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19 教師をぎゃふんと

本日もよろしくお願いします

 アラームの音に意識を現実に戻し、一晩中見続けていた映画『ワイスピ』が流れるモニターから視線を外して時計を見た。朝食の準備をする時間だ。今日は俺が食事当番なのだ。準備すると言っても念じるだけで一瞬で出せるから、朝食、昼食、夕食の3食のメニューを考える当番と言う事だ。あと、準備ができたら皆にアナウンスする。


 無人の【会議室】に行き、円卓の上に食事を出して行く。ベーグル、ソーセージ、カリカリベーコン、スクランブルエッグ、サラダなどが見栄えよく並ぶワンプレートを人数分出す。サラダはレタス、マッシュポテト、フライドトマト、ピクルスだ。イチゴ、リンゴ、キウィなどのフルーツ盛りの小鉢も人数分。それから、ベーグル用にバター、マーマレード、イチゴジャム、ピーナッツクリーム、はちみつを出す。

 飲み物はデキャンタに牛乳、オレンジジュース。コーヒーポットにコーヒー。

 各席に空のグラスとコーヒーカップを準備。砂糖ポットとクリープのたっぷり入ったクリープカップも準備。

 うん、アメリカ映画に出てきそうな朝食だ。メニュー選びが完全に映画の影響を受けてるな。

 まぁいいか。さて皆さんを呼びますかね。


 「放送の準備」と心に念じると、円卓に放送室でよく見る様なマイクとその横にスイッチが現れる。スイッチを押すと、ピン、ポン、パン、ポーン♪と聞きなじみのあるチャイムの音。それに続いて、朝食のアナウンスをする。


「おはようございます。おはようございます。朝食の準備ができておりますので、円卓にお集まりください。おはようございます。朝食の時間です」


 すると、各自の個室からぞろぞろと【代役】メンバーが出て来た。


「おお、今日は洋食ですね」


「やっぱりね!ザッキーだから洋食だと思ったよっ!」


「映画のえいきょーっしょ?どこまで行ったぁ?」


「ジェットブレイクまで観た」


 数日前からカーアクションで有名なあの映画をシリーズで観ているのはみんな知ってるから朝食のメニューも予想されてたらしい。


「んじゃあ、メインシリーズがあと1話とスピンオフで終わりじゃん。次の映画は決まってんの?」


「いや、またイチから見直そうかと思ってる。アメリカ映画ってあまり頭を使わないで没入できるから、逃避に丁度良いんだよね。何度観ても楽しめる自信ある」


「なる~」


 そんな事をしゃべっている間に皆が席についたので、頂きますの挨拶をして食事を始めた。


「今日の食事、九条さんのお口に合うと良いのですが」


「大丈夫です。洋食も好きでございますよ」


 心配は要らなさそうだ。気遣いではなく、本当に美味しそうに口に運んでいる。


「洋食って言っても九条さんの場合、フレンチのイメージね。アメリカンなジャンクフードとかワイルドに肉の塊とか経験無さそうに思うわ」


 彩音さんの発言は完全に同意できる。うんうんと頷いていると、九条さんは楽しそうに笑った。


「ふふ。実は、ハンバーガーとかステーキも若い頃はそれなりに頂いたのよ。歳を取ってからは少し胃もたれがするようになりまして控えておりましたが、ここではそう言った事を心配せずに美味しく頂けるので嬉しいです」


「ああ、良かった!夜はステーキにしようかと思ってたんです。じゃあ、さっぱり食べられるように和風の大根おろしソースとかも準備しましょう」


 うん、がっつりステーキが食いたかったんだよな。


「矢崎さん、お気遣いありがとうございます」


「いえ。中野さんはソースのリクエストとかありますか?」


「私は好き嫌いがないからどんな物でも大丈夫よ?でも、超高級な和牛ステーキを岩塩で頂いた時は感動したわね!」


「うっ・・・うぅぅ。すみません。超高級和牛は食べたことがないので、俺には出せないと思います」


「あら、じゃあ和牛ステーキだけ私が準備しましょうか?他は矢崎さんが準備して下されば」


「えぇ!そんないきなり2人の共同作業を・・心の準備が・・・ごにょごにょ・・・」


「ザッキー何言ってんのか聞き取れねぇぞぉー」


「駄目、ですか?」


「イエ!ハイ、ソウデスネ、オネガイシマス」


「ザッキー、こんどは棒読みになってんぞぉー?」


「ご無理をされていませんか?」


「無理じゃありません!こんな俺で良ければ、中野さんと俺の2人で夕食を作りましょう!」(キリッ)


