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数日間家での剣術の練習と、ダンジョンに入りグリーンエイプを狩ると言う生活を送る。
そして今日はじぃさんとの訓練の日だ。
約束の時間は15:00。ちょっとだけダンジョンに入る事にした、訓練前の準備運動になるとは思ったのだ。
最近、刀と言われる武器の扱いに慣れてきた気がするが、まだまだ扱えてはいないようだ。この日グリーンエイプの階層に入り3匹を倒して終了。それから近くのラーメン屋に行って行列に並ぶ。昼前だと言うのに何時も混雑している。
俺が何時も食べるのは味噌豚骨魚介スープ、トッピングにチャーシュー5枚乗せだ。
やっとの思いで席に付く。
「お、コウ。今日もご出勤かい? 今日は何時もより早いな」
「はは、はいこれ」
そう言って券売機で買ったチケットを出す。ちなみに替え玉もあり、替え玉チケットは後出しでも対応してくれるのだ。
最近、取りが良くなった事もあって良く外食するようになった。それもあってかご出勤とまで言われるだけこの店の店長と親しくなった。
ここ一年近く間、ほぼ毎日のようにこのラーメン屋に来ている。それも日に1日2回が平均、1日3回も来た日もある。
いい加減に顔を覚えられても仕方ないはずだ。
「すいません、替え玉」
「すいません、替え玉」
「すいません、替え玉」
「やっぱり凄いな。いい食いっぷりだよ。
本当コウは痩せの大食いだよな。この体のどこに入るんだ?」
帰り際に50代半ばの店長が俺の腹を触って聞いてくる、あれだけ食べて平然としている俺がどうも不思議らしい。
それからじぃさんとの約束の時間まで適当に暇を潰してから来ると、見知らぬ男女2人が稽古していた。
「すみません」
「ハイ?」
「恐れいります。二前 宏と申します。
本日、日丘 鉄斎さんに稽古してもらう事になっていて伺いました」
「え? 先生が?」
「それですみません、約束はしていますが本日が初めてでどのようにしたら良いでしょうか?」
「お待ちください」
女性が何処かに行くと、すぐに日丘 さおりを連れて来た。
「コウ君。来てくれたんだ?
あがって。おじいちゃんから、コウ君用にって専用胴着預かってる」
「そう。よろしくお願いします」
さおりが俺を見てキョトンとしている。
「え、だって道場だとさおりの方が先輩でしょ」
「あ、もしかして貴方があの伝説のFランクの人?」
さおりを呼んだ女性が何故か目を輝かせる。
「へぇ。割りとイケメンじゃない。お姉さんもまだ間に合うかな?」
「ムラセさん(怒)」
さおりが怒った顔で言う。
「え、良いじゃん。冒険者の人って凄い稼ぐんでしょう。やっぱり稼ぎは大事よ」
結局は金か? まあ、お金は大事だよ、そこは否定しないよ。でもね、親戚連中と同じ目で見られたら殺意がわくよ。本当。
ゴン!! 誰かに頭を叩かれたようだ。
「おい、着替えてこんか」
「なんだ、じぃさんか?」
「コウ、お主道場の前で何をしている?」
「あのさ、俺この道場に来て稽古するの今日初めてなの。何をしたらいいか教えてもらえないとわからんでしょ」
「なぬ? コウ、お主今日が初日だったっけ?」
じぃさんボケか? ウケねらってんのか? それとも本気か?
「お、オホン。さおり、コウに道場の中を案内してやってくれ」
「は~い」
じぃさん、本気やった。俺の事、多分忘れてた。それから更衣室、トレーニング室、徒手部屋と言われる畳の部屋を見て回る。そしてさおりに渡された胴着はかなり特殊だった。
上は柔道着よりもさらに分厚く、下は袴だが柔道着の上の素材のように分厚く、ごわごわとして重たさを感じる程だ。
そしてじぃさんから借りている刃の無い刀を出して道場に戻る。
「コウ、刀を見せろ」
へ? っと思ったがじぃさんに刀を渡す。
「ふむ、斬れたか?」
「数える程だ。全然理解ができない」
するとじぃさんが立ち上がる。
「さおり、薙刀を持ってきなさい。それからお前達2人は脇に寄りなさい」
すると稽古中の男女が道場の隅により、さおりが薙刀を携えてやって来た。て、抜き身じゃん! 練習用じゃないの?
「コウ、さおりがお前を自由に攻める。さおりの攻撃をかわせ。
今日の稽古はそれだけだ。決して脇の2人に怪我等させるなよ」
思わずぽかんとしてしまった。避ける?
良く分からずにさおりを見る、構えを取ったさおりは凄かった、やばいくらいに迫力がある。恐らく今まで出会ったどのモンスターよりも強い。
その姿に闘争心がわく。
闘争心が湧いたまでは良かった。正直さおりの薙刀の攻撃の凄さにびびりまくりだった。
その攻撃は上段、中段、下段とまるで生き物のように薙刀が動いて攻められる。
さおりは兎に角凄い。何がって連携の凄さ、技の多彩さ、駆け引きの上手さ。どれを取ってもさおりは凄い。
そして何より驚くのが薙刀の持ち手を使った攻撃だ。さおりが下段から振り上げる。刃がさおりの頭上に行った時をチャンスと思い一歩中に入った。そこにめがけ薙刀の手元が下から振り上げられた。当然、俺の死角からの攻撃だ。
その瞬間にさおりの目が少し開いた気がした。
それを見た瞬間にバッと、咄嗟にさおりの左に転がる。
ブン!! 薙刀の持ち手が俺の顔の横を通り過ぎる
「か、かわされた!!」
さおりの驚いた声が聞こえてきた。
「そこまで」
じぃさんの静な声が道場にこだました。
「はっ、はー はー。つ、疲れた! 疲れた。本当に最後は死ぬかと思った」
パチパチパチパチ。脇で見ていた2人から拍手がでた。
「お前達、良いものが見れたな」
じぃさんが何故か俺の前にくる。
「紹介する、この2人はうちの道場の師範をしている、こっちの女性がムラセ。元自衛官で無刀取りが専門だ。
そしてこっちの男がタチバナだ。元々警察官でな、この道場には子供の頃から来ている」
「改めて、二前 宏です。
普段は冒険者をしてます。冒険者として更なる高みを目指したくてここで習う事にしました」




