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棄てられ皇子の煩悶 :不遇の皇子は運命に抗い、自らの道を切り開く!  作者: 聡明な兎
第一部 棄てられ皇子の煩悶
6/31

星の友と無限知の果てに宿る光

 歴代の皇帝(アウグストゥス)たちが眠る(おごそ)かなる陵墓(りょうぼ)、その近隣に建てられたのが帝国最大の「附属(ふぞく)大図書館」である。

 皇帝(アウグストゥス)崩御(ほうぎょ)したとき、その治世において出版されたあらゆる書籍(しょせき)が収蔵される。


 図書館は、帝国創世期の建造とされているが、不思議な仕掛けが(ほどこ)されている。古い時代の蔵書ほど地下深くに収められているのだ。


 皇帝(アウグストゥス)崩御(ほうぎょ)したとき、(ゆか)が一階層(しず)みこんで、新たに次代の書籍を収蔵する空間が生まれる。

 この不思議な機構に関する技術は、今となっては失伝していてわからない。


 また、上層に収められた書籍をすべて読み()き、真に理解した者のみが、その下の階層への(とびら)を開く資格を得ると伝たわっている。


 この神秘的な図書館には、皇室の血筋の者しか足を踏み入れることが許されていない。この秘儀も謎だ。

 このため、墓戸(はかべ)の一族には、代々皇室の血縁者が(とつ)ぎ、皇族との(つな)がりを(たも)ち続けてきた。


 皇帝たちの陵墓(りょうぼ)もまた同様だ。周囲には古代の結界が張られ、皇室の血を持つ者のみがその内に踏み入ることを許される。


 僕は、答えを求めて、毎日午後は図書館へ入り(びた)り、膨大(ぼうだい)な知識の海に(おぼ)れた。


 「世界」とは何か?

 この眼で見て、耳で聞き、五感で感じ取る――「認識」とは? 認識した「()()」は、果たして本物なのか?


 人は自由な存在ではないのか?

 人は、なぜ現状に固執(こしゅう)し、自由を選択(せんたく)しないのか?


 やがて、わかったことがある。


 昔の哲学者(フィロソフス)たちも、似たような問いに悩んでいた。

 そして、彼らはそれぞれの答えを導き出し、自らの言葉で世界を語っている。

 

 「自己理解」――人は、自己を深く理解することで、より良い生き方を見い出す。


 「イデー」――この世の万物(ばんぶつ)は不変のイデーの影に過ぎない――肉体の束縛(そくばく)から()き放たれ、イデーの世界へと到達することが真の幸福なり。


 「幸福」――人の生は、その最終目的として「幸福」を目指すべきもの。そのためには「徳」を(みが)き、「理性」に従い、調和を求める生活を送るべし。


 人は神に創造されし存在――「愛」と「信仰」を通して、人間は神との一体化を目指すべき。


「理性と信仰」――人は、「自然法」に基づき善悪を判断し、神の愛の実現に向けて努力せよ。


 列挙していたら切りがない。


 気づいたのは、時代が進むにつれて「神」という絶対的な概念(がいねん)徐々(じょじょ)に影を薄め、代わりに、人間の能力や創造性といった実利的な価値が優位に立ってくることだ。


 今の時代の哲学者(フィロソフス)たちは、「神」を抱く教会の権威や「王」の権力へ疑問を投げかける。

 「幸福」追求の障害となる頸木(くびき)を断ち切り、自由の保障を求める動きを強めてきている。


 では、そう遠くない将来、否定された「神」や「王」はどうなるのか? 死に絶えるのだろうか?

