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初めての練習が終わった後、くたくたになりながら着替えて帰る。
すると帰り道でさおりと会う。
「さおりって凄いな。あんなに強いとは知らなかった」
「え? ま、まあね。
これでも道場の跡取りの予定だからね。私が弱いと問題でしょ」
「薙刀って凄いな。なんなのあの連続攻撃、おまけに上から下まで自由自在だな」
「はは、でも初見で攻撃全部かわされると流石に傷つくかな」
「当たり前でしょ、抜き身だよ。あんなの当たれば俺が死ぬでしょ」
「まあね、殺す気でいってたからしょうがない」
殺す気でいってた? これって稽古じゃないの? 俺を殺す気なの?
「冒険者って命懸けでしょ。だから、稽古も手を抜かないのがうちの道場なの」
はっ? 俺その話初めて聞いたよ。その話は説明の時にしてくれないと、その話を聞いていたら俺は絶体に他の道場に行ったよ、そこは絶対に自信有るよそれだけ怖かったよ。
「ところでさおりって家こっちなの?」
「なになにぃ? 送ってくれるの?」
「いや、無い」
「は?」
「うん、だから100%無い。送らない」
「はぁ~(怒)」
その時、誰かに見られた気がして振り返る。それは絶対に冒険者だそれもかなり高ランクだろう。ま、こんな街中で仕掛けてくる奴もいないだろうと思うけど。俺が振り返ったのがわかったのか、気配が消える。
「コウ君。どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「そう。じゃあね。私こっちなの」
「ああ、お疲れさん」
さおりと別れて家路に付くとまた誰かが付いてきた、さっきの奴とは別の奴だ。生命察知と魔力察知を発動する。
範囲は約30mで設定。電車やバスを使うか考えたが人が多すぎると訳がわからなくなるのでそのまま歩く事にする。
付いて来てるのは2人、1人は冒険者で間違い無い。魔力が異常に高くこいつが高ランクの冒険者だろう。
そしてもう1人。ん? もう1人は気配遮断のスキル持ちかもしれない。反応が覚醒していない一般の人よりも低い。斥候、盗賊、アサシンなんかのスキル持ちかもしれない。どちらにしても高ランクだろうと思われる奴が2人か。もめると大変かもしれない。
普段は通らない薄暗い公園に入って直ぐに気配遮断スキルと体術を発動。少し背の高い木の中程に身を潜める。
俺の姿を見失ったのか2人がオドオドとしながら公園に来た。1人はスカート姿、もう1人は寝間着? かと思うような服装をしている上に頭に何故かウサ耳が付いたフードをかぶっている。
まさかと思うけど街中であの格好でずっと付けてたのか? メンタルつっよ。
「ねえ、やっぱりちゃんと取材交渉すれば良かったんじゃない。
絶体に逃げたよ」
「しょうがない。サッチに報告しよう。
それと取材交渉しないとダメだね、突撃しても取材受けてくれない気がする」
その声に驚きを覚えた。この2人は俺が良く見る動画配信の冒険者パーティーだ。
リーダーは、配信名がエンジェルリバー。魔法使いがマットサイエンス。正騎士スキルを持つのがパンプアップ。この3人で配信を行う冒険者パーティーだ。
その話し声がマットサイエンスとパンプアップの声だ。
彼女達は何がしたいんだ?
この最底辺に居る俺の何が知りたいんだ?
あの三人は最近Aランクダンジョンに入った、かなり苦戦していたが1階層はクリアしていて、その配信は凄い反響を呼んでいた。
そんな高ランク冒険者達が俺に何の用だ?
不思議と物凄い警戒心がわく。2人が公園から消えて、確認出来る範囲から完全に2人の反応がなくなってから、木から降り家に戻った。
そこで買い物してない事に気付く。やらかしたよ、今日冷蔵庫の中はドレッシングしか入ってなかった。そう思ってコンビニで余り物の弁当に惣菜を買って家に帰る。
それから何日か同じように後を付けられた。
仕方なく冒険者協会の受付にくる。何時ものように2人が付けて入るのは知っていてそのまま協会に来た。
「サナエさん。今日留萌さんいる?」
「留萌さん、予約取ってるの?」
「無い。でも緊急事態でさ、お願い出来ないかな?」
サナエさんが裏に行くと留萌さんが慌ててくると何時ものブースに来て向かいあって座る。
「それで、コウ君が緊急事態って何があった?
まさかと思うが親戚連中かい?」
「親戚連中はこの間もばあちゃんに追い返されていたよ」
「またか!!
わかった今度、警察に警備申請をだそう。流石にしつこいしまるでストーカーのようだよ」
「留萌さん、今回はちょっと別の案件なんだよね」
留萌さんが俺の後ろをチラッと見る。顔は変わらないが警戒心は物凄く高まった。
「あれかい?」
「ハイ。なんか俺に取材したいと言ってるようですが、直接声をかけて来る事がありません。
それでダンジョンや道場から帰る時に必ず付けてきます。家もすでにばれてると思います」
「わかった。今日は協会の仮眠室を使えばいいよ。ここの仮眠室は完全個室になってる。1泊 3000円だ。トイレ、台所、シャワーも完備だ。自由に使ってもらって問題ないよ。必要があれば何日いてもいい」
「お願いします」
「じゃあ決まりだ。悪いがこっちから入って」
そう言ってカウンターの中に入って直ぐ奥の廊下に出る。ここは職員専用で、利用客には秘密になってる場所だ。
「ねえ、いなくなったよ」「嘘?」
マットサイエンスとパンプアップが慌ててカウンターにくる、そこにサナエさんが来て対応する。
「あの、ここで話をされてた方は?」
「当方の担当でしょうか?
あの者はこの受付部門の責任者になります。予約は頂いてますか?」
「あ、いや」




