勇者 vs 獣王十傑衆 十傑衆の一、天空の覇者現る!
ふと思いついたネタを書いてみました。
ご笑納いただけたら幸いです。
深い森の中を進む、武装した小集団がいる。
人数はわずかに四人。
異なる装備を身につけ、周囲を警戒しながらも、その歩みは一切止めずに足場の悪い薄暗い森林を進み行く。
彼らの目的は、魔の森の奥深くにあるという獣王の居城。
人族と敵対した獣族と交渉するため、あるいは……交渉が決裂した場合、獣王を打ち倒すために。
その武威をもって交渉を有利に進めるために集められた彼らは、勇者を筆頭に、諸国に威名冠絶する歴戦の戦士、賢者の呼び声も高い大魔法使い、人の領域を超えるほどの神聖魔力を持つ聖女と、まさに人類最高の戦力と言っても過言ではあるまい。
それぞれが単独で英雄級の戦闘能力を誇る彼らの力が組み合わされれば、魔王すら足元にひれ伏すだろう。
ましてや、ただの獣たちに負ける道理など無いと思われた…………のだが。
立ち塞がる者が現れたのだ!
先頭を進む勇者の足が止まる。
腰にさしている剣の柄に手をかける勇者に続いて、それぞれの得物に手を伸ばす戦士たち。
彼らの目の前には、ぽっかりと丸く開けた広場があった。
深い森の中とは思えない、燦々と草むらを照らす太陽の光。暗がりから急に明るい場所に出たため、まぶしさに眇めた目を凝らして、周囲の気配を探る。
完全にとらえることはできないまでも、この場に何者かがいると確信を持った勇者は、大胆にも隠れる存在に声をかけた。
「出てこい!隠れているのは分かっているぞ!
我らは人族国家から全権を託された勇者パーティ。
姿を現さなければ敵対するとみなして攻撃する!」
一瞬、静寂に包まれるも、どこからともなく女の、それも幼い少女に思える笑い声が聞こえてきた。
「クスクス……よくぞ我が隠形を見破ったものよ。
さすがは勇者といったところかな?」
声が聞こえながらも、まだ見えない敵の姿にさらに警戒度を上げる一行。
「何者だ?姿を見せろ!
我らは獣王と交渉するために、この地に派遣されたのだ!害意はない!」
「フフフフフ!そのように殺気を溢れさせて交渉とは片腹痛い!
それとも人族の交渉とは、剣を片手に持ったまま握手を求めるものかや?
まあよい、我が姿見せて進ぜよう。我が威容に怯えるでないぞ?」
人族最強パーティの殺気も混じる威圧に、いささかも怯まず応対する見えざる敵。
さらなる警戒をする一行は、じりじりと密集隊形に移行しつつも、周りに視線を走らせる。
緊張が高まり、柄を握る手に汗が滲む。
そして、緊張が頂点に達するその刹那。
広場の中央、倒木の切り株に一羽の鳥が降り立った。
その姿を見た瞬間!
「グハァ!?」
諸国にその名声を広める英雄級の戦士が、血を吐いて地に倒れ伏したのだ!
「何だと⁈」「馬鹿な!」
突然倒れた戦士を即座に介抱するのは聖女。
「しっかりなさいませ!傷は浅いですわよ!」
「おのれ!何をした!」
現れた敵を睨みつけ叫ぶ勇者に、何事もなかったかのように答える一羽の小鳥。
「フフフフ、いきり立つでないわ!
そこな戦士は我が威に撃たれたまでのこと。
心弱き者を連れ歩くと苦労が絶えぬことよな?」
歯噛みして悔しさを耐える勇者。
たしかに、その姿を見て平静を保てる人族はそう多くはないだろう。
燦然と照らす光の中に舞い降りたその姿は……。
森の妖精、シマエナガだったのだ!
卵型の丸っこいフォルム。
つぶらな瞳に、ちょこんとした小さなくちばし。
白い体に黒い尾羽が長く伸びているが、それを含めても体長は13センチ程度しかなく、尾羽を除けばわずか6〜7センチほど。
体重に至っては10グラムにも満たない。1円玉硬貨10枚以下の重さしかないのだ。
余りにも小柄で、真っ白な羽毛に覆われた姿は愛くるしさに溢れていた。
……つまるところ、可愛い小動物が大好きな英雄戦士は、そのあまりの可愛さに胸を撃ち抜かれて倒れたのであった。
ちなみに吐き出した血は、突如現れた性癖ど真ん中ストライクな存在に、驚きのあまり頰肉と舌を噛んで出た血である。ついでに鼻血も出ている。
気絶しながらも顔は幸せそうに緩んでるし。ちょっとキモい。
「我は恐れ多くも、獣王陛下より信任された十傑衆の一。
天空と森の覇者、シマエナガのシュネーバルとは我のことよ!
