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それから何年かの間、俺は初級ダンジョンの引率の時と生活費を稼ぐ時だけ外に出て、その他の多くの時間を家で引きこもるようになった。
誰に会うでもない時間が過ぎる。
動画を見たり、新聞や雑誌を買ってきては読んだり、興味の無いファッション雑誌を買ってきたり、様々な事をしてみたが駄目だった。
ところがそんな引きこもり生活が4年も経った頃に、とある動画配信者に興味を持った。
その人達は顔出しをせずに、ダンジョンでの戦いの画像や会話の声だけで様々な配信をする人達だった。声を聞く限り俺と変わらない年の人達だろうと思う。
その配信はダンジョンでの出来事を楽しく話をして、時に真剣にモンスターに対するその姿勢に共感を持ってしまった。
そして、何かの時に呟いてしまう。
# 伝説のFランク
: 楽しそう
# エンジェルリバー
: 初めましてかな?
# 伝説のFランク
: 初めまして
# エンジェルリバー
: 伝説のFランクってあの?
# 伝説のFランク
: ごめんね。邪魔するつもりじゃなかった。
何時も楽しく見てます。
そうやって一方的に会話を終える。
その後SNS上に
: 伝説のFランクあらわる
: 伝説のストーカーあらわる
: なに? 邪魔しに来やがったのか?
: エンジェルリバーを守れ
等々と好き放題書かれる事になる。
だが、これが転機となった。俺もいつかこの人達に会えるかもかも知れない、そう思うと気持ちが軽くなった。
そのよこしまな思いが俺を突き動かした。よこしまな思いでも良い、また、やる気が起きてきた。
そうなると早い物で、装備を備え颯爽とCランクダンジョンに来る。
まあ、来たのは良いがすでにお昼手前で帰りの人達が沢山ダンジョンから出てきていた。
ウルフ系のモンスターが浅瀬にいない可能性があったが気にせずに入る。やはりあらかた倒された後のようでリポップするまで時間がかかりそうだ、仕方なく入ったことの無い階層まで潜る事にした。
その階層に来ると、雰囲気がガラリと変わった。
先に今のステイタスをみる。
「ステイタスボート」
名前 二前 宏
職業 双剣使いLv449【暗器マスターLv445 行商人Lv438】
【スキル 隠匿(スキルLv3)を取得】
【派生スキル 金剛力 剣術Lv3 精神強化Lv3 金剛体 神目 宿地 必要経験値-50% 獲得経験値+50% インベントリ 記憶力アップ 索敵Lv3 気配遮断Lv3 生命察知Lv3 魔力察知Lv3 魔力循環 魔力強化 運気アップ 威圧】
チマチマとダンジョンに入っていたが4年も続けると意外にもレベルアップしていて驚いた。
これなら今週中には裏ジョブ終了だ。そう気合いを入れる。
ダンジョンの中をうろつくとモンスターを発見。浅い階層のウルフと違い一回りは大きいウルフ系モンスターだ。
その見た目はシルバーに輝きを放っていた。バトルナイフを抜き両手に持って構えるとそのウルフ系モンスターは俺に隙を感じたのだろう、一気に攻めてくる。
身を屈めウルフをやり過ごし、後ろ足の付け根にバトルナイフを差し込む。
ナイフを抜いてさらに攻め込もうと思ったところでウルフが距離を取る。
刺された後ろ足をかばうように動き距離を取り続けるウルフに、フェンイトをかけてから縮地を使いウルフの首を目掛けてバトルナイフを上下から突き刺す。
手応えはあった。油断せずに距離を起き追撃に備えウルフと睨み合う。ウルフがゆらゆらと揺れると倒れて亡くなる、そして魔石と見た事の無い毛皮を残してウルフがダンジョンに吸収されて消えた。
冒険者協会に来て買い取りを頼む、何時ものように同年代のサナエさんが担当してくれている。そう、何時も受付で俺をいじっていた日丘さんは別部署に異動していたのだ。
「コウ君。今日は早いね。何か良いことあった?」
「え? いや。何かやっと気持ちがすっきりしただけ」
「そう。また元気な顔が見られて良かった」
ちょっと、そんな事言われたら病み上がりの俺は惚れてしまうでしょ。ほんっとうに気を付けてよ。
不意に殺気を感じて振り向いて戦闘態勢を取る。
「コウ、そんなに私に会えたのが嬉しいのか?」
「ひ、日丘さん? 殺気を向けるの止めて下さい」
「フフ、いい反応だったぞ。でも、お姉さんはもう人妻になったからな。お前に操はやれんぞ」
「知ってます」
そう、驚く事に留萌さんと日丘さんが結婚したのだ。お陰で日丘さんが俺に暴力を振るわなくなった。めでたしめでたし。
「ん? で何故ここに来てるんですか?」
「ああ、明日、もう一度おいで。コウにたってのお願いがあるらしい」
「あるらしいって誰がですか?」
「来ればわかるよ」
◇◇◇◇◇◇◇
翌日、言われた通りに協会に来る。
すると新人冒険者の研修を担当している其々の担当者が顔を揃えていた。
冒険者協会から留萌さん、警察から白石さんと新に加わった、武市さん。裁判所からは大石さんと広川さんが参加となったようだ。
俺が会議室に入り座ると直ぐに白石さんが立ち上がる。
「二前君。君も知ってると思う。ダンジョンに入ってからの盗撮行為が横行している。
我々はそれをなんとかしたいと思っている」
突然、お前しか居ないと言わんばかりに言ってくる白石さんを見て、首をかしげる。
「それは引率する側の人間と入る前にチェックする側の人間の問題でしょう。
なんとかしたければもっとセキュリティを厳しくすれば良い。それだけでは?」
「本当に、お前は変わらない。お前、父親に似たのか」白石さんがそう言って俺を睨む。
「おい!! 今、俺の両親は関係無いだろう。早死にしたくなれば口を慎め」
俺の怒りと殺気の混じった威圧に、白石さんがカタカタと震えて呼吸が出来なくなる、慌てて止めに入った武市さんが俺の威圧に負けて気を失う。
「す、すみません。謝ります。許してください」
なんとか声を出し謝る白石さんを見て威嚇を止める。
「白石先輩、相手を思いやる気持ちは必要だ。長生きしたきゃな」
さらに追い詰めるように言う。
「コウ君、その辺にしてくれ、話が進まなくなる。よろしいですね、白石さん、大石さん」
留萌さんがその場を収める。




