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緑園  作者: まるだまる
9/10

緑園8 ダンジョンに行こう。

 翌日、僕たちは初級ダンジョンを目指した。

 あのおっさんの声が言っていたダンジョンが初級ダンジョンを指しているのかは疑問だけど。


 初級ダンジョンの最下層は二十階。

 僕たちはまだ一階層を踏破中の身。

 だが、実際自信がないわけではない。

 僕たちは三か月という時間をかけて準備していた。


 慣れないうちは無理、無茶、無謀はしないというパーティー方針で時間をかけた。

 ダンジョンに潜るのも週に二、三回程度に抑えて、攻略に必要な知識を得て、準備や対策を講じる。


 先だってスライムの群れに当たらなければ、僕たちは先の階層へと進む予定だったのだ。

 あの日、スライムの群れに遭遇したのは全くの想定外。かき集めた事前情報でも、スライムが二、三匹くらいなら群れることはあっても、十数匹以上が群れるのは異常事態だった。

 想定外のことが起き、僕らは即撤退を選んだ。


 朝に拾った情報だと、スライム討伐は予想通り昨日のうちに解決された。

 Eランクパーティーが団体で押し寄せ、あっという間に討伐したそうだ。

 向かったはずのモージャンとポロンがアジトに帰ってきていないところを見ると、あまり稼げなくてさらに深いところを目指したのだろう。

 

 初級ダンジョンの入り口にいる門番にドッグタグを見せて入り口を抜ける。

 ダンジョンの門から先はダンジョンの領域。

 一歩入った途端に魔物が潜んでいることだってある。

 

「うぇーい。いつ来ても嫌な空気」

「ラーバはいつも言ってるな。僕は分からないんだけど」

「私も分かりません」

「うぇーい。空気に瘴気が混じってる感じ」

「その瘴気が分からない」

「同じくです」


 野生の勘なのかな?


「とりあえず今日は五階層目指して行けるとこまで行こうか」

「うぇーい。大きく出たね」

「頑張ります」


 門の中に一歩踏み入れると、足元からぞわぞわとした感触が這いあがってくる。

 毎回この感じがあるんで気持ちが悪い。


「うーん、足の裏が気持ち悪い」

「うぇーい。私が感じてるのは、空気にこれが混じってるような感じなの」

「うわ、それ気持ち悪いな」

「私、これも分かりません」


 サティアは単に鈍感なんだと思うよ。

 

 いつ来ても不思議なのが、ダンジョンの中が明るいこと。

 所々に光源が設置されているのか、視界は良好だ。

 暗すぎず明るすぎずで行動しやすい。


「うぇーい。いるね」

「ほいほい。サティアは待機よろしく」

「はいっ」


 ラーバの指し示す物陰を見てみると、ずるずると動く軟体生物スライムの姿があった。

 おそらくコアを傷つけられ、逃げ出したのだろう。

 スライムの形を維持できなくなったなれの果て。

 形が崩れているので、プニプニもしていない。

 

「ほいっと。とどめ刺したよー」

「うぇーい。その先の左右に一匹ずついる」

「はいよ。サティア左よろしくー」

「はいっ、行きます!」


 ラーバが発見し、ボクとサティアで討伐していく。

 サティアが手こずるときはラーバが参戦する。


 ついでに途中の部屋によってアイテムが発生していないかチェック。

 魔物と同じでアイテムもスポーンするのは不思議だけど、僕たちにとってはありがたい。

 ダンジョンが人をおびき寄せるためのエサだというのが定説だ。


「布が落ちてた、これは売れるかな?」

「うぇーい。駄目じゃない」

「草っぽい生地ですね。売れても小銅貨数枚じゃないでしょうか?」

「置いて行こう」

 

 ポイっと捨てる。しばらくしたらダンジョンが食うだろう。

 ダンジョンは生きているというのも定説だ。

 魔物の死体はダンジョンに吸収されるように消えていく。

 冒険者たちもダンジョンで死ぬと遺体も装備品もダンジョンに食われる。


 唯一残るのはダンジョンが食べないドッグタグ。どういう仕組みなのか分からないが、ユミルさんが亡くなったら勝手に出てくると言っていたから、おそらくドッグタグを作るときに使った魔法石が関係あるんだろう。