「打って変わって、イケメンボイス出してんじゃねぇぞー?」


「うふふっ。よろしくお願いしますね」


 星クズ君の茶化しにもめげずに、彩音さんと夕食の準備を一緒にする約束を取り付けた所で、朝食会はお開きになった。


 今日のオニール君は魔術訓練の日らしく、出番のない山田君は【シミュレーションルーム】へ入って行った。木下君は【コルタベント家書庫】から出してきた魔導書を読みながらオニール君の授業を観るらしい。

 話し合って決めた訳じゃないけど皆、何となく自分の担当分野の時は舞台を観ている事にしている。

 俺は午後からのオニール君の授業まで出番は無いので自習でもするか、と【コルタベント家書庫】に向かうと、斎藤さんも一緒に来た。他のメンバーは【控室】でそのまま過ごすらしい。


 おっさん2人では会話するネタもなく、それぞれ自分の必要な書籍の棚の列に分かれて進んだ。




▲▽▲▽▲▽


 今日の午後の授業は歴史だ。

 教師は、もう失われてしまった古い時代の王国の歴代の国王達について延々と話している。

 抑揚が無くボソボソとした語り口調のせいで聞いている者の眠気を誘う。完全に子守歌だ。

 現に、ソファーでは九条さんが、円卓では彩音さんと斎藤さんが、【舞台】ではオニール君も船を漕ぎ始めた。


「最後に大陸を8割ほどまで統一したのはトブラシン・イミペネム・パミドロルだが、そのトブラシン王を殺した息子フィトナジオンが次の覇王となりパミドロル国を更に発展させた。フォトナジオンの偉業は、王都周辺の魔獣の殲滅(せんめつ)、街道の整備、魔道具の発展である。そして・・・」 


 そんな古い話を覚えても仕方がないだろうに・・・しかも、国王達の名前が微妙に違っている。

 【控室(こっち)】にはカンニング資料があるんだ。俺を騙そうとしても、そうはいかないぜ!

 このブルックって名の教師の事は腹に据えかねているんだ。

 今まではあまりにも体罰が酷いときだけ【舞台】に上がってオニール君と交代していた。勉強の時間全てを交代する訳にも行かないし、今後の事を考えて、体罰にただ耐えるだけで言い返す事はせずにいたんだが・・・大嘘をばかりを教えやがって、今日と言う今日は許さねぇ。 


 俺は【舞台】に上がった。


 ペシッ!


 俺がオニールに代わったのは鞭で手の甲を打たれた瞬間だった。


「聞いているのかね?ボーっとするんじゃない!いま儂が話した内容を復唱してみろ!」


 耳元で怒鳴り散らされて鼓膜を(つんざ)いた。てか、それだけ声を張れるんだったら、その声量を授業中もキープしろよ。


「間違った、内容を、そのまま、復唱すれば、良いですか?それとも、間違いを、訂正しながら、話した方が、良いでしょうか?」


 俺は嫌味が聞き逃されないように、ゆっくり・はっきり・きっちり質問した。


「・・・は?」


 “鳩が豆鉄砲を食らった様な”とはまさにこの事だと言う様なキョトンとした表情のブルックの顔を半眼で見上げながら、返事を待った。

 数分待ったが、完全にフリーズした様子に見切りをつけて、もう一度質問する。


「ですから、ブルック先生の、言い間違えた部分を、間違えたままで、「貴様!儂が間違っているとでも言うのか!!!」


 今度は途中で俺の言葉は遮られ、怒鳴りつけられた。しかも背中への鞭打ち付で。


「痛っってぇ!」


「自業自得だ!教師を馬鹿にするんじゃない!」


「ですが、ブルック先生、最後に大陸を8割ほどまで統一したのはガウェイン・イミペネム・パミドロルですし、ガウェインは遠征先での病気で亡くなったのであって、息子に殺された訳じゃありません。そしてガウェインの息子で次代の王の名はドキシン・イミペネム・パミドロルです。フィトナジオンもガウェインの息子ですが、彼は次男で、ドキシン王時代の大将軍を務めました。パミドロル国の発展は、王都周辺の魔獣の殲滅(せんめつ)、街道の整備。これは正解ですが、魔道具を発展させたのは通称魔道具男爵のシュート・ティンバーと言う人です。ドキシン王はシュート・ティンバー男爵を篤く遇したので、そう言う意味では成果と言えなくも無いですが、偉業は言い過ぎと思います」


