7 報告会1
本日もよろしくお願いします
前回、年内あと1回と書きましたが、
長くなってしまい2つに分けたので、
これともう1話アップします
俺たちは1週間で分かった事の情報の共有を行う会議を開いた。
進行役は俺だ。
「では、斎藤さんからお願いできますか?」
「はい。私はオニール君の出生の時から最近までの生活状況や家族構成などを確認しました。
最初に皆さんも一緒にご覧になった部分も確認のために含めてお話させて頂きます。
では、オニール君の家族構成から。
彼はコルタベント侯爵家の次男、10歳です。
実母はティーチさん。彼女は男爵家出身で、侯爵家に侍女として雇われていたところ、侯爵に見初められて妾になった様です。侯爵に溺愛されていましたが、出産時の大量出血で他界しました。
父親の名前はシフリ・コルタベント現侯爵。侯爵は溺愛した妾を死に追いやった存在としてオニール君を憎んでおり、義母に虐められているオニール君の境遇に気づいていますが、無関心を貫いています。
侯爵はティーチさんが亡くなったあと暫くして新しい妾を作りましたが、この10年で3人ほど入れ替わっています。いずれとも子はできていない様子です。現在の妾は別邸を建てて、そこに住まわせています。
侯爵の正妻、侯爵夫人の名はエルティ。ソーン君の母親ですね。彼女がソーン君を出産した1週間遅れでオニール君が生まれたため、侯爵夫人は妾とのほぼ同時期の妊娠出産に憤りを感じております。オニール君を自分の実子ソーン君の“双子の弟”と言う事にして育てていますが、徹底的にオニール君を虐げています。
オニール君に付いている家庭教師や武術・魔術などの教官たちは侯爵夫人の息のかかった者たちで、「オニールを無能に育てる様に」と侯爵夫人から指示されております。
殺すつもりはなく、体の良いサンドバック代わりって所でしょうか。それに習って、ソーン君もオニール君を虐めています。
ソーン君は侯爵家の長男です。彼はオニール君出生の詳しい事情については知らず、本当の双子の弟だと信じている様です。
他に妹と弟がいまして、いずれも侯爵夫人の実子で長女ミールちゃん8歳と三男ドゥーハ君5歳です。
侯爵家の家族は王都のタウンハウスで暮らしています。
侯爵の両親、つまりオニール君の父方の祖父母は領地で暮らしていて、オニール君には無関心です。“妾の子”である事を知っているのでしょう。1年に数回は家族で領地へ行くのですが、オニール君は王都のタウンハウスに居残りで領地へ行った事はありません。
オニール君の実母の方の男爵家はティーチさんの兄が男爵位を次いでおります。彼らもオニール君がティーチさんの実子である事は知っている様です。が、この男爵家はコルタベント侯爵家の臣下の末端に位置するらしく、主家に気を使ってか、オニール君に積極的に接触して来ないです。まぁ、表向きはオニール君は侯爵家の実子でティーチさんとは関わりない事になっていますからね。彼らがオニール君の境遇に気づいているのかいないのかは分かりません。元男爵の祖父母とも交流はなさそうです。
義母の方の親戚筋との交流にもオニール君は参加させて貰えていない様です。恐らく彼らもオニール君が侯爵夫人の実子でない事を知っているのでしょう。因みに義母の方の祖父は元伯爵で、今はエルティさんの弟が伯爵を継いでいます。
侯爵にはイェーレクと言う名の弟がいて、婿養子に入りガンバート伯爵家当主になっています。こことの交流にもオニール君は参加していません。
乳児期のオニール君に付いていた乳母はオニール君を愛情深く育ててくれていましたが、オニール君が6歳の頃、「オニールを甘やかす」として解雇されています。勉学の教師や鍛錬の教官が理不尽な授業をしているのに苦言を呈したせいです。
侍女や侍従も概ね侯爵夫人の息がかかっており、積極的に苛めに加担する者、見て見ぬふりをする者と言った様子です。中には実母のティーチさんが侍女をしていた時の同僚が何人かいて、さりげなく陰でオニール君を助けてくれる事もあるのですが、侯爵夫人に睨まれると解雇されてしまうので、表立った行動は出来ず、普段はオニール君が虐められているのを見て見ぬふりしかできない様です。
この陰で助けてくれているのは、侍女のウーリンさん、カイラさん、料理人のタージオンさんです。
現時点で分かっているのはこれくらいです」
「十分です。良く分かりました。この短時間でよく調べて頂きましてありがとうございます]
「いやいやいや~、むりむりぃ~。登場人物多すぎて覚えきれねぇって!」
「星野君、大丈夫です。私もメモを見ながらでないと無理です。大まかな概要が理解できれば、後は必要なタイミングでまたお伝えしますので」
「相関図を作って、壁にでも貼っておくのはどうかしら?登場人物が増える毎に足していけば、誰でも直ぐに確認できるし」
「さっすが、彩音ん。美人なうえにぃ~、頭も良い!惚れちゃうね!」
「ふふ。聖夜君、お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃないっすよ!マジ俺の胸ドギュン!ってやられちゃったぁ。責任取ってぇ!彩音ん!」
「はい、はい、」
「あー!本気にしてないなぁ!今に分からせるからなぁ!僕の純情」
「星野君、冗談は後にしてください。次に行きますよ」
(俺の大切な彩音さんに変なニックネーム付けるんじゃねぇよ!ホスト野郎!)
