶつかると大きな爆発が起きて木蜥蜴達が倒される。
木蜥蜴達をみると完全に火が通り、中には黒ずみになってる木蜥蜴もいた。
木蜥蜴の階層を抜けて岩蜥蜴の階層に入る、岩山を思わせるゴツゴツとした斜面だ。
と、そこに。のそのそと歩く岩蜥蜴を発見。その姿はDランクのダンジョンボス、亀さんを彷彿とさせた姿だ。ジョブをアサシンに切り換え、イベントリから丸太を出して岩蜥蜴をひっくり返しす。
やはり背中が重い為か中々起き上がれない。その隙に岩蜥蜴の首の付け根に刀を入れて止めを刺す、それから岩蜥蜴を見つける度に丸太でひっくり返して止めを刺すを繰り返す。
その行動が楽しくなってしまい岩蜥蜴の階層だけで4時間近くいてしまい、この日はボス討伐を諦めて帰る事にした。
協会に来てアンデッドや蜥蜴系のモンスターの魔石を卸す、サナエさんの顔が岩蜥蜴の魔石をみてほころんだ。
「こんなに取って来たのですか?
コウさん。岩蜥蜴の魔石は来週行われるオークション後に支払いでも良いですか? こういった岩蜥蜴の貴重魔石はとても珍しくて、中々手に入らないんです」
「良いですよ」
そんなに珍しいのか。実はもっと珍しいと感じた魔石は、インベントリに数個ほど残してある。実はその綺麗な魔石は売るのがちょっと勿体無くなってしまったのだ。
この日は2時過ぎから道場の日だ、早めに飯を食べてお腹を落ち着かせてから道場にくる。苦手な無刀取りの稽古も、ムラセさんの動きに合わせてうまく受け身を取ったり、攻撃をかわせるようにもなってきた。
剣術の稽古はやっと型とタチバナさんとの対戦稽古が出来るまでになる。と、本来ならこの後、さおりとの実践稽古なのだがさおりの体調が悪く終了となってしまった。
稽古終わりでさおりの部屋に来た。
「コウ君、どうしたの?」
「さおりが体調悪いって聞いたから少し心配した、ご飯とか食べてるか?」
「ううん」横に顔をふる。
「なんか食べたい物有るか? 飲みたい物とか?」
「オムレツ食べたい」
「オムレツか? わかった、卵ないから一回スーパーに行ってくる。後は適当でも良いか?」
「う、うん? なに、コウ君作ってくれるの?」
「なんだ? 変か?」
久しぶりにジョブを料理人に切り替えて買い物を済ませ、さおりの部屋で料理を使った。余りの手際の良さにさおりが驚いていたが、食べた時の驚きの方がもっと凄かった。