人族の勇者どもよ、見知りおけ!」
口調は上から目線だが、その……見た目はあくまでも可愛らしく、さらに言えば声も鈴の鳴るような少女のもの。
倒れた変態に続き、勇者、賢者、聖女の頬も紅潮し、手は震えていた。
だって可愛いんだもの。
(魅了魔法か?)
(否、魔法が使われた気配は無い。)
(……!)
普段、そこまで動物好きでもない自分ですら可愛らしく思えてしまったため、魔法の存在を疑った勇者だが……。
魔法が介在しなくても魅力を感じてしまうという、その事実にかえって戦慄する。
恐るべし!シマエナガ!
「なかなかに粘るではないか?さすがは勇者といったところか。
だが、どこまで耐えられるかな?」
疑問形と同時に小首をかしげる仕草に聖女が堕ちた!だって可愛いんだもの!
「ああ……!これほど愛らしい存在が、悪しきもののはずがありませんわ!
なぜなら、生きとし生けるもの全てが、神々の御手により生み出された存在なのですから……。」
恍惚とした表情で跪き、潤んだ瞳で祈りを捧げる聖女。残るは二人!
(このままではまずい!)
(しかし、我らはまがりなりにも交渉役。魔法を使われたわけでもないのに、攻撃するわけにもいきませぬ。
いざとなったら、アレをお使いなされ。)
(アレか⁈あんなものが役にたつのか?)
(そこは私を信じてもらうしかありませぬ。私もいつまでも保つか分かりませぬゆえ、頼みましたぞ!)
「相談はまとまったかや?」
ヒソヒソと対策を話し合った勇者たちに、悠然と声をかける余裕をみせたシュネーバル。その名は、外つ国の言葉で雪玉を意味する。
赤い顔と震える手で、それでも交渉を持ちかける賢者。
「先ほども申し上げましたように、我らは交渉役。
シュネーバル殿が獣王陛下の信任厚い幹部ということならば好都合。
陛下への取り次ぎをお頼みできまいか?」
落ちかけてもなお平静を保ち、話し合いを求める賢者に、内心で評価を一段上げるシュネーバル。
やはり人族は侮れぬ。
「ふむ。あくまで話し合いを求めるか。
だが……いかに陛下から森の一部を任されているとはいえ、我一羽では判断しかねるのも事実。
こちらも相談させていただこうか。
集え!我が眷属たちよ!」
一転、話し合いに応じる姿勢を見せる可愛い毛玉に、ホッとしたのも束の間。
最後の一言の意味に気付き、恐れ慄く。
まさか!?
シュネーバルの召集に応じ、軽やかな羽音を響かせて7、8羽の白い毛玉が舞い降りる!
狭い切り株に押し合いへし合い一列に並ぶ毛玉たち。
一羽だけでもギリギリだったのに、じゃれるかのように動くシマエナガたちの可愛らしさに、ついに賢者が陥落した!
「ぶべら⁈」
「賢者⁈お前もか!」
「……もはやこれまで……。
勇者殿、あとは頼みましたぞ……。」
鼻血を流して倒れた賢者。
顔面血まみれの凄惨な状態とは裏腹に、その顔には柔らかな微笑みをたたえていた……。
「フフフ……あとはお前だけだ。勇者よ!」
「くっ……!このままでは!」
フィーフィー、チリリ
これまた可愛らしい鳴き声を響かせる、おしくらまんじゅう状態のシマエナガたちの姿に、もはや勇者の膝は生まれたての子鹿のようにガクブルだ!
(賢者はアレを使えと言っていたが……。
あんな物が本当に役に立つのか⁈旅路の途中で戯れに採取したアレが!
何の役にも立たない、むしろ子供の頃、おふくろに怒られた記憶しかないんだが……。
ええい!ままよ!)
勇者は自身の腰に付けた小型の道具袋から、ある物を取り出し、もはや勝利を確信したシュネーバルたちの前に突き出した!
「そ、それは!」
こんな物が本当に通用するのか?
と、半信半疑で取り出してみたが、ブワッと毛を膨らませて動きを止めたシマエナガたちを見て、自身の優位を悟りニヤリと嗤う勇者。
「そうだシュネーバル……。
これは……俺が道端で拾った……
カマキリの卵鞘だぁ!!」
……………………はい?