 

 いや、僕はそうは思わない。


 たとえ「神」や「王」という固有名詞の権威や権力が失墜(しっつい)したとしても、代替してその空白を()める新たな神的存在、あるいは王的な何かが、必ず現れるに違いない。


 おそらく、問題は特定の「神」や「王」ではない――すなわち、その背後にあってそれらが象徴する理念(イデー)なのだ。


「イデー」――この摩訶不思議(まかふしぎ)な概念を、最初に看破(かんぱ)した哲学者(フィロソフス)は天才だ。


 しかし、この「イデー」という概念は、その時代ごとに形を変え、哲学者たちの前に難解な謎として立ちはだかり続けているのだ。


 いずれにせよ、(いにしえ)哲学者(フィロソフス)たちは、それぞれが独自の視点を持ち、深い思索(しさく)の海に身を沈めていた。


 だが、たとえ彼らの言葉を全てかき集めたところで、今の僕には、それを統合し、究極の答えを導き出すことはできそうにない。


 ──ならば、どうすればいいのか?


 僕は行き詰った。




 閉塞感(へいそくかん)を感じた僕は、気分転換(てんかん)するために、ルナリアに騎乗(きじょう)して遠出をした。

 新しい場所を開拓してみたくなったのだ。未知の場所は、何か新しい答えを与えてくれるかもしれない。

 

 知らない場所は、どんな危険があるかわからない。

 慎重に進むが、獰猛(どうもう)なルナリアは、まったく物怖(ものお)じしない。

 ブルルッ! ――と、不満そうに鼻を鳴らす。


 森の奥深くへと進むうち、視界に一風変わった村の光景が広がった。家々はすべて樹上に建てられ、木々と一体となって(たたず)んでいる。


 縄梯子(なわばしご)()れているので、そこから出入りするようだ。猛獣(もうじゅう)や外的対策なのだろうか?


 この深い森は、奥へ行くほど凶暴(きょうぼう)な猛獣や奇怪(きかい)魔物(まもの)たちが(ひそ)んでいるという。伝承でしか聞いたことのない存在たちが、この地には実際に息づいているのかもしれない。


 騎乗しながら村へ入るのは失礼だ。

 僕はルナリアの背から降り、足元に広がる落ち葉の絨毯(じゅうたん)を踏みしめながら、慎重に村の入り口へと歩みを進めた。


 ルナリアは一声()けると、鼻をひくつかせて気ままに森の奥へと姿を消した。

 いざとなれば、呼べばどこからともなく(もど)ってきてくれるるので、心配はない。


 ふと、村の方から一人の少女がこちらに向かって歩いてきた。どうやら僕の姿に気づいたらしい。


「こんにちは。あなた……人間でしょう?  ここまで人間が足を踏み入れるなんて、初めてのことよ」

「そうなんですか。お邪魔(じゃま)じゃありませんか?」


「珍しいお客様だから、村のみんなも喜ぶわ。どうぞ案内させて。私はイリス。あなたの名は?」

「僕は、ルーカスといいます」


「それじゃあ、ルーカス。さあ、こちらへ」


 敵意はなさそうだ――安堵(あんど)し、彼女と並んで村の奥へと歩みを進める。


 イリスは、日差しを浴びたような輝く金色の髪と、深い森を(たた)えた緑の(ひとみ)を持つ美しい少女だった。その耳が(とが)っていることから、彼女がエルフであると察した。


 髪は長く、風にそよぐたびに柔らかく波打っている。

 白く(なめ)らかな(はだ)は、陶器(とうき)のように繊細(せんさい)だ。細く華奢(きゃしゃ)な体つきは健康的で、優雅なしぐさは品の良さを感じさせる。


 緑色のドレスは、薄くて軽く、まるで森の息吹(いぶき)(まと)っているかのように軽やかで、風に舞うたびに花や葉の模様が()れる。

 銀のネックレスとイヤリングが(きら)めき、全体として自然と一体となった美しさを(かも)し出していた。

 エルフらしく、弓と矢を背負っている。


 村人たちは珍客である僕を温かく迎え、質素ながらも優しい味と香りのする食事を振る舞ってくれた。

 やがて、僕が魔術(まじゅつ)を使えると知るや、(だれ)もが目を輝かせて「どうかその技を見せてほしい」と口々に頼んできた。


 一番(ぶなん)難な風の魔術を披露(ひろう)することにする。

 

