第三話 メーデン
「おーい。鈴木悠斗くーん。」
「鈴木くんー。大丈夫?」
振り返ると佐藤優衣さんのご尊父が佐藤優衣と連れ立ってお屋敷の玄関から走りくる。扉は私が開けっぱなしにしておいたから彼ら二人はそのまま私と同様靴も履かずに出てきたようだ。
「大丈夫ですが、あれをご覧ください。」
私は1kmくらい上方の空を指差しながら言う。
「な、なんだあれは。」ご尊父of 佐藤優衣の声
「なにあれー。」佐藤優衣さんの声
佐藤優衣さんは、履く余裕がなかったのか下は下着のパンツである。目のやり場に困る。
周囲の住人の方々も家々から出てきて何か叫んだり言ったりしているのが聞こえる。
しかしながら、隕石ではなく宇宙船か。この世界の現在の常識では俄には信じ難いが。しかし確かにあの隕石(メーデン曰く宇宙船だが)は今ではどんどん減速しているようにみえる。寧ろほとんど止まっているくらいの低速度だ。軌道から察するとこの庭に着陸しそうではないか。やはりただの隕石ではないか。私はメーデンに負けた気がした。
「おい、鈴木悠斗、宇宙船がここに来るぞ。どこか邪魔にならないところに行くんじゃ。」
メーデンが落ち着いてはいるが怒りの篭った声色で私に言う。
「私に命令するな、メーデン。私は私の判断で動く。」
そう叫ぶと私は私の判断で退避する。しかしながらメーデンの口ぶりが気になる。何か知っているのか。
ちょうどいい生垣があったのでその裏に回り込む。お屋敷の内部に避難することも考えたが生で宇宙船を見てみたかったからだ。
球形にアイスクリームのコーン一つがひとつついたようなフォルムに金属光沢のあるボディ。まるで金属でできたアイスクリームのようだ。
「本当にこの庭に着陸しそうだぞ。」
私は固唾を飲んで宇宙船の行方を見守る。
「自分だけ逃げてずるいぞ。鈴木悠斗くん。」
低い男の声がするのでびっくりして声の方を振り向くと佐藤優衣さんのご尊父がいらっしゃった。
「わあ! すみません。つい自己保存欲を満たすのに必死になってしまっていました。」
つい先ほどまで死んでもいいかと思っていた男の台詞とは思えない台詞が私の口から出たので私自身驚いた。私は私が土壇場では命が惜しい人であることがわかり意外な感じがした。
「ははは。面白い言い訳をする子だなあ。私はなにも本気で怒ってる訳じゃないよ。」
佐藤優衣さんのご尊父が仰る。声が低い。
「鈴木くんって変わり者だよねー。あひゃ。」
佐藤優衣さんのご尊父の後ろから出てきた佐藤優衣さんがにこにこ笑顔で笑う。笑い方に癖がある。大学でもそうだったな。忘れてた。見た目がスレンダー美少女だから何かの間違いじゃないかとさえ思う。しかしありのままを受け入れよう。
また宇宙船の方を見上げると、突如としてそのアイスクリーム型宇宙船が爆発する。
「わあ!」
私は叫ぶ。
「鈴木悠斗、逃げろ。敵襲だ。」
メーデンが言う。
「えあ?」
私は訳もわからず言う。