 ドッグタグを作るときに使った魔法石は、持ち主が死んだことを検知するとドッグタグに「死亡」と記載変更するらしい。死亡と記載されたドッグタグが落ちていると誰かがそこで死んだ証となる。


「前にヨータさんが言ってたダンジョンコア。あると思います?」

「どうだろね。みんな聞いたことないんでしょ」

「うぇーい。発想は面白いと思う」


 ダンジョンにダンジョンコアなるものがあるのか、それとも誰かの管理下なのかは不明だ。

 何故分からないかというと、どこのダンジョンからも痕跡すら見つかっていないからだ。

 過去、何人にも踏破された初級でさえ見つかっていない。 

  

 僕がもつ日本の記憶の中に多くのラノベやゲームの話でダンジョンコアがあった。

 ダンジョンコアの話を二人にしてみたところ、そんな話は聞いたことがないと言われた。

 じゃあ、主みたいなのがいるのかと聞いてみたところ、それもいないと答えが返ってきた。


 この世界でのダンジョン踏破は最下層に到着し石板に触れることだ。

 その石板がコアじゃないかなと僕は思っているんだけど、見てから判断しようと思う。

 石板の部屋を守る魔物はいるものの何が出てくるかはランダムスポーンされるようで運に左右する。

 大体はダンジョンに出てくる魔物らしいが、少し強くなっているという。


「うぇーい。この先は道がない。マップで見ると――違う、下に続いてる」

「ということは、ついに来ました二階層への階段だね」

「三時間くらいかかりましたね。魔物はスライムさんが十匹くらいでしたが」

「戦闘は少なかったから良かったけど、部屋の中を探索しながら来たからね。階段の途中にセーフティルームがあるから、そこでご飯にしよう」


 僕たちにとって初めてのセーフティルーム。

 魔物も湧かないことがこれほど安心感を生むとは、体験してみないと分からないこともあるとつくづく思う。


 事前に得ていた情報通り、階段の中ほどに部屋があり、中は奥行きが10メートルほど、幅は5メートルほどの長細い部屋だった。セーフティルームはダンジョンに複数あり、初級ダンジョンの全てで階段途中のセーフティルームは存在が確認されている。


 壁沿いに小さな水路があって、少しだけ水が流れている。

 この水を冒険者たちが利用しているようだが周りが小汚い。

 飲む気にはなれないけれど、食器を洗う場所としてはいいかもしれない。


 サティアが食事の支度をしている間に、ラーバが手持ちの地図と露店で売っていた地図の照合を済ませる。僕は拾ったアイテムの整理だ。


「うぇーい。マッピング完了。結構合ってたから最後まで使ってたけど、やっぱ露店売りのは駄目だね。これで次からは短縮できるよー」

「ありがとう。買ったやつは何が駄目だった?」

「うぇーい。通路はまあ合ってたけど、部屋の寸法がいいかげん過ぎる。あと罠の位置が微妙にずれてて、これは結構気にしてたから対処できたけど気にしてなかったら危なかった」

「それ初心者殺しじゃん」

「うぇーい。頼りになるのがいて良かったね」


 そんなに胸を張っても揺れないからね。


「はいはい。これからも頼りにしてるよ」

「うぇーい。心がこもってなーい」

「ご飯できましたよー」


 ダンジョン初日なので、まだ新鮮な食材が使えるのはいいよね。

 今日は昨日狩った猪肉焼きと野菜を煮込んだスープとパンだ。

 僕とラーバは手に乗るくらいのパンなんだけど、サティアはフランスパンみたいな長いやつ。

 スープを取り分けてボクとラーバはマグカップみたいなのに入れてるんだけど、サティアは鍋がそのまま食器になる。燃費は悪いが、サティアの馬鹿力は維持しておかないと僕らが困る。


 食事も終わり後片付け、サティアが魔法石を手に水をちょろちょろと流し出し、ラーバが食器類を軽く水で洗う。

 

