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その日、普段入っている初級ダンジョンではなく、別の初級ダンジョンに来た。
そこは亜人と言われるモンスターが出るダンジョン。このダンジョンのモンスターの魔石は利用出来る物が多く、高値で取引されると聞いた為だ。
まあ、高値と言っても、1個500円位だけど。
前回入ったダンジョンの子犬と兎モンスターの魔石は100円前後で取引される。
ダンジョンは家があるマンションから徒歩で一時間程だ。早速ポーターに職を変えて、軽い荷物を持って歩いて来た。
それと面白い事があった。
朝、料理人に職を変更して朝御飯と弁当を2人分作った。1つはばあちゃんの為だ。
ばあちゃんは凄く喜んでくれて、嬉しそうに俺の弁当を持って管理人室に行ったのは驚いた。
そして、料理人レベルが3上がったのだ。まさかと思ったが料理をしただけでレベルがアップしたのだ。もちろんポーターレベルも上がっていて、正直に笑いがこぼれる位だ。
この日は目的のダンジョンに付いた時に疲れを感じる事なかった、これもポータースキルかも知れない。
最初に協会出張所に入りレンタル武器を借りる事にする。
身体強化がどの程度影響が有るのか分からず少し高い武器をレンタルする事にした。
「どの辺の武器が頑丈ですかね?」
「なら、このバトルナイフなんかどうだ」
そう言って出されたのは刃渡り40cmは有るナイフで、持ち手のナックルガードまで刃が付いた珍しいものだ。
「これはいくらですか?」
「1日 千円で2本セットだ。でもそれだけ物は良いぞ」
レンタル料が1日で千円か。
必要経費として、魔石2つ。移動費用はかからないから、最低でも12個は魔石が必要だろう。
魔石1個500円、魔石10個で5000円。魔石2個はレンタル料。
日当に計算すると15歳の俺だとそんなものか。
でも待てよ。家賃払って食費払って…。そう考えると足りないな。
やっぱり金は必要だ。そうすると魔石だけで最低20個を目標にしないと。
レンタル料を払い残り9000円。手数料何かを払うと………。現実世界ってシビアだな。
結局 バトルナイフをレンタルして、ダンジョンに入る。
名前 二前 宏
職業 武道家Lv 1
【剣士 ポーター ゴミ拾い 商人 料理人】
【スキル 隠匿(スキルLv1)を取得】
【派生スキル 身体強化Lv2 剣術 精神強化 硬体Lv2 目視強化Lv2 宿地 必要経験値-50% イベントリ 獲得経験値+50% 記憶力アップ イベントリ】
職業を武道家に切り替えて見た。
なんとなくだが、亜人形モンスターと聞いて、武道家の方が格好よく倒せそうだ。そう思っただけだけどね。
ダンジョンは洞窟になっていて人が3~4人は横に並び歩ける位の広さだ。
するとダンジョンの奥からヒタヒタと音が聞こえる。ボロ布を腰に巻いただけのおじさん? いや、しわくちゃな子供のようなモンスターが来る。
耳は三角に尖り、頭はパヤパヤと毛が生え、全体が土色をした奴がいる。
スキル 縮地を使いモンスターに近付く。俺が目の前に来た時、初めて驚いた顔をしていた。
バトルナイフを持った拳でモンスターの顔面を撲る。身体強化された一撃はモンスターの頭を割り倒してしまう。
倒されたモンスターは魔石だけになり姿を消す。
この日、ダンジョンの1階層~5階層までを周回し何度も何度もこのひと形のモンスターを倒し続け、30匹を倒し魔石を獲る。
残念な事にここのモンスターが何か特別なものを落とす事はなく、ただひたすらに魔石を稼ぐだけだった。
ダンジョンダイブを終えて冒険者協会にくる。
「日丘さん。お疲れ様です」
「おお~。やっぱり若者は頑張るねぇ。
どれどれ、お姉さんに成果を見せてごらん」
そう言うと個室ブースに移動する。日丘さんも慣れてくるとかなりくだけた話し方と態度になる、でも気を使っていない感じが凄く有り難い。
ひと形のモンスターの魔石を30個出す。
「あれ? 今日はコボルトダンジョンに行ったの?
まだ、早いってあれ程言ったでしょう。
確認だけど、5階層のボス部屋には入って無いよね」
「ハイ。行ってません」
「本当に入っちゃ駄目だからね。あそこのボス、推奨レベルは200以上だからね」
「亀さんは推奨レベルが300以上ですよね。どっちが大変ですか?」
「当然、コボルトダンジョンのボス。
コボルトがボスなんだけど、レベル300の人だって単独で挑むと負ける位強いのよ。
兎に角、入っちゃ駄目だからね」
日丘さんにかなりきつく言われて今日は戻る事になった。
マンションの管理室の窓から声をかける
「ばあちゃん、今日外に飯食いに行かない?」
「え? 何処に行くって言うのよ」
「近くのファミレスなんてどう? 今日、サチエちゃん来てるんでしょう」
「そうだけど」
「大丈夫。今日は俺のおごり」
そう言ってばあちゃんと孫の遠藤 サチエちゃんを連れてファミレスに行く事に。
サチエちゃんは俺より5歳年下の子で10歳の少しませた子だ。
「あ、コウちゃん!」
そう大きな声で俺を呼ぶのがサチエちゃんだ。
サチエちゃんのご両親は共働きで結構夜が遅いらしく、ばあちゃんが時々預かっているらしい。
でも、小学校に入ってから学童と言う所に行くことが増え、ばあちゃんの家に遊びに来るのが月1位まで減ってしまったようだ。
「コウちゃん。今日は一緒に寝よう」
「いいけど」
「やったね」
サチエちゃんはまだまだお父さんやお母さんに甘えたい盛りなんだと思う。
俺に懐いてからは良くおんぶをせがんだり、ままごとをやらされたりだ。
唯一俺から離れるのが小学校の勉強を教えたり、宿題を手伝う時だ。その時だけはスッと気配を消して布団にくるまる。