第七章 - 七月五日(木) 雨
七月五日(木) 雨
目が覚めたら、枕元が濡れていました。
何か悲しい夢を見ていたみたいで、痛みのある感じも脳から暫く拭えませんでした。この悲しさが残ってなければ、てっきり雨漏れかと思っちゃいますよ。
どうやら僕の頭はまだ15年前のあの日から抜け出せずにいるみたいです。
そういえば昨日の日記では、瞭司のことを書くのすら忘れていましたね、これはいけません。昨日は起きていてゲームしていたと思いますが、何分僕も調べることに没頭していて、あまり気にかけることはできませんでした。これからはこんなことがない様、戒めにも記して置かなければ。
昨夜は新しい突破口を考えて考えてそのまま寝入ってしまいました。が、何もいい発想も気づきも浮かび上がってきません。とりあえず先に朝食を摂ることにします。
今日は七月に入ってから始めて天気が崩れました。この雨が来なかったら、まだ梅雨の時期であることを忘れるところでしたよ。外に出られそうにもないから、冷蔵庫にあるもので今日の献立を考えなくては。
朝ごはんを食べているうちに、あの二つの動画をもう一度見て、人物関係を考えることにしていましたが、突然思わぬ収穫がありました。
それは一つ目の、恐らく宴会の席を撮ってる動画で、偶然に映ったポスターが3枚あります。居酒屋でよく見る地酒や当地名産物のポスターみたいなものです。携帯で撮った動画の故、手のブレもあって一部がボケていますが、大きい字なら何となくクロスワード感覚で穴埋めできます。
真ん中で一番見えやすい一枚には「南予」と「タイ」、画像はよく見えないが、どうやら魚料理のようです。その右に一部見キレているのは「じゃこ」、画像から見ると恐らくじゃこ天かじゃこカツのところでしょうか。左上にちょっっぴり小さい地酒のポスターがあります。ラベルの字はよく見えませんでしたが、これだけキーワードがあれば、大体推測できます。
この動画は、多分南予地方付近のどこかの居酒屋で撮りました。真ん中のポスターにあるのは恐らく法楽焼でしょう。「愛媛県 地酒」で少々調べてもみました。映ってた地酒ポスターにあるラベルと同じデザインの酒はありませんでしたが、辛うじて見える一文字「山」と同じフォントの字で書かれているラベルは見つけられました。色々考えた結論、ポスター自体が古いもので、ネットに現在販売されているこのラベルはデザイン変更後の可能性が高いと思います。
ともあれ、一つ目の動画は、愛媛県南予地方付近の居酒屋で撮ったもの、これを結論④とします。
「これらの動画は二つとも海幸ジョッキーと関連がある」という前提条件を設けた上で考えると、宴会に顔出しているのは「海幸ジョッキー」さんの知り合いか親戚の可能性が大きい。撮影者のぎこちない日本語も納得できます。ベトナムからの親戚も一緒に移住してきたともあれば、お互い近くに住んでいるかもしれません。これを火曜日で立てた仮説②と結ぶと、この居酒屋も愛媛県にある唯一のカトリック教会の近くにある、という仮説も立てられると思います。これを何と記そう…仮説②-1?
ともあれ、もっと情報があれば、居酒屋の場所も特定できると思いました。朝食後、とにかく満遍なく一つ目の動画の背景に映ったものに目を凝らし、使えそうな情報を掴めようとしました。そこで気づいたのはカウンターと板前を仕切る暖簾。その模様から見ると恐らく独自のもので、加えて何らかのロゴのようなデザインがありました。これは店の名入れでしょうか?動画の解像度故、そのロゴに書いてある文字らしきものを弁別できませんが、目を細めて丸くして何度か繰り返しているうちに、右上に「亭」らしき構造は何となく見えました。
この暖簾のデザインこそ、僕が求めている突破口かもしれません。真っ先に暖簾だけ切り取って検索にかけてみました。が、当然のように、この解像度で何も出るはずがありませんでした。愚痴ですが、最近の画像検索機能は十年前と比べてかなり落ちぶれていると感じられます。今から十年前にこのような解像度でトレーディングカードを検索しても的確に探り当てた経験がありますからね。
それはそれとして、画像から無理でしたら、地道に地名をキーワードにして探すしかありません。レビューサイトなら内装の写真があるはずです。仮説②で得た4ヵ所の中に、南予地方に教会は一つしかありません。ですがちょっと北に行った所、松山市を中心に市内には幾らか散見されています。その二つの地域を入れて、検索結果をしらみつぶしで調べることにしました。
かれこれ2時間かけて、似たようなデザインの暖簾などの収穫はないまま。半ば諦めた感じで「亭」をも入れてみましたが、何とそれがあっさり出てきました。しかも出てきたその店名は、「亭」とは何の関係もなく、『奇天ろく』という名前でした。一体どこに引っかかったんでしょうか………
ともあれ、結果オーライです。レビューサイトだけでなく、ストリートビューの写真からでも、店内外に動画と同じデザインの暖簾があることを確認できました。この店で間違いありません。動画はこの店で撮影されてました。どうやらその字は「亭」ではなく、「奇」でした。右上に「奇」、右下に「天」、「天」の左払いを伸ばして左で一気に連ねて「ろく」のひらがな2文字、のデザインでした。シンプルですが素晴らしい。最初はずっと左から右に読んで「◯◯亭」かと思ってましたよ!
そして、店の場所ですが、松山市内から遠くない南西外れにあって、しかも一番近い教会からはわずか徒歩10分。
あとはこの店とこの人らとの関係ですね。動画から見ると多分貸し切りで宴会していましたが、そうとなると多分店員も混じっているか、もしくは店長ととても近しい関係の人、例えば長年の隣人や友人などが想定されます。普通ベトナム人と関係ある店と言えば、ほとんどの人は「ベトナム料理店」かココナッツのおやつとかを置いてある「物産屋」しか思い浮かびませんが、まさかの地元居酒屋とは、やはり固定観念は捨てるべきですね。特に自分の頭で物事を考えたい時には。
関係について色々仮説は立てられますが、とりあえずお昼を食べてから考えることにします。今日の短歌はまた午後にしましょう。
冷蔵庫の中にある食材、近日の暑さでダメにならなければいいのですが…