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いつものようにCランクダンジョンに来てはシルバーエイプを追いかける。が、どうにもシルバーエイプを斬ることが出来ない。それが不思議だ。
理由はわからないが、シルバーエイプだけ斬れない。それでも仕止めるのはある程度早くはなった、最初は40分はかかっていたが今じゃ10分位だ。だいぶ倒し方が上手くなっている。
倒したシルバーエイプを触ってわかった事がある。シルバーエイプの毛は弾力性があり良くしなるのが特徴で、グリーンエイプの毛は針のように硬いのが特徴だ。
この違いってなんだろう、これが斬れないのと何の関係があるのだろうか? 結局理解出来るわけもなくダンジョンを出る。今日は道場に行く日だ。
お昼前にいつものラーメン屋にくると、お店の前に新しいメニューの看板がありそのラーメンを頼む事にした。
伊勢エビを使った味噌豚骨のつけ麺だ。替え玉がなかったが最大3玉分の大盛があるのを見つけて頼んでみる。
「お、コウも新しい奴だな。食ったら感想教えてもらえるか?」
「良いですけど何かあったの?」
「うん、好き嫌いが思ったよりも大きくてな」
「了解」
正直に俺は好きな味だ。伊勢海老の出汁? なのか良くわからないが伊勢海老の味もしっかりしてしていて旨い、そう思った。
ラーメン屋を出て、ぶらぶらとしながらお腹を落ち着かせていると付けてきている奴を発見した。
一見して冒険者だと直ぐにわかった。またパンプアップとマットサイエンスの2人だと思ったが今回は違った。
このところ多いのは、ある程度付けてきては声をかけてくるクランのスカウト達だ。まあ、一般的に冒険者達はスカウトを喜ぶ、それが有名なクランであればある程だ。だが残念な事に俺はソロがいいのだ、クランに入るつもりもない。
道場まで歩いて来たが、スカウト達が誰も声をかけて来なかった事が楽でよかった。
「コウ君、早いね。着替えて待っててね」
さおりが楽しそうに俺に言うと自分も着替えて来た、学校の制服から着替えるといつもの変化に驚く。さおりのあれは完全な戦士だ。
今日の練習は最初にムラセさんとの練習だ。
ムラセさんは無刀取りの達人らしい、武器を持つ相手との対戦がメイン。
ムラセさんから基礎から教わる。少しでも理解が深まるようにジョブを騎士から格闘家に変更してから稽古を受ける。
今日のメインは受け身だ。それが終わってからタチバナさんと剣術の基礎練習、ここは騎士にジョブを戻す。
それが終わったらさおりが刀を持ち俺を攻撃する、それを俺がひたすら避け続けると言う訓練を行い練習が終わる。
さおりの剣鬼姫のスキルは物凄く優秀らしい。
俺を相手にする時はかなり手加減しているらしいが、それでも何度か危ない状態があった。
「つ、疲れた」
「お疲れ様、ムラセさんの練習はどうだった?」
「どうもこうも無いよ、もう簡単に投げられるし、関節極められるし大変だよ。それに押さえられると体を動かす事も出来ないし不思議な事ばっかりだよ」
「しし」
口元を手で押さえさおりが嬉しそうに笑う。
「俺、協会によってから帰るよ、明日新人研修だから」
「なら、私も行こうかな。入ろうとしていたクランなんだけど止める事にしたの」
「なんかあったの?」
「うん、他のクランから強引な引き抜きとか、無断で撮影してそれをアップしたりとか色々あってさ」
「そ、そうなんだ」
2人で協会にくると、サナエさんが俺達を発見する。
「今日はご一緒ですか? あ。今日は道場で稽古の日でしたか?」
「ハイ、もう体ボロボロです」
「どうですか、さおりさん。コウさんの様子は?」
「う~ん。
私よりもおじいちゃんが凄いかな。もうコウ君を離すつもりは無いと思う」
「そんなに?」
「うん、他の冒険者の人とは全く違う練習してるもん」
う? ちょっと待て、全く違う練習ってなに?
「さおり、全く違う練習ってなに?」
「え? 知らないの。あんな練習普通しないよ。みんな辞めてくし普通じゃないもの、コウ君位だよ。やっぱり道場の跡取りだってそう思ってるんだよ」
ヒィ、勘弁してください。
「はは、ウソウソ。
でもコウ君を見て楽しんでいるのは確かだよ。あの練習方法はおじいちゃんが若い頃にやっていた方法なのね」
さおり曰く。さおりのじぃさんの父親とその親が戦争経験者らしい。いまから80年以上も前の話だ、日本が世界大戦に突入してアメリカを筆頭とした連合国と戦争になり、そして日本が負けた。その戦争を親子2代にわたり生き延びたのが日丘一族らしい。
そしてその戦争で進化したのが、俺が習っている新真大社流らしい。
戦争と言う極限状態で真大社流が更なる進化を遂げた。理論だけの剣術から確実に敵を倒し生きて帰る為の剣術と徒手空拳を加え、超実戦武術として発展し更なる進化を遂げたのが、現在の新真大社流なのだと言う。
どうでもいいが、その話を道場に入る前に色々と聞きたかった、そしたら絶対にこの道場に入らなかった自信がある。
しかしさおりとサナエさんって何であんなに仲が良いんだろう、次の日にそう思いながら初心者研修の会場に来た。
普段5~6人もいれば良い方の研修生が今日にかぎって15人程の研修生が集まっている。そこに見知った顔があった。明らかに魔法使いの格好で魔法使いが使う杖を持ち、3人グループで仲良く楽しそうに話す姿があった。
5年程前にアメリカに渡ったサチエちゃんだ。
思わず近付いて声をかける。
「サチエちゃん?」
声をかけるとバッと振り向く。
「あ、あれ? コウちゃん?」
「サチエちゃん、冒険者だったの?」
「伝説のFランクってコウちゃんだったの?」
「「ええーっ!!!」」




