16 報告会4
本日もよろしくお願いします
報告会後半です
次の発表は木下君だ。
「じゃーん!お姉さんが見つけてくれた、魔道具男爵って人の書いた本がもの凄く詳しくって、めちゃ円環術式の理解が進んだんだよ!
で、オニール君の尻に描かれた円環術式は『転移』と『魔力注入』だって事が分かったんだ!円環術式の周囲を循環した魔力をどこかに転移させてるんだ。
他にオニール君の生命維持に必要な最低限の魔力は残すリミット機能の術式とか、魔力の収集は円環術式のから指3本分くらい離れた周囲までと指定した術式とか、その他細かい条件を指定した術式も書かれてたよ。
だから、『魔力操作』で尻に循環する魔力の量を制限する事で、吸い出される魔力量を加減する事ができるんだよ!」
「『魔力操作』って、光君が毎晩【舞台】に上がって訓練しているやつかしら?」
彩音さんの質問に、木下君が頷く。
「うん、そうだよ。
オニールが寝る前の短時間だけど、毎日地道に練習し続けてきたからね、もう完璧って言っても良いと思う。体じゅうの魔力を自由自在に動かせれるよ!
で、試しに尻に循環する魔力を抑えたら、魔力欠乏症状が少しだけましになったよ。相手に気づかれると困ると思って少しの時間しか試さなかったから、ほんの少しだけだけどね!」
「まぁ!凄いじゃない光君!上手くやれば、魔術も使える様になるのかしら?」
「うん、吸いだされる魔力量を少なくして、時間をかけてMPを溜めたら使えるよ。実はぁ!魔術、ちょこっと【舞台】で使ってみたんだよね!生活魔術レベルのをちょっとだけね。ちゃんと使えたよ!
どれくらい時間をかけたらどれくらいMPが溜まるかとか、どんな魔術がどれだけのMPが必要かとか、これからも色々調べてみないといけないけどね!
魔術の練習は【シミュレーションルーム】でやってたんだけど、今のオニールに要りそうなのを片っ端から試してて、攻撃魔術は初級魔術がもう完璧で、そろそろ中級魔術の練習を始めようかなと思ってるところ。特殊系は『隠密』『索敵』『障壁』『移動』『鑑定』『収納』を覚えたよ!」
「え、『隠密』ってどこかに忍び込むとかできるって事?それができれば、さっきの九条さんや星野君の課題がクリアできるじゃん?」
光明が見えた気がして、俺も尋ねたら、ビンゴらしい。けど・・・
「うん!そうだね。
ただし・・・習熟度をそれなりに上げないと使えないけどね」
「習熟度?」
「レベルって表現すれば分かり良いかな?例えば『隠密』の場合、今はまだ、“人がそこに居るのは分かるけど、認識しずらい”とか“目を離したらその存在を忘れてしまう”程度の効果しか発揮できないんだよ。
そこは訓練して直ぐにレベル上げしていく予定だけどね。
あと、レベルの低い人の使った魔術はレベル高い人にはバレちゃうかも知れないんだ。
侯爵邸を守る衛兵にそう言うのを感知するスキルを持った人が居るんじゃないかなって思うんだよね。
そうじゃなきゃ、害意のある人が邸宅に侵入し放題じゃん」
「使えねぇ~!」
星野君がすかさず突っ込みを入れる。俺もガクッときてしまって、星野君を黙らせる余裕もなかった。
「そっか~。上手くいかないもんだね」
即戦力にならないとは残念だ。地道にいくしかないのか。
「屋敷の防犯に関しては、屋敷内での魔力を登録した以外の人の魔術行使を妨害する魔道具が仕掛けてあったり、部外者立ち入り禁止区域には登録された人以外の人間が侵入したら攻撃する魔道具が設置されてあったりするみたいだから、衛兵も常に魔力感知をやってる訳じゃないと思うけどね。
オニールの魔力も登録されてるから多少の魔術行使は大丈夫だと思うけど、場所によっては『隠密』なんて不穏な魔術は見咎められる気がする」
星野君も口を尖らせて突っ込む。
「じゃあ、習熟度?を上げるためにバンバン使う事もできないじゃん」
でも、木下君はその辺も想定済みだったようだ。
「オニールの部屋は屋敷の端っこだし、衛兵は警戒してないから少しくらいなら練習してても大丈夫じゃないかな?それに、僕が【控室】の【シミュレーションルーム】で練習した経験値も僕がオニールになった時には加算されるみたいだから何とかなると思う」
それに彩音さんが懸念を示す。
「衛兵がオニール君の部屋を警戒していないって、それはオニール君を護衛対象だと認識してないって事?酷いわね。
それと、これから魔術を使う場面がどんどん増えそうだけど、それだと、光君にだけ負担がかかっちゃうわ」
「魔術に関する事は苦にならないし、楽しんでやってるから負担とかじゃないし、大丈夫だよ!