風の精霊(シルフィード)セレスティアよ、(われ)に力を貸せ――」


 中空に風が渦巻(うずま)き、その中から風の精霊(シルフィード)のセレスティアが姿を現した。

 セレスティアは、白い髪に青い(ひとみ)の美しい少女だ。(はだ)は白く透きとおり、身体は細くて軽やかで、白いドレスを着ている。


 おおっ! と、それを見た村人たちから歓声が上がる。

 

「――空の()てから、鋭き(やいば)を呼べ。()が敵を、一刀両断せよ! ――」


 周囲から風が集まり、(あらし)のときのような(ざわ)めきが森の木々に生じ、辺りを不穏(ふおん)な空気が支配する。

 村人たちの顔に不安の影がさした。

  

「――世々(よよ)限りなきエレシアと神々の統合のもと、実存(じつぞん)し、 君臨する風と空の神カイラを通じ、ルーカスが命ずる。風刀ヴェントゥス・グラディウス!」


 空中に呼び出された風の(やいば)が、目標の(まと)へと一直線に突き進み、音もなく真っ二つに切り()いた。


「おおっ!」と村人たちから驚嘆(きょうたん)の声が上がり、子どもたちは小さな手を(たた)いて喜んだ。

 

 セレスティアは、白銀の髪に深海を(うつ)したような青い(ひとみ)を持つ、(はかな)げな美しさを(たた)えた美少女である。

 その(はだ)は雪のように透き通り、身体は風そのもののように軽やかで、彼女を包む白いドレスがひらひらと舞う。

 

 火風水土の四元素(エレメンツ)精霊(せいれい)には、生まれた星の(めぐ)りで相性(あいしょう)がある。

 僕は、風と最も相性がいい。

 セレスティアは、魔術(まじゅつ)を使うときの、良き相棒だ。


 セレスティアは優雅にほほ笑み、僕は彼女の目を見つめて感謝の意を伝える。このようなアイコンタクトができるのも、長年の鍛錬(たんれん)の成果だ。

 

 村の人々は、セレスティアの姿を目の当たりにし、神聖なものを見たかのように目を見張っていた。

 どうやら、彼女は(なみ)の精霊ではなく、上位の存在らしい。他人と比較する機会のなかった僕には、それが初めて知る驚きであった。


 イリスもまた、魔術(まじゅつ)披露(ひろう)してくれた。

 彼女は森の精そのもののように、風や水、土や木の力を自在に操り、草木を(いや)し、形を変えることすら可能だった。

 

 村人たちの温かい歓待に心を打たれ、僕は何度もこの村へ足を運ぶようになった。


 エルフ族は、「森の守護者」と呼ばれる一族の一種で、いくつかの部族が連携(れんけい)して「エレンディル部族連合」を構成している。


 「エレンディル」は、エルフ語で「星の友」という意味。夜空に輝く星々の導きによって、険しい山々と深き谷を居住の地とする者たちの連合だ。

 

 エレンディルのエルフは、冒険と探求に情熱を持ち、古代の秘密と知識を守っていると言われている。


 村は、エレンディル部族連合に属しているということだった。

 

 はじめは人見知りしていた僕も、次第(しだい)にイリスの柔らかなほほ笑みと(おだ)やかな話しぶりに心を開き、気軽に話せるようになっていった。


 長命で聡明(そうめい)なエルフたちは、森や風の(ささや)きにさえも耳を()ませる鋭敏な感覚を持っている。

 彼らの中でもとりわけ優れたイリスに、僕は意を決して例の(とい)をぶつけた。


「それは、人それぞれなんじゃない。

 生きる意味や目的なんて、他人に強制されるものではなくて、自分が選ぶものじゃないの?」


 イリスはふと首を(かし)げ、問いかけるような目で僕を見つめた。なぜ、そんなことを悩むのか──その純粋(じゅんすい)(ひとみ)が、答えを求める僕の心を(うつ)しているかのようだった。


 エルフ族には、人間社会のような複雑な身分制度も、激しい貧富の差も存在しない。彼らは生まれ持った能力と役割をそのままに生きている。だからこそ、イリスの言葉は真実味を帯びて響いてきた。


 人間という存在は、生まれや境遇(きょうぐう)によって、その生き方や選択肢(せんたくし)が大きく制約される。


 ありがちなことに、恵まれない人ほど、「自分には、この選択肢しかない」と言い訳をする。そして困難な選択肢を見ぬふりをするのだ。


 しかし、それを一概(いちがい)怠惰(たいだ)だと(ののし)ることができるのか? 

