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3 情報整理

本日もよろしくお願いします


「何だったんだ?」


 誰とはなしに呟く。

 しかし、それに答えを出せる者は誰もいない。

 九条さんはさっきまで痛めつけられていたことなど何も無かったかのようにすっくと立ちあがると、ソファーに駆け寄って、そこに横たわるオニール少年に寄り添い、優しく声をかけながら頭や背中を擦ってあげている。


「大丈夫、大丈夫よ。あなたを傷つける人はここにはいないからね。大丈夫よ」

 

 オニール少年は意識が無い様で反応はない。

 

 舞台では山田君が頭を掻き掻きしながら周囲を見渡し、全身の痛みに顔を歪めながら立ち上がって、足を引きずりながら廊下を進んでいった。

 どこに向かえば良いのか迷うそぶりも無く進む山田君は、とある部屋にノックもしないで入って行った。

 そこは少年の部屋なのか、簡素なベッドと勉強机、衣装タンスが1つあるきりの小さな部屋で、その広さは例えるなら日本のビジネスホテルの部屋だ。

 勝手知ったると言わんばかりに、山田君はベッドにうつ伏せで倒れ込んで、そのまま寝入った。

 すると、その体はオニール少年の物に変化し、山田君は舞台の外にその姿を現した。


 ソファーの方を見ると、そこには九条さんだけが残されていて、オニール少年を撫ぜていた形のまま、突然いなくなった腕の中の存在に呆然としている。

 山田君もむくりと身を起こし、胡坐をかいてキョロキョロしたあと、「寝たらこっちに戻れるのですねぇ」と呟いている。


「情報を・・・整理しなくちゃいけないみたいですね」


 俺の提案に皆が頷いて円卓に集まった。




▲▽▲▽▲▽


「まず、九条さん。舞台に上がった時に気づいた事や感じた事を教えていただけますか?」


 何となく俺が会議の進行役を務め始めた。


「はい。(わたくし)、オニール君を助けなきゃって事で頭が一杯で、兎に角舞台に駆け上がったのでございますが、上がった瞬間に(わたくし)は横倒しになって蹴られておりました。

 とても痛くて、恐ろしくて、でも、こんな目には毎日のように遭っているのだと、何故か“覚えて”いて・・・

 ああ、それと、手に皺が無くて、瑞々しい少女の頃の様な肌でした。蹴っていた少年も、(わたくし)の事をオニール君だと疑っていない様子でしたし、(わたくし)はあの時、オニール君になっていたのだと思います」


「九条さんが舞台に上がった瞬間、オニール君は舞台の外に突然現れたソファーの上に居ました」


 そう僕が伝えると、それに山田君が続く。


「自分達には九条さんがソーン君に蹴られているようにしか見えませんでした。それで九条さんを助けるために、今度は自分が舞台に上がったんです。

 すると、さっき九条さんがおっしゃった様に、自分が横たわって蹴られていました。

 自分は実は元自衛隊員で、先月除隊したばかりです。ですから体の丈夫さには自信がありますし、あんな少年に蹴られたくらいではびくともしない筈でした。

 でもあの時、自分の体は非常に虚弱でソーン少年の1蹴り1蹴りが非常にこたえて、九条さんがおっしゃるように「こんな暴力は日常茶飯事だ」と、絶望を感じていました。

 ソーン君が去った後、何故か自分の部屋の場所を“覚えて”いて、「兎に角そこへ行って体を休めなくては」と、そればかりを考えて部屋に戻りました。そしてベッドに倒れ込んで意識を失った瞬間に、舞台の外に居ました。

 あんなに痛めつけられて体中が痛かったのに、今は何ともありません」


「ああ、そうですね。(わたくし)もあの時の痛みも恐怖もすっかりなくなっております」


「舞台に上がっている時、私たちの事は見えていたのですか?舞台から降りる事はできなかったのですか?」


 次に彩音(あやね)さんが質問した。先ほどまでの取り乱していた感情は、その後の理解不能な不思議な現象の前に霧散してしまったのか、今の彼女の瞳には好奇の色が浮かんでいる。服もいつのまにか白地に赤い花柄のワンピースに着替えている。


(わたくし)は只管うずくまっていたので、周囲を観察する余裕がございませんでした」


 顔を横に振る九条さんに対して、山田君は周囲の観察をしていた。


「周囲は舞台ではなく、完全に異世界の中でした。観客席側だった方向は廊下の壁で、その壁の窓の向こうには庭が広がっていました。この白い部屋の存在は見えませんでしたし、皆さんの存在も感じられませんでしたし、この白い部屋に戻る方法も分かりませんでした。ベッドに入って眠った途端にこちらへ戻っていたんです」


