14 木下光3
本日もよろしくお願いします
拙作『おふたり様人生』の主人公、シュートが名前だけ出演しています
僕は朝から【控室】の【コルタベント家書庫】に入って、魔獣図鑑を探していた。
シューティングゲームの的にする魔獣をピックアップするのに、参考にする本が必要だったから。
別に、僕の記憶の中にある架空魔獣を出しても良いんだけど、オニールが実際に対峙する可能性のある魔獣に慣れていた方が良いからね!
そこに、1冊の書籍を抱えたお姉さんが声をかけてきた。
「光君、こんな魔導書を見つけたんだけど、参考になるかと思って」
そう言って差し出されたのは『魔道具男爵の叡智』と言う書籍だ。
「著書はシュート・ティンバーって人なんだけど、“まえ書き”に「魔道具の黎明期を支えた魔道具の大家」だって書かれているの。円環術式って魔道具でも使うのよね?光君の参考になるかと思って。良かったら読んでみて」
「おねえさん、ありがとう!読んでみたい!」
“魔道具男爵”なんてくそダサいネーミングだけど、本当に魔道具の黎明期を支えたんだとしたら、円環術式の習得に役立つ筈。
そう思ってその場でページを捲って目次をパラ見してみたんだけど・・・このシュートって、転生者か、もしくはオニールと僕達みたいに【舞台】と【控室】の関係があるブレーンを持っていたんじゃないかな!だって、日本の科学や家電の知識が満載の魔道具を開発しているんだ!
シュートが世に出てくるまで、魔道具はほとんどが攻撃魔術用で、生活魔道具は灯りや竈、水瓶くらいしか無かったって。
それが、シュートは魔道具技師デビューしてから、“乾燥携帯食製造機”、“髪乾燥機”、“乾燥機能の靴中敷き”、“携帯魔燈”、“携帯魔竈”、“『加温』や『冷却』の外套”、“『冷感』寝具”、“冷風機”、“温風機”、“給湯魔道具”、“野菜みじん切り機”、“空間乾燥機”、“草刈り機”、“刈り草掃除機”、“位置情報発信受信装置”、“魔手紙”、“スライム座布団”、“魔力遮断袋”、“魔力紋感知鍵”、“空飛ぶ絨毯”、“重力操作靴”、“推進力のアンクレット”、“雷痺の魔道具”、“爆裂弾”、“ごぉれむ”、“幻影投影機”、“転移門”と、次々と画期的な魔道具を、しかも短期間に開発していくんだ。
どう考えてもこのラインナップって地球の家電や科学技術を知らなかったら作れないよね?
それから、乾燥携帯食って、フリーズドライ食品の事だよね?
しかも、使用済み魔石に魔力を再充填する方法も開発して、庶民にも安価に魔道具が使える様にしたって。
もう完全に“魔道具の大家”、“魔道具の父”、“魔道具の黎明期を支えた人”じゃないか!看板に偽りなしだった!
僕は、【コルタベント家書庫】内の読書机に腰を据えて本格的に読む事にした。
この魔導書には、それぞれの魔道具の構造の図式、使われている円環術式、何故その円環術式を使ったかの原理なんかも詳しく書かれている。
で、『転移門』の円環術式を見た瞬間物凄く既視感を覚えた。もの凄く見覚えがある。どこで見たのかって、それはオニールの尻だよ!オニールの魔力はどこかに転移させられてるって事だよ!
尻に描かれていたのは、『転移』だけじゃなくて複数の円環術式が書かれているんだけど、この1冊を読めば、オニールの“魔力欠乏”問題は解決できそうだ!
ううぅ~~!
これこそ、まさに僕が欲していた情報だよ!
シュート!おまえ、良い仕事してるぜ!
あと、シュートが開発したオリジナル魔術も紹介されていた。
感心したのは、『圧縮』で初級や中級魔術を高威力にする方法とか、射出系の魔術を『誘導』で命中率を上げられる方法。
これ良いね!大がかりな上級魔術は魔力消費も大きいし、発動するのにかかる時間も中級に比べて長い。『圧縮』で、初級や中級魔術の威力が引き上げられるなら、これほど使い勝手の良い魔術はないよ。
他にも、雷系の魔術の『雷撃』『雷痺』。雷系統の魔術って他の魔導書には載ってなかった。
『索敵』と『解析』の融合魔術の『図化』。これは『索敵』の届く範囲の大まかな地形図を把握する事ができるんだ。建物の中にいる場合は、間取りが把握できる。初めて行く町で重宝しそうだよ。
『加温』と『灼熱』、『冷却』と『絶対零度』。これもシュートオリジナルなんだね。空気や水の温度を変化させたり、物体を凍らせたり熱融解させたりできるよ。他の魔導書には『加温』と『冷却』しか載ってなかったんだ。
火属性の攻撃魔術の威力を上げた、『赤火弾』『黄火弾』『白火弾』『青火弾』。炎は温度によってその色が変わる事に目を付けたんだね。詳しい温度は知らないけど、赤でも1000度は越えてたと思う。この知識は完全に現代地球の物だよね。
そして当然、『転移』魔術を開発したのもシュートだった。以前読んだ魔導書には『転移』魔術があると言う紹介だけで詳しい事は書かれていなかった。けど、このシュートの本には仕組みや発動条件とか詳しく書かれている。
この【舞台】の世界って、転生者が多く来る世界なんじゃないかな?
