◇
俺とじじいの会話についてこれない留萌さんがボヤッとした感じて立っている。
「留萌、悪かったな。今回の事は俺が全てを納める」
「しかし会長」
「心配せんで良い。今、この俺が引退なんかしてみろ、日本は国を維持できない程に打撃を受ける。奴らも馬鹿じゃない」
「わかりました。会長に全てをお任せします」
大人の会話が終わると留萌さんの運転で何時もの協会にくる。
流石に留萌さんも疲れたようで肩に手をおいてぐるぐると回し始めた、何時ものように受付にくると日丘さんが俺を見つけてかけよって来る。
「お、重役出勤だな。
本当に、有名人になると変わるなコウ」
「からかわないで下さい。留萌さんと恐ろしいじじいに会って来たばかり何ですから」
「じじい? 恐ろしいじじい!!」
バッと俺と留萌さんを見た後、日丘さんがこそこそと後ずさりする。
「ヒィ!!」
留萌さんが日丘さんの襟首を掴む。
「日丘逃げるな。今日と言う今日はお説教だぁ!!」
すると日丘さんを引きずるように何処かに消える。
「コウ君、今日は卸すもの有る?」
そう言って優しく声をかけてくれたのは受付業務担当のサナエさんだ。俺と歳が同じで、最近冒険者協会に入った新人さんだ。
サナエさんと話をしていると日丘さんが落ち込んだ顔でやって来る。
「コウ、責任取れ。責任取ってお嫁さんにしろぉ」
「えっ? ナニナニ?」思わず飛び退いてしまった。
「コウ、お前のせいだ、異動になったじゃないか!!
これからどうやってお前をいじれば良いんだ? だから結婚するぞ、そうすれば1日中お前でストレス発散ができる」
「ひぇっ た、助けてぇ」
「日丘、いい加減にしろ」
留萌さんの疲れた声が聞こえると日丘さんも大人しくなる。
「会長の指示だ」
何故か留萌さんと日丘さんがそれ以上何も言わなくなってしまった。今回の事があってから、新人研修を行うにあたりかなり時間がかかる事になった。
どうせ次の初心者研修まで時間が有るからと、Cランクダンジョンに入る事にした。
Cランクダンジョンは東京、福島、滋賀、福岡に点在している。
各Cランクダンジョンを回り稼いだお金でホテルに停まり、まったりと過ごす。今の俺のやってみたい事だ。そう、学の無い俺に取っては分かりやすくセレブ感が感じられる事をやってみたかったのだ、それを実行に移す。
最初に向かったのは福島のCランクダンジョン。行きの交通費だけを握りしめてダンジョンに向かう。ここで稼げないと野宿だ、その緊張感にたまらなく興奮を覚えてしまった。
福島のCランクダンジョンは魔人族と呼ばれ人型と言われるモンスターが出る。
人の形に角と羽が生えたモンスター。結構強いらしいと言うのが日丘さん情報だ。
ジョブを双剣使いに切り替え、バトルナイフを両手に持つ。
ここ、福島の魔人族の連中は羽はあるが飛ぶ事は出来ないようで歩いて移動する。見つけ次第で縮地を使い距離をつめ、相手のタイミングをずらしてバトルナイフを深々と魔人族の胸に刺す。
「アフン!!」
その見た目にそぐわず、鳴き声が少し色っぽい。
双剣使いは今、剣士よりもレベルは低い。だが能力は高いらしい。魔人族は俺の動きについて来れずにいる。
魔人族の魔石は1個600円。わりと狩りやすいモンスターのようで希少性が低く、値段が安いのが特徴の一つだ。
時々、魔人族の剣と言うのを落とすらしい。この魔人族の剣は1本で2000円前後だ。
剣としては使えなく、剣の部分を鉱物として利用するらしい、それはわりと珍しい鉱物なのだと言う。
浅い階層は魔人族が一匹づつしか出てこないので階層を降りる事にした。
下の階層は一度に出る数が3~5匹になる。
出くわした魔人族は集団だ。両手のバトルナイフをしっかりと持つ。縮地を使い距離をつめて勢いをそのままに首を落とす。
一気に5匹を倒した。
地面に落ちた魔石を回収。
そこから時間を忘れて狩りを楽しむ。5個、10個と魔石が集まる度に、後何個でビジネスホテル。後何個で有名ホテル。
そこに人としての気持ちが全くない俺がいた。完全にお金で目が眩んだ俺は最終的に、朝の6時から入って夕方の6時を回った辺りで魔石を120個程集めていた。
1個600円の魔石が120個で72000円。
1日の売上としては凄い金額だ。だがこの経験が俺を駄目な方向に導く事になる。
俺は浮かれてしまった。1日で72000円も稼いだ、それを年間すると2500万円以上の金額になる。そこで金に目が眩んだ、毎日毎日ダンジョンに入り続けだただモンスターを狩り続ける、それがお金にこだわる俺の理想だと信じた。
それから1ヶ月近くにわたり福島県のダンジョンに籠り、一度東京に来てから福岡のダンジョンに来た。
調子に乗った俺は1泊2万円のホテルに泊まり息巻いていた。
高々2万円のホテルと思うなかれ。
俺のマンションの家賃は月に5万5000円、水道光熱費は大体一ヶ月で3万円前後。食品は約3万円位でトータル11万5000円だ。
要はホテル代の6日分で普段の生活費が飛ぶ。だが、それを上回る稼ぎがある。
そう信じて福岡でもダンジョンに入り続ける。
ところがだ、福岡に来て1ヶ月。
今はダンジョンに入る気力もなく、泊まれるホテルもなく。行き着いた先はネットカフェを転々としながらの、その日暮らしの生活だ。
休み無く毎日ダンジョンに入り、1日100匹近いモンスターを倒し続ける事が飽きてしまった。
毎日、ダンジョンとホテルの往復、戻れば疲れすぎてそのままベッドに倒れ込む。最初こそは正直楽しかった、見た事無い金をもらい興奮していた。でも、楽しく無くなってしまったのだ。
それで何か遊ぼうとして気づいた、俺はダンジョン以外で何をして良いか分からない事に。
飲まない酒に金を払う気にもなれず、夜の町にいるお姉さん達を金で買う勇気もなかった。買いたい服や、好きな音楽、免許もないので車やバイクも乗れない。
おまけに宝石を見ても価値がわからない、これといって食べたい物もなかった。今さらだけど何が楽しくて何が好きなのかがわからなかったのだ。
こんな状態に嫌気がさし、やる気も無く家に帰ってきた。
冒険者ってなんだろう? 生活ってなんだろう? 俺が強く有る意味ってなんだろう?
ついにはそんな事を思い、過ごすようになる。




