スノッリの焚火(2)
「――それから、自分がどこにいるのかも分からず、この腹にぶち込まれた忌々しい短剣の痛みに苛まれながら森を彷徨っていた。まるで何年もそうしていたような気さえする……そして灯りを見つけて、来てみたらお前だったというわけだ」
「兄さん、そんな……」
スノッリは額に手を当てて、肩を落とした。指の隙間から炎を見つめる。エギルはまるで追い立てられるように言葉を継いだ。
「なあ、戦場から逃げ出した臆病者を殺しても名誉になるのかな。神は評価して下さるだろうか。少なくとも戦場での俺の戦いぶりは神の目に留まってもおかしくなかったと思うのだが――」
そんなエギルの一言一句が、スノッリには痛々しかった。「兄さん……いいんだ。嘘はやめてくれ」
「お、お前、いま、なんて?」エギルの声がびくりと跳ねた。
「俺はただ知りたいだけだ。本当は何があったのか。戦はソルケルの勝利で終わり、彼は敵方を称えて残党狩りを禁じた。なのにハーコンとラグナルは帰路の途中にある森で殺された。殺人者は見つからないままだ。二人の死に兄さんは関係しているのか?」
「なっ、そっ……なぜお前、そんな事を知っている? 他に誰か来たのか? そいつから何か聞いたのか?」
狼狽する兄の顔を見たくないスノッリは指の隙間から炎を見つめたまま答える。
「いいや。ここには誰も来ていない。だけど頼む、俺にだけは真実を話してくれ。俺たちはたった二人の兄弟じゃないか。いつも二人一緒だったのに、あの戦いに俺は一緒に行けなかった。それをずっと悔やんできた。本当は何があったのか、俺はその場にいてこの目で見るべきだったのに……」
「そうだ、お前はいなかった。お前のせいだ。お前のせいで俺は――」
ぎっ、と苦痛に顔を歪めて、エギルの言葉は途切れた。
スノッリはついに顔を上げて兄の目を見た。よく見知っているはずの瞳は暗い穴のようで、焚火の炎でもその奥を照らすことはできないようだった。
「話してくれ、兄さん。頼む。きっと俺はそのためにここへ来たんだ」
兄弟は沈黙し、スノッリの願いは届かないかと思われた。が、やがてエギルは炎を見つめたまま苦渋に満ちた声で告白を始める。
「戦いの始まりは……話したとおりだ。盾の押し合いから乱戦に移って、それから――」