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緑園  作者: まるだまる
2/10

緑園2 町に行って冒険者になろう。

 僕の名は陽太。地球生まれの日本人。

 僕がこの世界――アレグラッドに転移してきたことを()()()()()


 この知識の他に何故か知っていることがぽつぽつと浮かんでくる。

 いつ知ったか、どうやって知ったのかは分からない。

 

 日本のことは覚えているし、現代社会の知識も少しは持っている。

 でも、それはマクロ的に知っているだけで、焦点を自分に当てると何も浮かばない。自分のことや家族のことも全く不明で、ここに来る前に自分がどういった存在だったか分からない。

 日本人で「陽太」という名前だった記憶しか残っていないからどうしようもない。


 周りは見渡すも目立つものがこれといって見当たらない平原。

 そんなところにぽつんとただ一人。

  

 ここでボーっとしてても何も始まらない。

 僕がサバイバル知識でも持っていれば、まだ何かしようと思っただろう。

 残念ながらそんな知識は持っていないようだ。


 お日様は低い位置にあるようだが、明るさからいって朝方だろう。

 ぐるっと見渡しても平原、かろうじて遠くに山がいくつか見える。

 少し歩くとむき出しの土が水平線まで続く街道っぽいのを発見した。

 この街道を歩いて行けば、町に辿り着くのだろうか。


 神様とか創造主に会った記憶もないが、僕は自分だけが見られるステータスがあることを知っている。

 目の前に画面が表示されるように出てくるのだが、開けていても他人には見えない仕様だ。


「ステータス・オープン」


 名前:ヨータ 性別:男 年齢:18歳

 レベル:1 職業:無職 

 スキル:なし

 属性:土

 魔法:なし

 加護:なし

 転移の恩恵:全能力・耐性100倍、経験値取得100倍、ドロップ率100倍

 主神の呪い(怒):転移の恩恵の性能が1%にダウンする


 名前の表記が陽太からヨータに変わっている。年齢は18歳。

 これ元の年齢なのかな。そうだとしたら高校生くらい。

 引き籠りだった可能性は否定したい。

 転移ほやほやだからか、レベルが1なのはいいけど、無職ってのは何か嫌な気分だ。

 何かしらの職を早めに手に入れよう。この世界にバイトとかあればいいな。


 属性は土の属性のみ。

 転生ものとか転移もののラノベだと、最初から全属性が使えたりするが、僕は違うらしい。

 これ実は土じゃなくて、プラスマイナスの記号だったら嫌だな。


 スキルと魔法と加護はなし。

 試しに手をかざして「ファイアーボール」と唱えてみたけど、何も起きない。

 魔法なしと書かれているのだから、当然の結果であるものの、少しだけ期待した自分が悲しい。

 スキルと魔法はおいおい覚えるだろうから、今は良しとしよう。

 加護もないけれど僕をここに連れてきたやつは随分とケチのようだ。


 転移の恩恵、これはずばりチートな能力だ。

 特に経験値とドロップ率の100倍は美味しいと思う。

 しかし、一番下に書いてある呪いを理解した瞬間、絶望に変わった。

 転移の恩恵で能力100倍のはずが、呪いのせいで1倍?

 チートはあるけど、呪いで無効化されてるって何なの?


 おそらくこの呪いをかけた主神とやらが僕をこの世界に連れて来たのだろう。

 僕が主神に何をしたのか覚えていないからどうしようもないけど、教会とか神殿に行ったら、ごめんなさいから始めよう。呪いが解除されなくても、(怒)が(笑)くらいになって呪いが軽減されることを期待するしかない。無理かな。


 これも目的の一つにしよう。


 途方に暮れたあと、とりあえず町を目指して街道を移動することにした。

 轍が道に残っているので、人の往来は間違いないようだ。


 身に着けているものは、僕の記憶にない意匠の綿生地っぽい服で若干厚みがある感じ。

 ズボンは紐で腰と足首を結ぶタイプ。随分と簡易な作りだ。

 

 季節的に春といった感じだろうか。

 今の僕は貫頭衣を被っているが、風は穏やかで暑くも寒くもないので、季節にマッチした服装なのだろう。


 現地の旅人スタイルというところかな。

 この世界では標準的な服装なのかもしれない。


 肩からパンパンに膨らんだ肩掛けの鞄をかけている。

 鞄の中には旅に必要な食料、水袋や薄い毛布が入っていた。

 他は何に使うかよく分からない輪っかとか紐とか雑多な小物がいっぱい。

 

 誰が用意してくれたか知らないけれど、僕は旅人の設定なのだろうか?

