第八章 - 七月五日(木) 雨 続
七月五日(木) 雨 続
お昼を食べている途中に、色々考えました。
もし今回の失踪が本当だとしても、僕に何ができるのでしょうか?
それと、その謎の依頼人は、僕に何かして欲しいのか?その人には、何の目的があって、そんなことをしているのでしょうか?そもそもそのメール、それは僕個人への依頼か、それとも色んな人にまとめて送っているのでしょうか?
今僕が知っているのは、店名と場所だけです。それを知って何になるのでしょうか?実地に行く必要はあるのでしょうか?そこは実家であって、現在住んでいる所とは限りませんし。それに、万が一失踪は本当なことでしたら、ご家族が動いているはずですから。
そもそも、何故僕はここ数日、こんなにも夢中にこれを追ってたのでしょうか。
そんなことまで考え出していたら、いつのまにかご飯を食べ終えていました。そして片付けている最中に、PCのメールの着信音がありました。
そしてすぐに、電話も鳴りました。種田さんからです。
なんと、既に「海幸ジョッキー」さんの顔と本名を特定できたとのことです。その推理と論証の過程をメールで僕に送りましたと。
一通りメールを拝見しました。やはりインターネットは凄まじい、という一言に尽きます。昔の推理などこれと比べれば色も褪せるほど、物事の繋がりがよく見えます。現代テクニック畏るべし!
推察と論証する所は結構長かったですが、簡単にまとめると、父方と母方の親族を、「AdeleThiMai」さんをはじめとするSNSアカウント間の繋がりから洗い出し、推定によって擬似的な系譜を並べ、そこから苗字的に親しいはずの人から情報を掘り出す試みをしたそうです。
そこで発見されたのは、自分の娘がある同好会雑誌の表紙を描いたと、誇らしげにその写真とともにあげた約10年前のつぶやきでした。その雑誌の発行情報と照合すると、表紙は確実に「Donpond」さんの手によるものだったそうです。以前絵のコンテストに入選した話(真偽は不明だが)もありましたので、絵に定評があるのはどうやら本当のようですね。
更にそれを呟いた人のあげた写真などを掘り出してみると、その娘さんの写真がありました。一部の写真には下の名をプリント写真風に落書きしています。そして並べた系譜からその父方のアカウントを掴めて、苗字も知り得ました。
そして何より、その写真に映っている子は、二つ目の動画に映ってた中の一人でした。
ここまで来ると、もう僕にできることはありません。
「海幸ジョッキー」の中の人は既に顔、姓名とも洗い出されました。でも驚いたのは、その苗字は「Kigawa」とは何の関係もありませんでした。全く違った別の苗字です。当然、日本の。
ですが、僕はその名前をここに書く気はありません。
推理は既に終わっていますから。
僕が出した結果でもないし、何もなければ、その名前を特にどこかに出したり、使ったりつもりもありません。
結果は推理において、さほど大事なことではありませんから。
そうそう、一つ気付いたこともあります。メールの中で添付された、その父方の、多分父親本人のSNSアカウントでは、勤め先をちゃんと居酒屋「奇天ろく」と書いてありました。これで全ての証拠が噛み合ったとも思えます。
とにかく、これで僕の出番は終えました。推理も既に完了で、これ以上の詮索は必要ないと思います。
朝床に 聞者遥之 射水川 朝漕ぎしつつ 唱船人
夜は久しぶりに、酒を出そうと思います。酔っ払って瞭司にうざがられなければいいですけどね。
午後5時ちょい過ぎに加筆。
種田さんから連絡が来ました。
明日18時に、「海幸ジョッキー」は、復帰配信をするそうです。既にSNSで発表しました。
となると、やはり失踪は、ただのファンたちの過剰反応か?しかしなぜ、このタイミングで?
とにかく、明日僕も見てみることにしましょう。