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協会での話し合いが行われた翌日、俺指定の初心者研修依頼が入った。
それを受領して研修会場に来る。
何時にも無く物々しい雰囲気をかもしだしていた、俺が到着したのを発見した裁判所 冒険者課の広川さんが近付いて来た。
「おはようござます。今日はよろしくお願いしますね」
「広川さん、おはようございます。今日は物々しいですね」
「最近、警察の不手際が問題視されてる為です。
もっとも我々裁判所側はあくまでも法律屋ですから、法律的に不正がなければ何も言うこともありません」
「なるほど、ダンジョンに入るまではいかなる機材も違反じゃない。おまけに入ってしまうと証明も出来ない。
うん?
となると今まで裁判所がこの初心者講習に何で参加してるんですか?」
「はは、さっき言った通りです。
法律屋の仕事は法を犯していないか、その判断です。まあ、対象が冒険者。だけでは無いだけです」
「あ、警察や自衛隊、他の省庁等なんかを見張る目的でしたか」
「まあ、我々裁判所は基本的に強制捜査権を持ちません、ダンジョンにも入れませんし。要は体の良い見張り役です。
ですが、そのコウさん達が録画してくれる物が私達の武器でもあります。内容の全てを録画して、何かあった時の判断材料にします」
「そうなんですね。基本的に強制捜査権を持たないと言う事は例外もある、ですかね」
広川さんは俺の問に返事をすること無く戻って行った。
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元々新人研修は野良で入る冒険者を止める目的で出来た法律だ。
研修に来る人間はかなり少ない。
だが、パーティーのメンバー等が付き添いで来る事がある、その為か、今回は集まった人の数だけはかなり多い。そしてそんな連中に俺も見つかってしまったようだ。
「オイ、あれ?」
「おお、伝説のFランク。今回は研修が荒れるな」
「伝説のFランクってなんだ?
Fランクは基本的に存在しないランクだろう。Eランクが最初だろう、それ以下ってそんなに弱いのか?」
「詳しくは知らねぇけどよ。冒険者協会所属のAランクパーティーが付けたあだ名らしいぜ。
冒険者になってこの10年、ずっとEランクから昇級してないって話だ。
けど、DランクやCランクの冒険者をぶっ飛ばす位の強さは有るらしい。以前、協会職員をぶっとばしたり、付き添いで不正をやらせようとしたCランク冒険者をぶっとばしたらしいぞ」
「マジか? モンスターに弱くても冒険者相手には強いってか。面倒な奴だな」
悪かったな、面倒な奴で。何か舌打ちしてしまった。
ほっとに、悪口言うなら聞こえない所でいえよ、堂々と文句言われて納得しちゃっただろうが! 思わず心の中で愚痴る、言われた内容があまりにその通り過ぎて反論する気も起きなかった。
研修が始まり、研修生の前に立つ。
「今日、研修を担当する二前と言う。
先に説明があった通りだ、隠し持っている機材は全て出せ。過去、俺は不正を見逃した事が無い。
ここで出せば冒険者資格は守られる。って、聞いてるのかそこのネェちゃん」
金髪ツインテールの髪を上下させながら音楽でも聞いてるのか、名指しされた理由がわからないのか、高校生位のおねえちゃんがキョトンとしていた。
すかさず女性警官が質問とボディチェックをする。
機材全てを出されで落ち込んでいた。
「勘弁してよ、今日の配信用だったのに」
「文句は法律を作ったお偉方に言ってくれ、俺達はルールに従うだけだ」
悔しそうにしていたがその日はそれで終了、研修は滞り無く終わり後になって不正発信も特に無かった。
だが、翌日から俺のまわりをウロウロとする女子高生が現れた。
髪はツインテールではなく、ストレートのサラサラヘアーだった為にあの女の子だと気付くのに3日もかかってしまった。
ダンジョンを出て冒険者協会に来ると学校終わりなのだろう、その子が制服姿のまま待合室の椅子に座り音楽を聞いている。
仕方なく女の子の隣に座る。
「飲むか?」
そう言ってペットボトルのお茶を出す。
「あ、私。お茶よりコーヒー派なの。それもブラック」
仕方なく自分用に買ったブラックコーヒーのペットボトルを出す。
「あざ~す・・・。
でっ、伝説のFランク。いつの間に隣に座ってんだ? もしかして私のストーカーか?」
「ストーカーはお前だろう。
人の家まで付いてきやがって何考えてんだ?」
「なんだ、ばれてたか。
(リアルにテヘペロしやがった。それもちょっと可愛い)
あんたに聞きたい事があってさ。あんたも高校生からずっと冒険者やってんだろう、どうやったら冒険者だけで食べていけるんだ?」
「は? その質問の前に名前くらい言ったらどうだ?」
「何よ、研修名簿有るでしょう。名簿見てないの?」
「俺は依頼を受けて引率するだけだ、研修に参加する人間の事は何も知らないよ。
俺は参加者の名前や経歴なんかは何もわかならいぞ」
「え? 意外。
お兄さん伝説のFランクなんてあだ名が有るし、ちょっと格好いいからさ、結構ファンいるんだよ」
「え! ファンがいるの? 俺からしたらそっちの方が意外だよ」
何故かジト目で見られた。
「まあ、良いや。私は日丘 さおり。17歳。女子高の三年生なの、よろしくね♡」
「え? ひ、日丘? あの女神の雫の一員の日丘さん?」
「詳しいね。私、姪に当たるの」