あ、あと『移動』って移動する地点が見えてたら柵とか窓の向こうとかにも瞬間移動できちゃうんだよね。だから閉じ込められてても抜け出せるんだよ!」
【代役】全員の表情がパッと明るくなる。
星野君も思わずと言う感じで声を上げた。
「う~っわ、便利かよ!オタク少年のくせに生意気だなー!」
「星屑はさっきから一言余計だし。
魔術って便利なんだよ。
それで、僕は最強の魔術師を目指すよ!
元々の魔力量は多いって、オニールのお尻に円環術式を書いた謎の男も言ってたもんね。盗まれる魔力量を少しずつ少しずつ減らして行って、日常的に魔術が使える様にするのと、オニールが身を守れる環境になったら、一気に円環術式を消そうと思う」
「円環術式を消すって、簡単に消せそう?」
彩音さんが心配そうに尋ねる。
「円環術式はタトゥーで書かれてあるみたい。だから、消すのには大きくお肉を抉り取るか、焼くか、タトゥーを上書きして円環術式が発動しない様にするかすれば良いみたい。・・・抉り取ったり焼いたりするのは痛いから、上書きかな?変な上書きで爆発したり暴走したりしたら危ないから、どんな風に改変すれば良いか、これから研究してみるよ!」
入れ墨かぁ。現代日本でも消すのはそう簡単じゃないよな。上書きで無効化できるなら、その方が平和だな。
「抉ったり焼いたり、お尻を傷つけるなんて想像するのも嫌だわ。ましてや爆発なんてしたら生きていけないわよ。改変も慎重にお願いね」
彩音さんが鳥肌の立った腕を擦りながら言った。俺も同意だ。
「でも、大きな課題が片付きそうで良かったよ。魔術や剣術それから知識の方も申し分ないと分かれば、侯爵家の息子として少しは立場が安定するかな」
この俺の考えに、木下君は別な考えを返した。
「成人したら直ぐに侯爵家から逃げようよ。『隠密』で身を隠して他国に行けば大丈夫じゃない?レチノール国だっけ?そこまで逃げられたら冒険者になろうよ」
「ガキは冒険者をやってみたいだけだろっ。異世界転移のお約束、ベタだよなー。オタクが考えそうな事だ。へっ!」
星野君はそんな事言って木下君を嘲笑った。
「うるさいなー!侯爵家に居続けたら、そのうち邪魔になって殺されちゃうかも知れないだろっ!」
木下君が少しムキになって言い返す。でも、排除されるかもと言う懸念には頷ける。
九条さんも同じ様な懸念を持っていた様だ。
「私は成人する前に出奔した方が良いと思います。貴族には子弟の養育義務があるでしょうから、成人するまでは最低限の安全は確保・・・いえ、実際は最低限以下でございますが、兎に角積極的に命を狙われる事はないでしょうが、成人後にはどうなるか。非常に心配でございます」
「確かに・・・あの糞家族がオニール君の命を奪いに来ないなんて保証は全くないですね」
「今だって、ギリギリ生きている様な状況だもの。成人した後は家督争いとか色々と厄介事に巻き込まれそうで心配だわ」
山田君や彩音さんもオニール君の命の心配をしているが、俺は別な心配がある事に気が付いた。
「いや、オニール君の魔力を売ってるんだから殺しはしないんじゃないかな?それよりも、逃げ出そうとしているとバレたら、閉じ込められたり鎖で繋がれたり、奴隷みたいな状況にされないか心配だよ」
「それな!」
「確かに、その可能性はありますね」
星野君や斎藤さんが同意してくれる。
「では全ての準備を慎重に進めて、成人の前に出奔できるようにしましょう。直前ではなく、成人まで1年くらい猶予があると確実ですかね?」
俺の提案に、斎藤さんが爆弾を投下してきた。
「“攻撃は最大の防御”と言いますから、ここは家督簒奪に動くのも一手かと私は思います」
「え⁈コルタベント家当主の座を手に入れるって事ですか?孤立無援のこの状況から?」
「ええ。勿論、条件が揃えば、ですが」
「条件って?」
「父親であるコルタベント現侯爵や親戚筋で発言力のある人が、実力至上主義であった場合です。
その場合、武技、魔術、領地経営センスなどの頭脳、全てにおいてソーン君よりも、さらには現侯爵よりも優れていると示すことができれば可能性はありますね。我々【代役】チームの総力を結集すれば可能かと愚考しますよ」