 こんどは邪魔されないように、息継ぎなしで食い気味に一気に喋った。


「な、な、な・・・」


 教師(ブルック)は「な」しか言えなくなっている。


「まぁ、僕が読んだ書籍の記載が間違っていなければ、の情報ですが。因みにコルタベント家の書庫にあった書籍・・・えぇっと歴史研究者の大家であるアグリプレーストン・アミト先生の書いた書籍の記載ですので、それが間違っていたとなると大問題ですが・・・」


 プルプル震えながら顔を真っ赤にしていたブルックは、俺の追加情報を聞いた後はブルブル震えながら青い顔になって・・・手の中の鞭を両腕でバキッと折ったかと思うと、つかつかと教室となっている部屋を出て行った。

 

「ふんっ、ざまぁー!「ぎゃふん」くらい言えよな」


 ブルックの去っていく背中が扉の向こうに消えた後、誰にも聞かれないように小さく悪態をついた。

 大嘘暴力教師を言い負かす事ができてすっきりした俺は意気揚々と自室に戻るために教室となっている部屋を出た。

 やっぱ俺、今日は映画の影響か、戦闘民族化してるわ。

 でも、こんな言い返しておいて、次の授業で元のオニール君に戻ったら違和感半端ない感じじゃねぇか?これって、これからの授業は俺が全部【舞台】に上がって受けなきゃいけない流れか?

 ヤベェ・・・やらかしたかもなぁ。

 ま、でもブルックの悔しそうな顔が見れただけでプラマイで言うとプラスだろう。


 それにしても・・・いつも思ってるんだけど、教室からオニール君の自室までが遠い。これってオニール君が屋敷の隅の方に追いやられているって事なんだろうな。

 オニール君も屋敷の全体を把握できている訳じゃないらしく、オニール君の導線しか分からない。屋敷全体の間取りが知りたいな。これから食料を手に入れたり、情報収集するのに、キーポイントになる場所、抜け道などを把握しておく必要がある。

 かと言ってこのまま屋敷の探検に出るのはリスクが高い。家族に見咎められると即、暴力を受ける事になる。家族に見咎められない様に行動するための情報をどうやって手に入れるか・・・

 【控室】に戻ったらみんなに相談してみようか。





▲▽▲▽▲▽


「えっとねぇ、『図化』って魔術があるんだよ。習熟度によって見れる範囲は変わるんだけど、周囲の地形や建物の間取りを知ることができるんだ」


 夕食の席で挙げた俺の問題提起は、木下君の発言で一瞬で解決された。

 しかも先日の報告会で、色々な場所に忍び込んで、物資や情報を収集する話になった後、『図化』の習熟度上げをやり始めてくれていたそうだ。

 うん、魔術に関しては木下君に任せておけば間違いないな。小学生なのに凄く頼りになる。大人の自分がちょっとなさけないな。


「それにしても矢崎さん、恰好良かったわ!」


 ブルックをやりこめた事を彩音さんに褒めて貰えた。えへへ。


「いえ、腹に据えかねて、ちょっとやり過ぎたかも知れません」(キリッ)


「そんな事無いわ。黙ってやられるばかりじゃないって事をアピールしていかないと、いつまでも苛めは止まらないわ」


「でも、お姉ちゃん、苛めってやり返すと2倍とか3倍とかになってやり返されるんだよ。泣き寝入りは悔しいけど、力が付くまで無難にやり過ごす方が良いと思うけど・・・」


「オタクひっきーは虐められっ子かぁ?よく分かってんじゃ~ん!」


「星屑、五月蠅い。虐められてなんかない」


「うん、俺もやり返されるのを心配しているし、あれだけ言い返しておいて、次にまたいつものオニール君に戻るのもどうかと思うから、何とかフォローを考えるよ。取り合えず、明日の授業は最初から俺が【舞台】に上がるよ」


「そうね、それが良いかも知れないわね」


 はぁ、気が思いやられるなぁ・・・和牛ステーキが旨い


お読みいただきありがとうございます

週1更新ペースでのんびりやっていますが、宜しければお付き合い下さいませ

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