 道具の使い方が分からないので、数日で野垂死にする自信だけはあるぞ。


 旅人設定なら身分証を持っていないのはおかしいだろうか。

 聞かれたら、今まで山で暮らしていて身分証がないことと、町には仕事を探しにきたことにしよう。


 この近くにはスワロという人間の町があるはず。

 言葉や文字は大丈夫なはずだが、ちょっと不安だ。

 何故だか僕はそのことを知っている。

 

 この知識を誰かに聞いたのか、それともインストールされたのか。

 全く記憶にないのに知識として持ってる。


「……うん、考えても分からんが、インストールされたと考えるのが無難か」


 街道沿いを一時間ほど歩みを進めていくと、遠くに砦のような外郭が見えてきた。

 方向があっていたようで、ほっと胸を撫で下ろす。


 魔物に遭遇しなくて良かった。

 武器も持っていない今の僕が遭遇していたら死ぬ未来しか見えない。


 見えている砦の先にあるのがスワロのはずだ。

 僕の知識が間違っていないとするならばだが。

 インストールされた知識が正確なのかどうか分からないので、頼りにするけど信用し過ぎないようにしよう。言葉や文字が分からないかもしれないのが不安だ。


 インストールされている知識だと、身分証がないとすぐには町に入れず、門で犯罪人かどうか調べられる。調査が終わって疑いが晴れても、町に入るために入場税を払う必要がある。

 

 肩にかけた鞄の中から小さな袋を取り出す。

 袋の中には大小二種類の銀貨と銅貨が入っている。

 大きい方は五百円硬貨くらいの大きさで、小さい方が十円硬貨くらいの大きさだ。

 正確に確認していないが、手にした重さからそれなりに枚数はあるだろう。

 お金の入った袋を鞄の中にしまい直し歩みを進める。


 外郭に近づいていくと、周りの風景に少しづつ外郭の外に農地が見え始める。

 てくてくと歩いて行くと外郭に大きな門と小さな門が見えてきた。

 門の前には馬車や人が列を作って並んでいるのが見える。

 大きな門は馬車とか荷車用で、小さな門は手持ちの荷物しかない人用のようだ。


 小さな門の列に僕も並ぶことにする。

 列に並び、近くにいる人たちの声に耳を傾ける――言葉は理解できた。

 小さな門の脇にある看板を見る――衛兵詰所と書いてある。

 不安だった言葉や文字はどうやら大丈夫のようだ。


 挙動不審にならないように目だけを動かして情報収集する。

 人によってカードのようなものを見せたり、ドッグタグのようなものを見せたりしていたので身分証には複数の種類があるようだ。この知識はあってもおかしくないのになかったな。


 しばらくして僕の順番が回ってきた。


 門番の衛兵から名前を聞かれ、身分証を見せろとか、どこから来たとか、町に来た目的とかを聞かれた。前もって考えていたとおり、山育ちで身分証がないこと、この町には仕事を探しに来たと説明した。


「ヨータ? 珍しい名前だな」

「そうなのか?」


 門番はぎろりと睨みつけてくるが、ここでビビったら駄目だろう。


「まあいい。この石板に手を触れてみろ」


 台の上に紋様が刻まれた二十センチくらいの石板が置いてあった。石板にはビー玉のような透明な石が埋め込まれている。石板の紋様を見て、魔法文字だと気付いた。

 紋様を見た瞬間に魔法文字だと気付けたのはインストールされた知識なのだろう。

 書いてある魔法文字が何を意味するのかは分からなかったけれど。

 

「ほい」


 石板に手を置くと何の反応も示さない。

 これが犯罪者かどうか判定する魔法道具のようだ。

 門番の様子からすると、反応が出たらアウト判定だったようだ。


「よし、入っていいぞ。入場税、銅貨三十枚だ」


 大銅貨一枚で小銅貨十枚分になるはず、僕の記憶がそう教えてくれる。

 小袋の中から銅貨の大きい方を三枚取り出して差し出す。


「銅貨三十枚分として大銅貨三枚、確かに受け取った。今日から7日間が滞在許可となる。その証としてこれを渡しておく」


 門番から一枚の木札が手渡された。

 木札には滞在期間が記されていて、町のシンボルマークらしき焼き印も入っている。

 滞在期間を超えると不法滞在となり重罰に処せられるそうだ。

 

