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さおりの説教が終わるとじぃさんが不満そうな顔で俺を見る。
「それで、貴様は何が知りたい?」
「俺は今まで我流でやってきた。
今更だがきちんと基本から勉強したくなった、それで協会からの紹介でここに来た」
「ふむ、貴様。本当にさおりの事でここに来たんじゃないんだな?」
「当たり前だ。これからランクの高いダンジョンにも入る予定だ、そうなった時に我流では行き詰まる気がする。
現在の高ランク冒険者は、ほぼ全てのやつが何かしらの剣術、格闘術を修めている」
「ふん、確かにお前さんは荒削りだ。だが、筋は悪くない。
これからわしが鍛えてやる」
そう言ってじぃさんからいくつかの約束事があった。まず、バトルナイフは許可があるまで使わない。借りた刀を使い3つの型を練習する。
上段からの振り下ろし。
中断への振り下ろし。
下段への振り下ろし。
を各々1日3000回行う。
週に2回は道場にきてじぃさんとの稽古を行う。
出来るだけダンジョンに入り刀を使いモンスターを倒す事。
と言う条件が出た。そして刃の無い刀を渡される。
「こいつはダンジョン鉱石を使った刀だ。ダンジョンでも使ってかまわん。
兎に角お前さんは斬るんじゃなく、押し当てる癖がある、先ずはそこを直さん事には始まらん」
「押し当てる?」
「お前さん、料理は?」
「ああ、わりと得意だ」
「なら、包丁を見て学ぶんだな」
包丁? 何を学ぶんだ?
「今日は帰れ。来週待っている、今日はさおりの稽古の日だ」
「そうか、邪魔したな。来週来る」
そう言って道場を後にする。
道場を出てから気付いた。俺、この道場にするって一言も言ってないのに、何故か勝手に決まってしまった。
それからCランクダンジョンに来た。未だ昼前だった事もあり早速やって来た。借りた刀を出し先ずはウルフ系のモンスターで肩慣らしだ。
たが、刃の無い刀で斬れるはずもない。
ましてや刀を振っても振ってもシックリと来ない。モンスターを倒し続け気が付くとシルバーのウルフ系モンスターの階層に来ていた。
騎士のジョブを試す機会だ。任意発動の剣術Lv5を発動、金剛力を発動してモンスターを探す。
誰かと戦闘していたと思われるシルバーのウルフ系モンスターが来た。さっきまで戦闘をしていたのか血だらけでかなり興奮していた、最初に日丘のじぃさんに教わったように刀を上段に構え腰を落としジリジリと距離を詰める。
モンスターは明らかな傷があり、もう持たないと感じた。もたない、ならとどめをさしてやるのが優しさか。そう思い刀を上段から振り抜く。
スパッ!! 刃の無い刀がシルバーの狼を斬る。
いや、有り得ない。刃の無い刀でモンスターの首を斬った。今までなら、無理矢理に押し斬る感じだが何の抵抗もない。
何だこれは? 初めて持つ刀と言う武器のせいか? それとも剣術Lv5のおかげか? 訳がわからなかったが取りあえず落ちた魔石を拾いインベントリにしまう。
意を決して初めて入る階層に来てみた。
さっきの斬ると言う感覚、これをものにするには沢山斬るしかない。そう、脳筋な俺は考えた。
手に残る感覚、体に残る感覚を忘れる前に斬りまくる必要がある。そうシンプル(脳筋) イズ ベストだ!! 難しく考える必要はない。
それからはひたすらシルバーのウルフ系モンスターを倒し続ける、集団でかかってくる奴らを1対1になるように誘導し全てを倒す。だが、上手く行く事はなかった。
流石に遅い時間になってしまい、ダンジョンを出る。
家に戻り晩飯の準備を始める。冷蔵庫の中をごそごそと漁ると、普段ストックしているじゃがいもと玉ねぎがあった。
どうしよう? 肉無いし買いに行くのも面倒だ。
そう思っていた時、ウインナーを発見。カレールーがあったのを思い出しカレーライスにすることにして、玉ねぎとじゃがいもを切る。
「あ、包丁を見て学べって言っていたな」
包丁を持ちあれこれと考えた。
そこで初めて感じた事があった、包丁の刃は真っ直ぐだ。じゃあどうやって食材を切るか? それは刃が擦れる事で斬れるのだ。
「兎に角お前さんは斬るんじゃなく、押し当てる癖がある」これはじぃさんに言われた言葉だ。
最初に怪我だらけのウルフが斬れたのは上手く擦れた、上手く斬ったと言う事か?
じぃさんの言いたい事はそう言う事か?
そんな事を考えながら再度包丁を見る。片手で扱う包丁と、両手で扱う刀では感じ方や技術が違うかも知れないけど、斬ると言う行為は一緒か。
つまりあの刃の無い刀を扱えるようになる事で俺のランクはもっと上がるんだろうな。
何故かそう思った。
飯を食い終わりマンションの中庭に来た、駐輪場とならんで建物裏にあって誰も使わない場所だ。
そこで練習を始める。
はじめは上段からの振り下ろし、次に中断への振り下ろし、最後は下段への振り下ろし。
と一振一振大切に行う。
翌朝、朝飯の前に練習から始める。このマンションは冒険者や協会職員しかいないマンションだ。
冒険者の朝は早いしそれに対応する職員も朝早い。おかげで朝っぱらから練習しても文句を言う奴もいない。