 少なくとも、周囲に迎合(げいごう)して生きてきた僕には、その資格はないだろう。

 その結果、苦しみ、悩んでいる。


 苦しみから逃れるためには、自分が変わるしかないのか?

 正しい選択(せんたく)をする努力を(おこた)った結果の苦しみではないか?


 わずかながら霧が晴れるような感覚がある。

 答えにはまだ遠いが、道筋がかすかに見え始めた気がする。




 ある日、僕がイリスと村の近くで会話を楽しんでいると、村の奥から突然、悲鳴と怒号が響いてきた。

 振り返ると、村人たちが何かから逃げるように、パニックに(おちい)りながら走ってくる。

 空気が冷たく重く変わり、辺りに黒い影がじわじわと(しの)び寄っていた。


「あれは……影の怪物(かいぶつ)!」

 イリスが震える声で(つぶや)いた。


 僕は一瞬、足がすくんで動けなかった。

 自分が戦って何になるのか?

 戦う意味があるのか?

 心の中で、疑念が次々と()き上がってくる。


  しかし、村の方で誰かが助けを叫ぶ声が聞こえた。


「助けて! 誰か、あの子を助けて……!」


 僕は、強烈な自己嫌悪(けんお)と恐怖に(さいな)まれながら、手のひらを強く握りしめた。


 今まで「生きる意味」や「自分が本当に存在しているのか」という疑念を抱きながら生きてきた。

 そのため、自分が誰かの役に立つ存在だとは信じられなかった。


(自分には何の力もない……ただの無力な子どもだ。戦える相手ではない。逃げるべきだ……)


  そう思いながらも、視線の先で倒れ込む村人の姿が頭から離れない。


 もし、逃げたらどうなる? その結果、(だれ)かが死んだとしたら――何のために生きているのかという問いの答えを、もっと見失ってしまうかもしれない……。


「僕は……」


  自分が「何のために生きているのか」はわからない。しかし、今、目の前で苦しんでいる人がいるのは事実だ。

 この瞬間、この場に立っている自分だけが、あの子どもや村人を守れるかもしれない。――もし、戦うことに何の意味もなかったとしても、「今」を逃げ出せば、きっと自分をもっと(きら)いになってしまう。


 僕は決意を固めると、黒鉄の剣を抜き、深呼吸して影の怪物に向かって足を踏み出した。


 影の怪物と対峙(たいじ)するが、相手は漆黒(しっこく)の影であり、形が定まらず、どこを攻撃しても「これで倒せる」という確信が持てない。


風の精霊(シルフィード)セレスティアよ、(われ)に力を貸せ――」


 中空に風が渦巻き、その中から風の精霊(シルフィード)のセレスティアが姿を現した。

 

「――空の()てから、鋭き(やいば)を呼べ。()が敵を、一刀両断せよ! ――」


 周囲から風が集まり、嵐の(ざわ)めきとともに風の(やいば)を形成する。

  

「――世々(よよ)限りなきエレシアと神々の統合のもと、実存(じつぞん)し、 君臨する風と空の神カイラを通じ、ルーカスが命ずる。風刀ヴェントゥス・グラディウス!」


 空中に呼び出された風の(やいば)が、影の怪物へと一直線に突き進む。しかし、怪物はその(やいば)を吸収するように消し去ってしまう。


「くそっ! ……」

 

 (あせ)りと無力感で胸がいっぱいになりながらも、心のどこかで「負けるわけにはいかない」という気持ちが芽生え始めていた。


(これは僕の戦いでもある。今ここで守らなければ、何のために……)


 (やみ)は神エレボスが(つかさど)る。その眷属(けんぞく)には暴力的な死に関わる者もいるが……。


 冷静に観察すると、(やみ)怪物(かいぶつ)は、そこまで荒ぶる存在には見えない。もし、そうならば、村は一瞬のうちに死の廃虚(はいきょ)と化していただろう。


 ――おそらくは、エレボスの力の残滓(ざんし)のようなものか……?