「働き口を探しに来たと言ったな。この七日間で役場なり冒険者ギルドなりに行って身分証を作りな。そうすれば、今渡した札を相手が引き取り代わりに身分証をくれる。それで不法滞在ではなくなる」


 怖い顔をした門番だが、ちゃんと教えてくれるので人はいいらしい。

 

「えっと、役場とか冒険者ギルドは分かりやすいところにありますか?」 

「役場に行くなら大通りを真っ直ぐ行って噴水のある広場で向かって右に曲がれ。冒険者ギルドに行くなら同じ噴水広場を向かって左だ。その先はどちらも目立つ建物だからすぐに分かる。町の中は比較的治安はいいが、悪い場所もある。気を付けな」

「ありがとう。気を付けるよ」


 門番に教わった通り大通りを歩いて、噴水広場までたどり着く。

 思っていたよりも人口は多いようだ。大通りを歩く人の姿もかなり多い。 

 衛兵姿ではないのに、剣や槍を装備した人たちも普通にいる。

 

 道のりですれ違った中に獣人の姿がちらほらと目に入った。

 人の姿に近いものや獣の姿に近いものとバラバラだ。

 違和感なく人間と楽しそうに会話したりしているので、種族的な差別は見た感じないようだ。

 エルフやドワーフらしい種族は見かけなかったが、これだけ人が多いなら少しくらいいるかもしれない。

 

 早くエルフさんが見たい、エルフさん。

 美人さんのイメージがあるだけに早く見てみたい。

 ちょっと尖った耳のタイプより長耳エルフを希望したい。


 異世界テンプレの一つといえば冒険者ギルドに登録だろう。

 身分証取得にもなるし、もしかしたら仲間に出会えるかもしれない。


 まずは受付のお姉さんと仲良くしないとね。

 お行儀よくして印象をよくする努力をしよう。

 お姉さんがいることを切に願おう。


 目的が決まったので、噴水広場を左に曲がって、冒険者ギルドを目指す。

 門番は目立つ建物と言っていたが、確かに遠目でも目立っていた。

 酒場を大きくしたようなものをイメージしていたが、高級な宿屋にしか見えない。

 三階建ての白い石造り、幅だけでも隣の建物の数倍はあるんじゃないか?

 冒険者ギルド立派すぎだね。


 ギルドの中に入ると、引き出しを開けたかように僕の知識が浮かんでくる。

 ふむ、カウンターみたいなのが複数あるが、受付の他にあるのは報酬受取所と持ち込みの査定所だね。

 それぞれ複数の窓口が用意され、窓口担当以外にも中で働く人数が多い。

 受付窓口に行くときはおっさんを避けて、お姉さんのところにしよう。


 向こうの壁に貼ってあるのは依頼か。

 ちょっと見てみると、依頼がランクごとに分かれているのは仕様かな?


 昼前だからか中はそれほど混雑していない。

 丸テーブルを囲んで雑談している冒険者もちらほらといるが、依頼にあぶれたのだろうか。

 話に夢中で絡んでくる気配は感じられないが近寄らないようにしよう。


 がらがらの受付――手が空いているお姉さんのところに行って、門番からもらった木札を差し出して冒険者登録をお願いする。

 受付のお姉さんに小さな囲い部屋に案内され、必要な書類を渡され簡単な質問をされた。

 自分自身この世界の文字が書けるのも不思議だったが、名前だけ書いておく。

 受付のお姉さんから受けた質問は門番とほぼ同じ内容を聞かれた。

 ここで職業も聞かれたので無職ですと答える。


「もしかして、ヨータさん記憶失くしてます?」


 何故分かる?

 これは嘘をつかない方がいいと直感が働いたので、名前以外の記憶がないと正直に言うことにした。


「ああ、やっぱりですか。でも安心してください。町に入れたのであれば問題ないので登録に影響はございません」


 対面で冒険者のシステム説明と注意事項を受ける。


 お姉さんの話は僕の知識にほとんどあったので、お姉さんの胸に意識を向ける。

 まだ若い感じだけど僕より上っぽい。歳いくつかな。

 お姉さんが腕を動かすと胸がたゆんって波打ってる。

 肩凝りとか辛いだろうなー。

 一応、お姉さんの話に耳は傾けておいて、僕の知識とすり合わせをしておこう。

   