「つまり、舞台に誰かが上がると、その人とオニール少年の中身が入れ替わると。舞台から降りる方法は、誰か別な人が舞台に上がってくるか、意識を失うか、なのね」


 彩音(あやね)さんが僕たちに課せられたルールを1つ整理した。

 俺はそれに頷いて、続いて質問した。


「オニール少年になっている間は少年の記憶が読めたってことですか?」


 これにも山田君が答えた。


「考えた事について“思い出す”って感じですね。「どこか安全な場所で体を休めたい」って思った途端に、自分の部屋の場所を“思い出す”みたいな」


 その答えを受けて、続けて質問する。


「では、オニール少年の境遇の理由とか、時代背景とかは分かりますか?」


「さっきの短時間で分かったのは、日常的に暴力を振るわれている事と絶望感だけですね。あの時は頭がぼーっとしていて自分の部屋に帰って休みたいと言う事ばかりを考えていたので、それ以外の難しい事は心に思い浮かんでいませんでしたから、自分も分かりません。

 が、もう一度オニール君になってその辺を考える様に務めれば分かるのではないかと思います」


「なるほど。それでは誰かができるだけオニール君の中に入って、情報を探っていく必要があるわけですね」


「そうすれば同時にオニール君の辛い状況を肩代わりしてあげられるって事ね」


 彩音(あやね)さんが明るく言うが、あの毎日を肩代わりするなんて、最初は良いが、続かないのではないか?


「えぇー!俺はやだよ?べんきょーも嫌いだし、手を鞭で叩かれたり、殴られたり蹴られたりなんてゴメンだね」


 案の定、星野君が拒否する。


「あんな小さな男の子が虐待されているのを見て見ぬふりするってこと!? 酷いわ!」


「俺、恋愛担当だから、少年に好きな子ができたら活躍するよ。暴力に耐えるのは、じえーたいのおにぃさんに任せた!ヨロシク!」


「そうですね。自分は厳しい訓練にも耐えてきましたし、虐待担当で構いません」


 嫌な話の流れになりそうで、慌てて否定する。


「いやいや、山田君にだけ任せるのは駄目だよ。いくら心や体が強くても日常的な暴力や人格否定の言葉を受け続けると心が病んでしまうよ。

 勿論、適材適所は大事だと思うよ。でも、虐待に対しては担当を決めるべきじゃない。九条さん、中野さん、木下君以外の男性4人とオニール君で分散させた方が良いと思う」


「むりむりぃー!俺、頭わりぃーから、少年のべんきょーなんて代われないしー?

 少年はかわいそーだとは思うよ?でも、何で俺がそんな事しなきゃいけないわけ?」


「それは、この部屋で永遠に過ごすと言う事を受け入れていると言う事でしょうか?」


 ずっと黙っていた斎藤さんが口を開く。


「???えーっと、どう言うことぉ?」


「私たちは何故、ここに集められたのかをもっと真剣に考えた方が良いと思います。オニール君が可哀想だから助けてあげると言うだけでは駄目だと思います。

 私たちがここから出るのは、何かを成し遂げた時か、オニール君が死んだ時ではないでしょうか?

 ・・・いえ、オニール君が死んでも出られるとは限りませんが」


「うーん?難しくて分かんねーよ」


「何か私たちが成仏、つまり解放される条件があるのではないでしょうか?

 確かにここの生活は快適そうですが、永遠と閉じ込められている状態が続けば、それこそ精神を病んでしまいそうです」


「つまり、何かミッションがあって、私たちがそれをクリアしたら天国に行けるって事かしら?」


 星野君の代わりに彩音(あやね)さんが反応した。


「ええ。その何かとは、結果としてオニール君を助ける事になるのでしょうが、それはオニール君をただ(かば)うと言うだけでは達成できないと思いますよ」


「ミッションねぇ・・・それを知るには兎に角オニール君の情報を集めないといけないわね」


「結局そこに行きつきますね。オニール君が起きたら、誰か順番にオニール君に入って記憶を探りますか」


 俺がそう結論づけると、木下君が先生に対するみたいに、「はいっ!」と手を上げて発言を求めた。


「何かな?木下君」


「全員の前にモニターを」


 木下君がそう指示すると、目の前にテーブルに埋め込み式のモニターが出現した。画面が斜めになっていて見やすい。


「これでオニールの人生のアーカイブが見れるよ。まず一番最初の映像を流すね」


 するとモニターには西洋風の部屋に十数人の人間がいる風景が映し出された。

 

 


矢崎は、中野彩音さんを心の中では彩音さんと呼んでいますが、口に出して呼びかける時は中野さんです

週1更新予定です

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