24 成長ミッション 食料を採取
本日もよろしくお願いします
今日はドゥーハ君の5歳お披露目パーティ当日だ。
いま、【舞台】の世界は俺達の感覚で言うと春の気候で、お天気は晴れ。ただしここは大陸でも北の方に位置し、冬が長い地域であることを考えると初夏なのかも知れない。
まぁ兎に角、今日はガーデンパーティ日和だと言う事だ。
木下君は【舞台】に上がって直ぐにベッドの上で座禅を組む。まず、今日の行動に必要な魔力量を確保するために“魔力操作”を行う必要があるからだ。
やや顔を伏せた状態で30分程が経過したところで、おもむろに顔を上げた木下君はベッドから下りて、パーティ用の衣装に着替えた。
これはソーン君が数年前に着ていたもので、サイズが合わなくなって倉庫に眠っていたのを拝借してきた。
着替え後、まずは廊下に出る扉の方に向かい、ドアノブを回して外から施錠されている事を確認する。
昨夜の夕食では案の定、オニール君に出されたスープには毒が混入していた。
恐らく“盛られる”だろうと予想していた俺達は、夕食時に木下君に【舞台】に上がってもらった。
木下君は食事を『鑑定』で確認。無毒の食事は食し、有毒の料理は食べているふりをしながら『収納』に取り込み、適当なタイミングで具合悪そうにして、そして自室に戻った。
計画通りの行動だ。そして、昨夜からオニール君は3日程の“療養”と言う名の軟禁生活に入った。
今朝の朝食は抜きだった。夕方に粗末な食事が1回提供されるのだろう。
木下君は次に窓の方へ行き、外を確認。視覚と、恐らく魔術も使って誰もいない事を確認したあと、『移動』の魔術を使って窓の外の庭に出た。
【控室】の【代役】が見つめる舞台では、木下君の周囲の部屋の舞台道具が一瞬霞んで実態を失ったかと思うと、次の瞬間には庭の舞台背景や道具が現れた。それはまるで魔法の様な光景だった。いや実際、魔法なんだけど。
恐らく【舞台】ではオニール君の体が霞の様に消えて、庭にフッと現れた様に見えるんだろうな。
ここで木下君に代わって山田君が【舞台】にあがる。
ここからは魔術は使用せずに、広大な侯爵家の庭を身をひそめながら進んで、パーティ会場まで行かなくてはいけない。会場の位置は事前にブルックに聞いてある。そして木下君の『図化』と言う魔術で地図に落とし込んだ情報が山田君の頭の中に入っている。
山田君は庭を用心深く進んでいく。
樹木や茂みを巧みに利用しながら、オニール君の体の小ささも上手く利用して。
1時間ほどかかっただろうか?人を躱しながらもあって時間がかかったけど、誰に見咎められる事無く会場に辿り着いた。
今回のドゥーハのお披露目会場は50畳位はありそうなホールと、その続きの庭だ。
多少の雲はあるものの空は晴れており、風もなく穏やかな気持ちの良い天気だ。
庭師が丹精込めて育てたのだろう、樹木がアンシンメトリーに植わっており木陰を提供していて、花壇には色とりどりの花々が咲き誇っている。
多くの参加者がガーデン会場に出ており、紳士達が酒のグラスを片手に立ち話をしていたり、ソファーセットでは貴婦人達が話に花を咲かせている。子弟を連れた参加者も多く、オニール君が会場内をウロウロしていてもそう目立たなさそうだ。
オニール君は「幸いに」といって良いのかどうか、家族以外には、親戚にも家門の貴族たちにも面が割れてない。堂々としていれば大丈夫だ。
ただ、オニール君の家族に見つかってはいけない。山田君はそっと視線を巡らせて家族を探している様だ。
『家族は屋内の会場にいる様です。来客の挨拶がまだ続いているのでしょう。他の貴族と言葉を交わしています』
山田君が小声でそっと状況を伝えてくれる。
『木下君、大丈夫そうなので代わって下さい』
山田君からの交代の合図を聞いて、また木下君が【舞台】に上がった。食料を『収納』に入れられるのは木下君だけだ。
木下君は食事や飲み物が準備されているテーブルに近づいていった。
食料を漁る平民の餓鬼が紛れ込んだ・・・と思われないために、貴族の子弟の様な優雅な動き方をと、九条さんと練習していた事が生きている様だ。
まずは朝食を取るべく、皿にいくつかの料理をサーブして食べていく。
ある程度満足したところで、次にジュースを飲みながらさりげなくテーブルの間を移動して満遍なく食料を集めて『収納』に取り込んでいく。
誰にも声をかけられる事無く、一通りの料理を得た木下君は、そっと会場を離れる方向に足を向ける。
初めての作戦は「少なめに、短めに、安全を最優先で」と事前に決めてある。
子供だし、目先の料理に捕らわれて無茶しないかと心配していたが、木下君は決めておいた通りに行動してくれた様で安心する。
そしてまた山田君が木下君に代わって【舞台】にあがり、庭を抜けて自室への道を帰って行くのだった。
▲▽▲▽▲▽
「光君、山田さん、お疲れ様でございます」
「上手く行ったわね!光君、料理の味はどうだった?」
九条さんと彩音さんがまず労いの言葉をかける。
山田君は無言で頷いただけだったが、木下君は元気に報告してくれた。
「うん、楽勝だったねっ!味は美味しかったよ!侯爵家のプライドってやつ?昨夜の夕食よりも美味しかったと思う」
「まずっ!ってなったら、他の貴族に侮られそーだもんな。あはっ」
能天気な星野君をスルーして、俺はホッと胸をなでおろす。
「食糧確保できたのも良かったけど、ともかくトラブルなく作戦が終了出来て良かったよ」
「ザッキーは心配しょーだなぁー。剥げんぞー。
あ、死んでっから剥げねーか、あはっ」
星野君は相変わらず一言余計だ。
「おおよそ10食分くらいは確保できたかしら?」
「オニール君はあまり量を食べられないでしょうし、だいたいそれくらいでございましょうね」
10食かぁ・・・“療養”軟禁期間に、1日2食食べるとして、半分を消費する感じだな。
次に何かしらのパーティーが開催される前に無くなるな。
「慣れてくれば、一度にもう少したくさんの食料を確保したいな」
俺の呟きに答えて、彩音さんが提案してくれる。
「次回はパーティーが終わる頃合に見に行ってみない?食事の残りの行方を知りたいわ。恐らく侍女や下働きさん達に下げ渡されるのでしょうけど、パーティー中よりも確保しやすいかも知れないしと思うの」
その彩音さんの提案に皆で同意した。
次はいつごろパーティーが開催されるのやら。
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