「だからぁ~冗談じゃねぇんだってぇ~」
(ここは動じず、スルーを発動!)
「では、次は九条さん、お願いできますか?」
「・・・」
「はい。食事や挨拶、立ち居振る舞いなどのマナーは多少の違いはあれど、地球の西洋文化と共通する物も多く、特に問題なく身に付けられそうです。皆さんお分かりになっておられる様に、授業の内容はあまり参考になりませんでしたので、家族との食事の時間やご家族、使用人の立ち居振る舞いを参考にいたしました。
朝食と夕食は家族で一緒に食する方針らしく食堂で摂っておりますが、どうもオニール君は食物にアレルギーがあるのか・・・あるいは、食事に毒が入っているのか、オニール君はたびたび食事中に具合が悪くなり、半分も食べられずに終わってしまいます。
その後数日は“療養”を理由に自室で軟禁状態になります。自室で出される食事は下働きが食べるような粗末な物が1日1食のみで、あまり美味しくないのか、体調不良のせいなのか、食が進まない様です。ボソボソと時間をかけて食べているせいで、食事の途中で侍女がやって来て片付けられてしまいます。
あの虚弱な体は日常的な栄養失調からきている様でございます。そして空腹が体や頭の動きが悪くなる原因になっていると思われます。
先ほど斎藤さんが仰っていたタージオンさんと言う料理人が時々こっそり余り物を下さいますが、とてもそれだけでは足りません」
「ありがとうございます。ほんと、胸糞家族ですね。
では、次は僕から。
教師は全く教える気など無く、苛めに徹していてホント胸糞だったのですが、斎藤さんからの情報で納得しました。侯爵夫人からの指示でワザとやってたんですね。
必要な知識は書物から得る事にして、大まかなカリキュラムを調べました。内容は、語学、算学、歴史学、地理学、兵法学、領地経営学などがありました。一度、オニール君の体に入って書庫を見てきましたが、かなりの蔵書があり独学で好きなだけ学べそうです。
ですが九条さんが仰ったように、空腹で頭が何だか霞がかかった様にぼーっとするのと、体が何だかダルくて長時間勉強に集中できないのが問題ですねぇ。限られた時間で書庫に通ってどれだけ学べるか、それが課題です。
次は、あや、いや、中野さん。お願いします」
(危な・・彩音さんって言いかけてしまった。星野君が変なニックネーム付けるから!)
「はい。確かに妙な倦怠感がありますし、頭もすっきりしなくて思考が散漫になりますね。
乗馬は先日言った様な感じで馬の気性が荒すぎて、全然馬に乗れるようになりそうにもありません。私もあんな気性の荒い馬に乗るのは怖くて、とてもじゃないですけど乗りこなせる気がしないです。万が一乗りこなせたとしても、あの状況で急にオニール君が馬を乗りこなすなんて変かと思って、我慢してます。
音楽の方は、リュートみたいな弦楽器とフルートみたいな横笛があって、それ程難しくなさそうです。と言っても、教師は丁寧に教える事がないので、オニール君は全くと言っていいほど演奏はできません。楽器は教師が持って帰ってしまうので、どうやって練習するかが課題です」
「ありがとうございます。では、山田君」
「はい。武術の鍛錬は剣と槍、それから弓ですね。徒手はやらないみたいです。剣は日本刀と扱い方が全然違いますが、槍は棒術の応用でやれそうです。弓は全く初めてなので、一から頑張る感じです。
こちらも勉学の時間と同じく、基礎も教えず体力強化の鍛錬もさせずに、5歳の子供相手にいきなり実戦で大人の剣士が激しく攻め立てて、「無能」呼ばわりです。最初っからそんな調子で鍛錬が始まったのでオニール君はすっかり委縮してしまっていて、10歳のいまでも全く動けず、叩きのめされるばかりの時間です。
まずは基礎体力をつける事を優先したいのですが、矢崎さんが仰る様に、妙にダルくて5分も走り続けられないありさまです。何か、持病でもあるのですかね?」
「ありがとうございます。持病ですか。先天性の何かがあるのか、食事に混入されているかも知れない毒の影響なのか・・・どうやって調べましょうね。出生時にいたあの医者はどこにいるのでしょうか?」
僕の疑問に答えたのは斎藤さんだった。
「あの医者は侯爵家お抱えで、侯爵家に住んでいますが、当然、侯爵夫人の息がかかっているでしょうから、ちゃんとは診てもらえない可能性が高いです」
「暫くは様子見するしかないのでしょうか・・・では、次に星野君」
「うぃ~っす!社交ダンスは俺の知ってるのとはけっこう型が違ったっすけど、難しいステップは無さそうっす。こっちの空間で九条さんをパートナーにして練習してて、問題ないっす。
彩音ん、この後、俺と踊って頂けませんかぁ?優しくリードしちゃうよぉ~?」
「私、ダンスはどうも苦手で・・・菊子さんと楽しんでくださいね!」
「ありがとう、中野さん。星野君、頼もしいよ。
じゃあ、最後に木下君。魔法の事を教えてくれるかな」
「ふたりでさらっと流したしぃ~」
「うん!