「うぅ~ん、かなり狭き可能性の気もしますが、まだ成人まで6年近くありますし、これから状況も変化していくでしょうし、色々な可能性を否定せず模索して準備して行きますか」
俺のまとめに皆が頷いた。
ここで九条さんが栄養について問題提起した。
「まだ解決できていない問題がオニール君の食事でございます。オニール君の栄養状態の悪さは成長にも影響しますし、筋力も体力もつきませんから、コルタベント家に残るにも出奔するにもハンデになりそうでございます」
これに木下君が声を上げた。
「ああ!僕ね、【シミュレーションルーム】でオニールが具合悪くなった時の食事を再現して、『鑑定』してみたんだよ。そしたら上手くいってね、それで、オニールの食事には「毒」が盛られてたよ。食べたらお腹が痛くなって、吐き気がするって毒だった。あと、致死性は無いって」
皆の顔つきが険しくなる。
「あんな小さな子に毒を盛るなんて、サイッテー!!!」
「鬼畜家族っす」
「致死性が無いからって、あんな小さな子に・・・」
「自分、殺意を覚えました」
家族たちの碌でもない所業に皆、怒り心頭だ。
斎藤さんは冷静に木下君に質問をする。
「木下君、食事に混ぜられている毒物は、全ての料理に入っているのですか?」
「3回しか『鑑定』してないんだけど、その時は毎回スープに入ってたよ」
「毒の入った食事を避けて食べる事はできますか?」
「うん、できると思う。スープは食べたふりして『収納』に取り込んじゃえば誤魔化せるんじゃないかな?」
「では、今度から食事の時は毎回、木下君に舞台に上がって頂くことはできますか?普通に食べているふりをして、それから途中で具合悪くなったふりをするんです」
「分かった!やってみるね」
斎藤さんの対策案に九条さんが修正を加える。
「光君、毎回でなくて大丈夫でございます。アーカイブを確認したのですが、毒を盛られるサイクルがだいたい決まっておりまして、危ないタイミングの時はお伝え致しますので、その時にお願い致します。テーブルマナーですとか、後ほど一緒に練習致しましょう」
毒対策をまとめたところで、九条さんが提案を続ける。
「毒の対策はそれで宜しいでございますね。
それでも、栄養的には足りない状況は変わりません。何とか食事を手に入れる方法はありますでしょうか?厨房に忍び込んでお料理を頂くとか、食材を手に入れて自分で調理するなどして、十分な食事ができる様になれると良いのですが、いかがでしょうか?」
「全然できると思う。厨房に衛兵が常駐してなければだけど。
料理人は魔術を感知するなんてできなさそうだし、『隠密』で忍び込んで『収納』に入れちゃえば、『収納』の中は時間が進まないから、腐らないし、出来立てホヤホヤをいつでも食べれるよ!」
木下君の肯定に、彩音さんが続ける。
「パーティーとかお茶会の時が良いんじゃない?家族の食事の料理を盗んだらバレそうだけど、パーティーの時だったら、少しぐらい料理が無くなっても誰も気づかなさそうじゃない?
貴族って、自分の財力を誇示するために、参加者が食べきれない程たっぷり料理を準備すると思うのよね。逆にパーティー参加者は出された食事をガツガツ食べるなんて見っともないって事で、少ししか手を付けないと思うわ。残り物は侍女や侍従、お手伝いさん達に下げられるか、廃棄になると思うの。
ついでに社交マナーや社交ダンスも観れるし、一石三鳥でしょ!」
「外からお客さんが来ている様な場所は、警備が厳重になるんじゃないかな?『隠密』は使えないよ」
「オニール君の顔を知っている家族に見つからなければ良いんだし、魔術は使わないで忍び込んだらどうかしら?もしくは厨房。パーティー中の厨房なんて戦場でしょ?ワッチャーってなってて、子供一人くらい忍び込んでもバレないんじゃない?」
「良いね。次にお茶会か、パーティーがあったら木下君に【舞台】に上がって貰って『移動』魔術で部屋を抜け出したら、山田君に交代してもらって、厨房に忍び込んでもらうのはどうかな?」
「おっけぇーい」
「了解しました。任せてください」
お読みいただき感謝です
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