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落ち着いてから2人揃いカウンターに来ていつものボックスに入る。
「コウさん。取れた物を全部出してください」
「ああ」
ボスのシルバーエイプの魔石、毛皮、腕の骨を出す。
この毛皮と腕の骨は珍しい物のようで、出した時のサナエさんの表情がそれを物語っていた。
「コウさんが自分からボス部屋に入った訳じゃ無いんですね」
「そうだよ。もう何度も言っただろう」
羽交い締めにされてから敬語を使う気持ちがなくなってしまった、あんな怖い思いまでしてなぜこの人に物を卸しているのかも疑問に感じている。だが、いざ他の人となると、それはそれで面倒なんだよな。
「でも良かったです。通常ボス部屋では、コングエイプとシルバーエイプが2体出ます。亡くなった方達がシルバーエイプは倒していたようですね」
「それよりも、ボスが部屋から出るなんて普通あるの?」
「う~ん。調べて見たのですが過去にもにたような事は起きたと書類には記載があります。
ですがそれはSランクダンジョンで、部屋ではなくボスエリアと呼ばれる場所から逃げ出したようですけど」
「そ、 それで俺の担当はサナエさんしかいないんだよね?」
「私では不満ですか?」
「何かある度に首を絞められたりじゃやってられない。俺はこれまでも色んな事を話し合ってきたつもりだ、俺が信用出来ないのかと思うと悲しいよ」
サナエさんが立ち上がり頭を下げる。
「ごめんなさい。てっきりボス部屋に単独で入ったと、そう思い込んでしまいました」
「俺は、留萌さんを始め日丘さんやサナエさんに凄く良くしてもらっていると思っている。
みんな自分の仕事があっても俺の為に時間を割いてくれるし、なんかあると凄く親身になってくれる。
だからそれに答えようと思っている。けどその思いが俺の一方通行だったのは良くわかったったよ、もっと信頼されるように頑張るよ」
サナエさんがカウンターから出て俺の前で頭を下げる。
「コウさん。本当にごめんなさい」
「日丘さんのやってる事をそのままにしてるのは、あれが日丘さんの独特のコミニュケーションの取り方だからだ。
サナエさんは話し合いできちんとわかってもらえる。そう思ってる。それとボスの力はわかった、これからはボスの部屋に入る」
「え、それは?」
「死なない、そう判断しただけだ。じじいとの約束もあるからまだカードの更新は出来ないし、しないけどね」
「かしこまりました。また何かあればいつでもお越しください」
現在あるCランクダンジョンは東京に2つ、福島1つ、滋賀1つ、福岡2つだ。
東京はコングエイプがボスのダンジョンと双頭の大蛇と言われるモンスターがボスの2ヵ所。
BランクダンジョンとAランクダンジョンは東京には無いため他県に行かないと行けない。
ちなみにSランクダンジョンは東京に1つ、秋田に1つだ。まあ、Sランクを狩り場にしているパーティー自体が少ない上に、東京よりも秋田のダンジョンの方がハードらしい。
俺からしたら遠い話だ。
家に帰って晩飯の仕度を始めようと冷蔵庫を開ける。はい、何もない。冷凍のチンする惣菜すらない。
どうしよう?
まだ早い時間だけど買い出しに行くか、そう思い携帯の地図アプリでお店を調べてやってきた。
食料品売場はやはり混んでる。ここ一年近く、料理が面倒になり全くやらなくなると、何を作るか何も思い浮かばなくなる。
惣菜コーナーを見て回り、美味しそうな物を買い漁る。米もなかった事を思い出して弁当も買ってしまった。絶対に買い過ぎだな。帰ってきて思い出したが明日の米が無かった。まあ、良いか気軽な1人暮らしだ。
ピンポーン!
誰だ? うちは新聞ねぇ、テレビもねぇ。当然ラジオもつけてねぇ。
うん、リズムに乗って歌えそうだ。
ドアの覗き穴を見る、そこには日丘 さおりが立っていた。
「現在、この部屋には誰もすんでいません。出直された方が良いと思います」
「そっかぁ。誰も住んでいないのか? って、騙されて帰ると思ってるのかぁ?」
「はあ、わかった。開けるから騒ぐな。で、何しに来たんだ?」
「ん」そう言って買ってきた惣菜やら、米やらを渡される。
「ここ、私の家のマンションなの。
どんな人が新しく入ったのか知りたくて見に来たのよ、そしたらまさかコウ君がいるなんてねぇ」
勝手に部屋に入り人のベッドに座る。
「なんか、寂しい部屋だね。
本当に何も無いんだ、私買って来てあげようか?」
「いらん。それにベットに座るな、椅子有るんだから椅子に座れよ」
テーブルに渡された物を並べて、俺が買ってきたお惣菜なんかも並べ箸を出してさおりに渡す。
「お前、コーヒーしか飲まないのか? お茶有るけど飲むか?」
「もらう」
「ところでニュースになってたよ。伝説のFランクは本当に有名人だよね」
「あんなの亡くなった方に失礼だよ、おまけにあんな言い方。それに元々Bランクのパーティーだろう何があったのか疑問だよ」
Bランク冒険者だ。Cランクダンジョンは生きて帰って来て当たり前だと思われる、俺も実際にそう思っていた。
「私もそう思う。それでさ、明日一緒にダンジョンに入ってもらいたいのよ。
私、1人でボスの所まで行かないと行けないし」
「指名依頼?」
「うん。一応、単独Aランク冒険者なので」
「正直に、さおりの腕なら心配は無いと思う。ただ3匹出てくるらしいから、連携の取れた戦い方されると厄介だな」
「でしょでしょでしょ。それにコウ君もこんなうら若き乙女を1人でダンジョンに入れるなんて可哀想だと思うでしょう」
「いや、お前は可哀想とは思わないよ。俺にあんな攻撃してくるもの」
「ちょっと、それは酷くない。それと今日泊めてね」
「は! 何を言ってる?」
「大丈夫。泊まる事にしてるけど、この上の部屋が私の部屋なの。
あ、ひょっとしてやらしい事を想像しちゃったぁ。やっぱりぃ、さおりって魅力あふれる女だからね仕方ないよ」
「アホ、食ったらちゃんと家に帰れよ」