あの世界では魔法ではなく魔術って呼んでるみたい。で、魔術の先生はまともに教えてくれないから、魔術書を読んで勉強したよ。
まずは魔術の基礎知識から。
魔術を使う時の基礎になるのが“魔力操作”なんだ。魔力操作って、自分の体内にある魔力を感じ取って、集めて、練って、体の中を動かす事だよ。体じゅうの魔力をきっちり集めきるのは初心者には意外と難しいんだ。それから、集めた魔力を体の中心に集めたり、それを指先に動かしたり、5本の指に均等に振り分けたり。右手に8割、左手に2割って感じに振り分けたり・・・。魔力を自由自在に動かす事ができると、魔術を発動するときに放出する魔力量の調整が正確にできるようになって、正確で無駄のない魔術が発動できるんだ」
どこで息継ぎをしているのか疑問になるほどの早口で木下君は話し始めるのに、星野君の茶化しが入る。
「マホーの話始めた途端、すっげー饒舌じゃん?少年はオタク君なんだねー?」
「星野君、茶化さない。
あのぼーっとした頭でよくそこまで調べられたね」
「・・・魔法の事は大好きだし、基礎知識があるからね。自分の知識とこちらの常識をすり合わせるだけで良かったから何とかなった感じだよ」
「それでも凄いよ!で、精密な魔術の発動には緻密な魔力操作が必要と言うわけだ」
「うん、そう。次に魔術の種類なんだけど、まずは“生活魔術”。
飲み水を出したり、火を熾したり、風を送ったり、穴を掘ったりって生活に使用する極初歩の魔術。
次に攻撃魔術になるんだけど、属性とレベルがあって、属性は、火、水、風、土。レベルは初級、中級、上級に分けられてるよ。
他に特殊系があって、“転移”とか“障壁”とか“索敵”とか“隠密”とかその他にも色々あるんだよ。
で、魔術を行使するには当然、魔力を持ってなきゃなんだけど、魔力は基本的に庶民には少なくて“生活魔術”を使える人が2~3割位で、ほとんどの人は全く何もできないんだって。
逆に貴族はたくさん魔力を持ってて、それは財力を使って魔力の多い人を一族に取り込んできたからなんだって。
だから、普通ならオニールは貴族なんだから魔力が豊富な筈なんだけど、殆ど無いんだよね。
オニールの中に入った時に感じる妙なダルさは、実は魔力欠乏の症状じゃないかと思うんだよね」
「魔力欠乏?」
「うん。魔術を使い過ぎて体内の魔力が足りなくなった状態だよ」
「はんっ。魔力が無くて具合が悪くなるんなら、魔力を持たない庶民はみーんな具合悪そうに生きてるってことかぁー?」
星野君がすかさず突っ込んでくるのを睨んで、木下君は続けた。
「うっせー、アホ。
たぶん、持って生まれた魔力量で体が順応してるんだと思う。で、順応した魔力量よりも極端に減ると、体が追い付かなくてダルさを感じるんじゃないかな?」
「つまり、オニール君は普段から常に魔力を消耗している?」
「うん。どっかから漏れちゃうのか、使ってるのか。オニールの中に入って探ってみたんだけど、どこに失われてるのか分からなかった」
俺と木下君の会話に、斎藤さんが口を開く。
「あの、この事と関係があるかどうか分からないのですが、魔法、あ、いえ、魔術に関係していそうなので、木下君の報告の後にお話ししようと思っていた事があるのです。
木下君、魔法陣を使った魔術もこの世界にはあるのですか?」
「あるよ。主に魔道具に使われているみたい。魔法陣じゃなくて、“円環術式”って呼んでるみたいだけど。
おじさん、どこかで“円環術式”をみたの?」
明日、年内最後の更新をします