ちょっと何言ってるのか分からない……。
マンガならドドーンと見開き一ページを使って、背景に稲妻でも落ちてるところだが……。
広場には涼しいそよ風が吹くばかり。お昼寝したら気持ちいいかも?二人ほどいい顔で寝てるし。
しかし、シュネーバルたちシマエナガはプルプルと震えていた。なんで?
「シュネー様!アレは我らが天敵、大カマキリの卵鞘に違いありませぬ!」「このまま孵化させては不味いことに……!」
そう。
シマエナガさんは、あまりにも小さいため大カマキリに捕食されることがあるのだ!
いくら小さいからって、昆虫に食われる鳥ってどうなの?
しかも、シマエナガさんは虫も食べるのに!
体の大きさがほぼ互角だから、むしろライバル関係か?
「狼狽えるな!彼奴らはまだ孵化しておらぬ!
仮に孵化したとて、育たぬうちに喰らえば我らの勝利は揺るがぬではないか!」
シュネーバルの一喝に、ようやく落ち着きを取り戻すシマエナガたち。
「その通りでございます!」「さすがはシュネー様!」
一族を落ち着かせたシュネーバルは、勇者に取り引きを持ちかけた。
「人族の勇者よ。そなたが手に持つのは、我らの不倶戴天の敵、その卵である。
動けぬ今のうちに成敗するのが得策なのだ。
ゆえに頼む。それを我らに譲ってはくれまいか?」
「ほう……?何やら事情があるようだな。
譲るのは構わないとも。もちろんタダでとはいかないが。」
カマキリの卵鞘のついた小枝をふりふりと動かして、悪人顔で口の端を歪める勇者。それでいいのか勇者。どう見てもやられ役だぞ?
「くっ、足元を見おって……。何が望みだ!」
「ひとつ。道をあけ、我らを獣王のもとに案内すること。
ふたつ。我らの安全を保証すること。
それと……。」
「……みっつ。案内役にはシュネーバル殿、自らがつくこと。」
勇者の言を引き継いだのは、気絶から復活した戦士だった。そんなに気に入ったか。
「おのれ!無礼な!」「シュネー様に何かする気ではあるまいな⁈」
……普通の女の子ならあんなことや、こんなことをされるかもしれないが、可愛らしい小鳥だから愛でられるだけでは?
「……分かった。条件を飲もう。
だが、安全を保証できるのは、我の管轄区域だけだ。他の十傑衆の領域までは保証はしかねる。我らは獣王様のもと同格である故。それで良いか?」
顔を見合わせると頷く勇者たち。
その顔は緩みきっている!超可愛い同行者ができたからな!
「ああ、シュネー様……。」「我らが不甲斐ないばかりに……。」「おいたわしや……。」
「あとのことは任せたぞ。」
嘆くシマエナガたちにカマキリの卵を任せ、勇者の肩に乗り、一行に同道するシュネーバル。背後で戦士が羨ましそうに見ているが、スルーで。
積年の怨みをこめて、卵鞘をつつき回す一族を背に先へと進んでいく。
だが、その先に待つのはさらなる強敵たち!
進め、勇者たちよ!
平和を掴むその日まで!
暗い洞窟の中、いくつかのシルエットが集っている。そのうちのひとつが誰に告げるでもなくつぶやいた。そしてそれに答える声も。
「シュネーバルが敗れたか……。」
「だが奴は可愛いだけの小鳥。言わば、我々十傑衆の門番のような存在にすぎぬ。」
「勇者どもよ、次はそう簡単にはいかぬぞ?
……クククク……ハァーハッハッハッ!」
・シマエナガ めっちゃ可愛い小鳥さん。小さすぎて、オオカマキリに捕食されることもあるのは本当らしい。詳しくは検索してね♡
・勇者 イケメンだがゲス顔も似合う漢。
・戦士 戦闘レベルも高いが、変態レベルも高い中年男性。顔と体はいかつい。
・賢者 老境にさしかかった大魔法使い。童貞。だから賢者。もうすぐ大賢者になるかも。
・聖女 ほっそり儚げな美少女。思い込みが激しい。
・獣王十傑衆 獣王配下の幹部。選考基準は戦闘能力だけではなく、政治力、外交、カリスマなど多岐に渡る。が、判明しているメンバーを見る限り、可愛い小動物が多いようだ。どこかの戦士と同じ趣味かも。
一、天空と森の覇者、シマエナガのシュネーバル!
二、砂漠の暗殺者、フェネックギツネ!
三、雪山の支配者、オコジョ!
四、草原の隠者、ネザーランドドワーフ!
五、南海の王者、フェアリーペンギン!
六、………ネタが尽きた!σ(^_^;)