シュートオリジナル魔術も気になるけど、優先すべきは円環術式の方だね。僕は集中して魔道具の事を読み始めた。かなり集中してたみたいで、お姉さんに声をかけられて気が付いたらお昼ご飯の時間だった。
昼食を挟んで、午後も夕食まで円環術式の独習に集中する。3時のおやつの時間は欠席にさせて貰った。
まず円環術式の書き方なんだけど、奇麗な正円で円環を書いて、その線にくっ付ける様に術式を古代語で書くんだ。術式の文字は乱れてはいけないし、円環から離れたり、食み出したりしてもいけない。
円環の外縁が埋まったら、その術式の内側に再び円環を書いて同じようにくっ付けるように次の術式を書きこんでいく。
一つの円環に書き込む術式の量には上限があって、より複雑なことをさせたい場合は、別に円環術式を書くんだ。そしてそれぞれの術式を定義付けするための円環術式を間に挟んでそれぞれの円を接触させて書く。複数の円環術式を定義付けする場合、優先順位とか相互関係を明確に書かなくてはいけない。つまり凄く複雑な動作をする魔道具は、大量の円環術式がビッシリ書かれているって事だよ。
円環術式の文字は、古代語をちゃんと理解して書かなければいけないし、文字が乱れると正しく魔術が発動しなかったり、誤作動を起こしたり、暴走したりもするんだって。
それで分かったのは、オニールの尻の円環術式は『転移』『魔力注入』『効果範囲指定』『リミット機能』『それぞれの術式の互換調整』が書かれてあった。
円環術式って想像以上に複雑だった。これをいちから開発したなんて、魔道具技師は天才集団だし、その頂点のシュートはとんでもない逸材だったんだね。いくら日本の知識があっても簡単に作れる物じゃないって事だ。
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その夜の、オニールの寝る前の“魔力操作”訓練の時、体内を循環させる魔力を意識して円環術式の周囲を避けて回してみた。
すると、体内魔力が少し増えたんだ!ビンゴだね!それで生活魔術で風を出してみたんだけど、今まではそよ風程度で昏倒しかけてたのが、扇風機並みの風を起こしても全然大丈夫だったんだ!
あまり派手にやって、魔力を受けている側にバレると不味いから直ぐに止めたけど、オニールの魔力は多いって話だからちょっと位なら大丈夫だと思う。
魔力操作の訓練と検証のあと、自室ではまたシューティングゲームをやるよ。
僕は借りて来た『魔獣百科』から、ナインテールフォックス、ワイルドボア、ゴブリンをピックアップして、自室の窓の外を行きかう魔獣に追加した。
これらを選んだ理由は、ナインテールフォックスは動きがトリッキーで素早いから命中率を上げる訓練に役立ちそうだから。ワイルドボアは外皮が今まで出ていた他の魔獣よりも強いから。ゴブリンは人型の魔獣に慣れるため。
そろそろ中級魔術にレベルアップしようかと思ってたんだけど、予定変更。
まずはシュートの魔導書で読んだ『圧縮』と『誘導』を練習する事にしたんだ。
シュートによると、一般的に『水弾』は『火弾』や『土弾』よりも威力が落ちると思われている。これは「水は軟らかい」と言う概念があるから。だけど、水も極度に圧縮して高圧にすることで岩や金属さえも傷つける事ができると。このイメージを強く持つ事が大事だって。
そうなんだよね。僕もシューティングゲームしてて、『水弾』は急所にクリーンヒットさせなきゃホーンラビットも倒せないって思ってた。でも言われてみれば確かに、ウォータージェットで金属を切断する映像を見たことがあるよ。何で忘れてたかな。
よし、じゃあやってみよう。
まず『水弾』を指先に現出させる。そして、それに圧をかけていく。少しずつ『水弾』が小さくなっていく。それでも、さらに圧をかけていく・・・するといつもの半分くらいの大きさになった。
そこで、それを維持しつつ、外に向かって射出する。
シュンッ!
「おお!射速がいつもより速い!」
次はホーンラビットを狙って撃ってみた。
シュンッ!バシッ!
高威力『水弾』はホーンラビットの首に当たって、頭と胴が泣き別れになった。
「うっわぁ~!今までよほどクリーンヒットじゃなきゃ失神させるくらいにしかできなかったのに!すっげぇ~!シュート、あんたすげぇ~よ!」
次は『誘導』を試したいんだけど、『誘導』は『索敵』を利用する。まずは『索敵』の習熟度上げをしなきゃ使えない。
だから、今日は常に『索敵』で獲物を追いながらシューティングゲームをする事にした。ナインテールフォックスがけっこうトリッキーな動きをするらしく、練習台になりそうだ。
高威力系初級魔術各種を練習しつつ、『索敵』の習熟度上げ。しばらくはこれを続けるつもり。
お読みいただき感謝です
次回は1週間後の更新予定です
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