 であれば、(やみ)を光で照らせば消える可能性はある。

 その希望を胸に詠唱(えいしょう)を開始する。


火の精霊(サラマンドラ)イグニータよ、(われ)に力を貸せ――」

 

 中空に(ほのお)渦巻(うずま)き、その中から火の精霊(サラマンドラ)のイグニータが姿を現した。

 (やみ)の怪物は危機を察知して、僕にめがけて突進してくる。思いのほか動きは鈍く、それを避けてやり過ごし、詠唱を続ける。


「――地獄(じごく)業火(ごうか)の海から、数多(あまた)(ほのお)投槍(なげやり)を呼び寄せん! ()が敵を、燃え盛る投槍(なげやり)火焰(かえん)により(つらぬ)き、その身を焼き尽くし、凶悪な灼熱(しゃくねつ)の業火により死の灰となせ! ――」


 (ほのお)が集結し、投槍(なげやり)を形作る。

 (やみ)の怪物は、顔もない不定形な(やみ)(かたまり)だが、恐れの感情が伝わってくる。風の刃の(やいば)ときとは、明らかに違う。


「――世々(よよ)限りなきエレシアと神々の統合のもと、実存し、君臨する火と光の神ダリスを通じ、ルーカスが命ずる。炎投槍フランマンス・ハスタム!」


 (ほのお)投槍(なげやり)が一直線に影の怪物へ向かう。やはり燃え上がることはなく、吸い込まれたが、光の力により(やみ)が薄まった。


「よしっ!」


 手ごたえを感じた僕は、炎投槍フランマンス・ハスタムを連射する。


「……炎投槍フランマンス・ハスタム炎投槍フランマンス・ハスタム炎投槍フランマンス・ハスタム……」

 

 最後の一撃を放つと、怪物はその影をじわじわと薄れさせ、最後には(けむり)のように消えていった。


 周囲が静寂に(もど)り、僕はその場にへたりこんだ。

 イリスが駆け寄ってきて、僕の肩に手を置き、ほほ笑んだ。


「よくやったわ、ルーカス。ありがとう」


 僕は視線を()せ、かすかに(うなず)いた。

 戦いは終わったが、今まで抱いていた「無意味さ」や「自分の存在への疑問」は完全には消えていない。

 ただ、この戦いを経て、自分に「生きる意味」があるのかもしれないと少しだけ感じられた。


 自分が生きる意味はまだ見えない。でも、誰かの役に立つことができた――それが、今の僕にとっての意味なんだろう。

 心の中に、小さな光が(とも)ったような気がした。

 



 さらに村に出入りするうち、「コミモテノス聡明(そうめい)法」という秘術があることを知った。

 これを修することにより、記憶力が極限まで増進され、無限の知恵と博覧強記を得られるという。


 人里離れた清浄(せいじょう)な地に修行場を設け、そこに「宇宙のごとき無限の知恵と慈悲(じひ)(つかさど)る神コミモテノス」の像を安置して、神をお招きし、神を(たた)える真言(しんごん)を一日一〇〇万回唱えて、心を清めるのだという。


 その修行には、細かな作法が定められており、修行者は俗世の一切から離れ、清貧な生活を守らなければならない。

 食事も制限して肉体を清浄に保つなど、過酷(かこく)な条件のもとで一〇〇日あるいは二〇〇日間行う。


 途方もない秘術ではあるが、僕には、とても魅力的(みりょくてき)に映った。

 しかし、果たして僕にそんな修行が務まるのか?


 自分の限界を疑いながらも、内心のどこかで挑戦(ちょうせん)してみたいと思う自分がいた。

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