「魔法石はお高いですけど便利です」

「ああ、今回は火と水の魔法石を持ってきたから、食料は多めに持ってこれた」

「うぇーい。小銀貨一枚したんだっけ?」

「いや、ちゃんとした店で正規品を買ったから二つで五枚した」

「高い!」

「必要経費だよ。火起こししなくていいし、薪もいらない。一番厄介な重い水がいらないからね。水の方が高いんだよ。小銀貨三枚だったからね」

「うぇーい。これどれぐらい使えるの?」

「店の人が言うには壊れるまでに標準的な風呂の浴槽三杯分は保証するって言ってた」

「うぇーい。微妙な量だね」


 壊れない限り再使用可能なものだけど、MPの充填に時間がかかる欠点もある。それに水の魔法石は出てくる量がちょろちょろとしか出ないから量がいるときに時間がかかる。僕が出せる値段ではこれが限界だった。

 僕はMPの制御ができず、壊す原因になりえるので使わないけど、ラーバとサティアには大事に使ってもらおう。僕らの生命線でもあるからね。


 ☆


 二階層を攻略開始。

 露店で買ったマップを参考に、ラーバが若干先行しながら足を進めていく。


 初級ダンジョンの完全マップはギルドに売っているが、大銀貨五枚と高価なので手が出せなかった。

 先人たちが苦労して得た結晶だと言われればその価格も納得せざる得ない。

 

「うぇーい。駄目だこれ。ハズレ引いた。二階のマップ全然あてにできない」

「ありゃあ、ハズレか。当りもあるだけに難しいよね」

「大銅貨二枚ですし、しょうがないですね」

「うぇーい。修正しながら進むから少し慎重にね」

「はいよー」


 手探りでダンジョンを攻略する場合、何が怖いかといえば代表的なのがトラップ。

 初級ダンジョンには命を掠め取る凶悪な罠はないものの、大怪我に繋がる罠は多数存在する。

 ラーバは罠の発見する天性の勘が優れていて、ルトさんにも筋がいいと褒められるほどだったので、僕たちも頼りにしている。 

 

 小一時間ほど慎重に足を進めると、少し広めの部屋に出た。


「うぇーい。本当にでたらめだ。修正するより作り直した方が早いかも」

「今見てるの実は三階のマップだったりして」

「うぇーい。そんなこと……あっ!?」

「え、冗談のつもりで言ったけどマジだった?」

「うぇいうぇーい。これ綴じてる順番がバラバラだ。よく見たら二階と同じマップがある」

「おー、なら逆に当たりだったってことかな?」

「うぇーい。ちょっと手直しするから時間ちょうだい」


 ラーバがマップとにらめっこしている間にボクとサティアで索敵しながら部屋を探索。

 魔物はおらず、壁際に石の棚はあるものの、めぼしいものは何も見つからなかった

 石の棚を動かそうとするが、僕の力ではびくともしない。

 

「サティアこの棚動かせる?」

「やってみます」


 サティアが棚をがっしり掴みひょいと持ち上げ移動させる。

 持ち上げた裏にぽっかりと通路が続いていた。


「ありゃ、隠し通路だ。おーいラーバ隠し通路見つけたよ」

「うぇーい。マジで!? マップに載ってないよそれ」

「ワクワクしますね」


 三人で通路の奥を覗き見る。


「もう一部屋ありそうだね」

「うぇーい。魔物の気配もするね」

「通路が狭いのでちょっとこちらが不利ですね」

「僕だけで先行しよう。魔物はここだとスライムのはずだし、やばかったら即撤退する」

「うぇーい。駄目、トラップを確認してから。怪我して動けなくなったら魔物の餌食だよ」


 結局、ラーバが先に罠の確認をしに行くことになり、一人通路に入っていった。

 待っている間の時間は長く感じる。


「ラーバ大丈夫かな?」

「ヨータさん心配性ですね。ラーバさん強くなりましたから」

「いや、それでも女の子だし、男の僕が残るってのも」

「何か会ったら呼んでくれますよ」


 少ししてラーバが戻ってきた。


「うぇーい。部屋が一つで罠はなし。魔物は通路にスライム一匹だけだったから潰してきた。部屋の中には魔物なし。その代わりいい物が置いてあったよ」


 ラーバの笑う姿を見てほっと一安心。

 