 冒険者に登録すると最初はFランクから始まりAランクまではギルドが承認する。

 依頼を受けることができるのは一つ上のランクのものまで。

 僕の場合はEランクまでの依頼を受けられるようになる。


 依頼によって報酬とは別に点数が決まっており、依頼を達成すれば自分の持ち点に加算される。

 持ち点が規定数に達するとランクアップ試験に挑戦できる仕組み。


 試験をクリアできればランクアップ。

 できなければ持ち点が半分になり、再挑戦するには持ち点を規定数まで貯め直さないといけない。

 

 持ち点は自分と同ランク以上の依頼でないと加点されない仕組み。

 上位者は下位の依頼も受けられるが、ランクが低い依頼だと持ち点は増えない。

 下位ランクは報酬も低いので旨みは少ないだろう。


 依頼に失敗したり放棄したら違約金が発生し、依頼料の三割が違約金になる。

 三回連続で依頼を失敗するとランクダウンの対象になる。

 無理はするなってことだね。


 ふむふむ。僕の知識とすり合わせた結果、概ね合ってるので良しとしよう。

 そろそろ受付のお姉さんの胸も堪能できたので、目を合わせることにした。


「では、説明を終わりますが登録してよろしいですか?」  

「お願いします」

「では、この魔法石に血を一滴垂らしてください」


 魔法文字の書かれた石と針を一本渡される。

 痛いのは嫌だけど仕方ない。


 ちくっと痛い。


 魔法石に血を垂らすと、魔法石の形が変化して銀色のドッグタグみたいになった。

 石は一つだったのにドッグタグは二枚できている。

 二枚のうち一枚はギルドで保管されるようだ。


 手にしてみると、シンプルなデータが記載されていた。

 本当に必要最小限の情報だけだった。

 

 名前:ヨータ 性別:男 年齢:18歳 レベル:1

 職業:冒険者 ランク:F 登録:スワロ


「年齢は18歳でレベル1ですか……一応これで、この町で登録した冒険者という証になります。身分証としても使えますよ」

「分かった。でもこれすぐに失くしそうだよね」

「大丈夫ですよ。自分の名前のところを指で触れてみてください」


 言われたとおり指で触れてみると、ドッグタグが消えた。


「え、どこ行った?」

「手の上に戻れと念じてみてください」

「こう?」


 ドッグタグ戻ってこい。

 何もなかった手の平にドッグタグがふっと出現した。

 これは便利。失くすことないわ。


「これなら失くさないで済むね。どういう仕掛けなの?」

「そういう魔法石なんですよ。詳しくは私もよく分からないです。あ、もしお亡くなりになったときは、勝手に出てきますので」


 なんとなく血を触媒にした契約魔法な気がするな。

 当たらずとも遠からずだろう。


 受付のお姉さんから冒険者養成学校を勧められたので話を聞いてみる。

 ギルドの用意した冒険者向けの学校のようなものらしい。


 一度だけしか受けられないが、Fランクの内は後からでも受講できる。

 今なら今期の講習が開始して間もないので、僕をねじ込むことは可能だそうだ。

 もし受けなければ、次の機会は早くても三か月待つことになるらしい。


 システムを聞くと――


 期間は最長半年。宿舎あり、個室あり、食事は朝夕二食付きで費用はタダ。

 食事の質もギルド職員が太鼓判を押すほどの腕前らしい。

 宿舎で共同生活を送りながら冒険者としてのいろはを学ぶ。

 期間が終わるか、Eランクになれば卒業となり、宿舎を出ないといけない。


 こんなおいしい話があっていいのかと思っているとデメリットも教えてくれた。 

 色々タダにしている代わりにギルドの塩漬け依頼を処理するのが義務だそうだ。

 依頼に対して学生に拒否権はないが、報酬は個人ごとにちゃんと貰える。


 やだ、ブラックの匂いがするわ。


「心配しなくても、新人相手に無茶振りしませんよ」

「そうだよね。失敗したらギルドも困るもんね」

「きついのも確かにありますけど、全部が全部というわけではありません。難を言うなら仕事の割には報酬が安いといったところでしょうか」


 衣食住のうち食と住をギルドが用意してくれるなら、これはぜひ希望しておきたい。

 希望すると受付のお姉さんがほっとした顔をした。


「ヨータさんは記憶を失っているみたいなので、念のために言っておきますと、その年齢でレベル1って、かなり珍しいですからね?」

「何ですと?」

「普通の生活してたらそれだけでレベルは上がるはずなんです。そうですね18歳だと少なくともレベルが5辺りになるのが普通です。今までどうやって生きてきたんですか?」


 平原からここまで歩いてきただけなんだけど。

 それでレベルが上がったら逆におかしくない?


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