会話録
結局、昼前に協会にきて、解放されたのが夕方過ぎだった。日丘さんがさおりに俺の事をなんやかんやと聞いていたのが少し気になる所だが、あの後、無事に体を動かす事が出来てホッとはした。
家に戻りいつも見ている動画を付けながら飯の準備を始める。
今日は生配信中らしい。
音を上げ会話だけを聴きながら飯の準備を始める。
「明日、私達の所属クランに10代の女子高生が新しい仲間として増える予定だったんだよね」
「そうなの?」
「何か、知り合いのお兄さんとダンジョン入ったらしいの」
「ま、ま、まさか? あの~。言える内容だよね。配信出来ないって事は無いよね」
「あんた、何を言ってるの? あ、やらしい想像したな。ほんっと、見た目は乙女なのに中身は性欲モンスターだもんな」
「いやいや、知り合いのお兄さんと10代の乙女だぞ。それを想像しない方がおかしいでしょ」
パン! 何か叩かれた音が聞こえた。
その後会話が途切れる。
通信が切れたのかと思い端末を見ると、ただ黙っているだけだった。それからキッチンに戻り豚のかたまり肉を小分けにカットする。
さらに鳥もも肉を出し、大きめにカット。
豚肉と鳥ももをそれぞれに下味を着けて30分程放置。その間は普通に視聴予定だ。
「…って事があったらしいの」
「え? 何々、じゃあその伝説のFランクって言う人のせいで配信機材全部が駄目になったの?」
「そんなこと無いでしょう。あの研修って終わったら全部返してくれるじゃん、何があったの?」
「何か、担当した警察官の人達が機材入れてた箱を落としたらしい。
運悪く全部駄目になったらしいよ」
ピピピピピッ。
良いところでタイマーが鳴る。
仕方なく端末の音を上げて唐揚げを揚げる事にした。今日はもっと早く帰ってくる予定だったから、下味が薄い気がする。
そんなこと思いながら豚と鳥を揚げ始める。
「そんなことがあったんだ。
で、それとクランに入れない事と何の関係があるの?」
「そうだった。
その子がさ、何でも伝説のFランクをストーカーしたみたいで」
「「あかんあかん」」
「てか、ちょっとぉ。それって逆じゃないの? 16~7の女の子が伝説のFランクをストーカー?」
「あ、でも何かわかる。伝説のFランクって、ちょっと格好いいよね」
「でしょ。あんたもそう思ってた。意外に女子人気高いのよね。
あの子も良いところに目を付けたわ。結構、優良物件だよね」
「わかる~。冒険者協会や裁判所何かの説明会にも出たりするからさ。服装も気を使ってるよね。
何かちょっとダサいけど、清潔感は大事にしてるみたいだし、そこが可愛いというか」
「うんうん」
「ちょいちょい、脱線し過ぎ。まあ、私も研修担当は伝説のFランクだったけどね」
「「自慢かい」」
あっち!! 内容が俺の話だと思い、揚げ物してるのを忘れてしまって油が飛びはねる。それでやっと我に帰った。
それから少し揚げ物に集中する。
「で、で、何があったの。その女の子。何でクランに入られないの?」
「ああ。入れないじゃなくて。クランに入るのを少し考えたいって連絡してきたの」
「そうなんだ?」「何があったの?」
「うん? ちょっと待って!!」
「何々、今日 伝説のFランクが可愛い女の子をおんぶして街中を歩いてるのを見たって書き込み来てる」
「マジマジ」
「あ、本当だ。おまけに♡マーク付き。わ、次々同じ内容が来る」
「そうか、ついにあの伝説のFランクが落ちたか。孤高の戦士だと思ってたのに」
「あ、なになに?
Cランクダンジョンで女の子が伝説のFランクに頭を下げてダンジョンに入ってもらった。お願いしてるのを見た。
新たな書き込みキター!」
「「えー!!」」
「あかん、完全に押し掛け女房じゃん」
「ちょっと、表現古いよ。
歳ばれるよ、何のために顔出ししてないと思ってるのよ」
「ウッス!! 気を付けます」
「でもさ、おんぶして歩いていたって事はダンジョンで何か起きたって言う事かな?」
「まあまあ、順当に考えるとそうだね」
「て言うことは、その子が伝説のFランクを押し倒し、新たな伝説を作ったとかさ?
ね、どうどう?」
「有るわけ無いでしょう。
て言うか、私達がもしダンジョンで動けなくなる時ってどんな時?」
「私はMP切れかな」
「魔法職はな」
「それな」
「私は単に疲れすぎた時かな。単独でモンスターを80匹倒したときかな。
魔石だけで48000円にもなったけど、体も精神的にもおかしくなりそうだった」
「流石は戦闘狂」
「あ、見てこれ。この書き込み。
以前、福島のダンジョンで、伝説のFランクが1ヶ月近く毎日、魔石を120個以上も取ってきていたらしく。
福島ギルドでは未だに塗り替えられていない新たな伝説となっている。ですって」
「うわ、引くわ」「ヤバー」
「う、越された。こうなったら私も、負けてられん。メラメラ」
「「ヤメヤメ」」
「で、結局どうなったの女の子?」
「女の子? ・・・・・忘れてた」
「「おい!!」」
「今日、伝説のFランクと一緒にダンジョン入ったらしいのね。で、ほとんど伝説のFランクがモンスターを倒したの。
そしたらその女の子がレベルアップしたらしいのよ」
「あ? しでかした」「やっちゃったね。いわゆるやっちゃあかん事をその女の子がしちゃったのね」
「そうね。パーティー内だったら許されるけど、個々でしょ。強い奴にたかって自分だけレベルアップは最低な行為だよね」
「まあ、狙ってやった行為ならね。でもおんぶして帰ったんでしょ。なら問題無いじゃないの」
「「伝説のFランクって、マジ神」」
「うん、で。クランの人から聞いた話だけど、その子。ああ、その女の子ね。
二次覚醒したらしく剣鬼姫と言うスキルを得たらしいのね」
「剣鬼姫。確かAランクスキルだよね」
「え? そんな子を他に取られたらいけないじゃない」
「うん、それがさ女神の雫ってパーティ知ってる?」
「「当然」」
「女性3人のパーティで、全員単独Bランク(※)の凄腕じゃん。私らの目標だよ」
「うん。その子が件のパーティメンバーの身内らしくて。
クランに入るのを少し待って欲しいって言って来たらしいの」
「そうなの?」
「うん、別に女神の雫はパーティに入れるつもりは無いらしいの。
大体、うちのクランに紹介してきたのも女神の雫だし」
「じゃ何で?」
「伝説のFランクにホレたらしいよ」
「「ほ、ほんとう?」」
「マジあかんって」「冗談は顔だけにしい」
「ほらぁ、ユーザーが荒れてきた。本当の事を言わないとあした大嵐になるよ」
※ 女神の雫は全員単独Bランクではありません。