「罠だけでよかったのに」

「うぇーい。そこは効率よくね。不意打ちしたから全く被害なし」

「ラーバさんの無事も確認できましたし、進みましょうか」

「うぇーい。多分驚くよ」


 狭い通路を抜けると、10メートル四方の部屋に着いた。


 長方形のテーブルが並んでいて、なんとなくだけれど食堂を思い出させる。

 テーブルには複雑な編み込みで作られた織物が掛けられており、どれも高価そうな感じだった。

 それぞれ椅子が六脚置かれ、テーブル上には食器や燭台も並んでいる。 


 壁際には石の棚が幾つかあり調度品が置かれている。

 ガラスのコップや銀製の器、金の燭台、書物、宝飾品が数点。


「うわ、お宝ばっかじゃん」

「うぇーい。でしょー」

「お宝です! これ全部売ったら金貨十枚くらいいくんじゃないですか?」

「偽物じゃなかったらいくでしょー」

「うぇーい。持って帰れるだけ持って帰ろう」

「「うぇーい」」


 僕たちは興奮していた。

 背負い袋を広げ、お宝を詰めてキャッキャッとはしゃいでいた。

 初めて一階層を突破し、ダンジョンで初めてお宝といえる物に遭遇したのだからしょうがないと思う。

 だが、あるものを見つけたとき、明らかにおかしいと気付いた。


「全員集合!」

「うぇーい。なになに!?」

「はいっ!?」


 ラーバとサティアを呼び寄せて、テーブルの上を指差す。

 ここにないはずのものが当たり前のように置かれている。

 テーブルの上に名札が置いてあり「冒険者御一行様」と漢字で書かれていた。


「知らない文字です。神代文字でもないし、魔法文字でもない」

「うぇーい。ヨータあれなんて書いてあるか分かるの」

「冒険者御一行様って書いてるんだよ。僕の知ってる字だ。ラーバ何か気配とか感じない。ちょっとでも違和感感じたら教えて」

「うぇーい。そういえば、ここ空気が澄んでる」

「瘴気がないってこと?」

「うぇーい。そうだね。今の今まで気づかなかった」

「ヨータさん、ラーバさん、嫌なもの見つけたというより、無くなりました」

「何が無くなったの?」

「私たちがきた通路です」


 ちょっと冷静になろう。


 まずラーバは空気が澄んでると言った。

 ここがダンジョンなら瘴気がないのはおかしい。

 つまり、この空間はダンジョンじゃない可能性が出た。

 

 通路が無くなったら、僕らはどうやって帰ればいいか不明。

 最悪、ここで短い一生を終えることになるだろう。

 だが、これはもしかして本当に招待されたのかもしれない。


『椅子に座れ。冒険者たちよ』


「この野太い変な声は——昨日のおっさんだな!」

「うぇーい。なになに、これ一体誰がしゃべってるの!?」

「頭の中に直接声が入ってる感じがします。気持ち悪い、声も気持ち悪い」


 いきなり声を掛けられたので僕たちパニックです。

 何気にサティアがおっさんの声をディスってて笑いそうになる。


『椅子に座れ』


 昨日から思っていたけど、このおっさんの言い方はちょっと傲慢だな。


「ラーバ、サティア指示に従おう。殺すつもりならとっくに殺されてるはずだ。僕らに話があるみたいだよ。うぇーい(相手の)うぇい(出方を)うぇーい(見るよ)

「「うぇいうぇーい?(大丈夫なの)」」

うぇいうぇーい(命は取らんだろ)


 テーブルに並ぶ片側の椅子にラーバ、僕、サティアの順に座り、対面は空席のまま。

 おかしい。椅子に座ってもうかれこれ五分は経つが音沙汰がない。

  

うぇーい(いない)?」

うぇーい(分からん)

うぇーいうぇーい(まだでしょうか)?」

うぇいうぇーい(それも分からん)」 

    

『怪しげな奇声を放つ者たちだな』


「「「!?」」」


 びっくりした。

 いつの間にか、対面の椅子に筋肉マッチョなおっさんと銀髪のきれいなお姉さんが座っていた。

 もう一人いるけど、ローブを深くかぶっていて顔や性別が分からない。


『言わなくても分かると思うが我らは神だ』

「分かる方がおかしいと思うよ?」

『む、分からんか人の子よ』

『だから言うたではないか。普通に話をすればよいと』


 おや、銀髪のお姉さんがおっさんを嗜めてくれてる。

 いいぞ、もっとやれ。

 

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