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11 木下 光1

本日もよろしくお願いします

 僕、憧れの異世界にリアルで来ちゃった!いぇいっ!

 元の世界に未練? ない!ない!全くないよ!


 僕のお父さんは弁護士で、お母さんは歯医者さんなんだ。僕は一人っ子。兄弟は居ない。

 立派な両親にできの良い息子もいて何の問題も無い幸せ家族って周りからは羨まれる。

 でも実際の所、お父さんとお母さんは仲が悪い。いわゆる冷めた夫婦関係ってやつ。体裁の為だけに夫婦生活を続けてるだけ。

 その証拠に2人ともそれぞれに愛人がいるんだ。お父さんもお母さんも、僕にバレてないって思ってるみたいけど、バレバレなんだよね。子供だからって侮ってもらっちゃ困る。僕は賢いんだよ。

 僕に対しても両親はあまり愛情はないみたい。僕の世話は家政婦さん任せだし、誕生日やクリスマスにはネットでポチッとしたやつが宅急便で届くだけ。お祝いの言葉なんて、直接はもちろんラ〇ンでも送られて来ないよ。

 お小遣いを毎月1万円くれるから文句はなかったけどね。


 さっきも言ったけど、僕は賢い。お父さんとお母さんに似たんだね。そこだけはめちゃ感謝。

 小学校の授業は低レベル過ぎて正直つまらなかった。それに僕の優秀さを妬んで、虐めなんて幼稚な事をやってくる同級生とかほんとバカなやつしか学校にはいないんだ。成績の順位関係なしに純粋な力だけでマント取ってくるとか、(けもの)の集団と変わらないよね。

 だから、僕は学校に行くのを辞めたんだ。部屋でネットサーフィンしている方がよっぽど勉強になる。

最近はRPGにも嵌まってた。

 もうネットゲーム以外のことはどうでも良かった。ここ半年ほどは寝てる時とトイレに行く以外の時間は、ご飯を食べてる時もずっとネトゲの生活だった。充実していた。

 友達?ネット上にたくさんいるよ。僕はMMORPGで高得点常習者だから、ヒーロー扱いさ。

 ホント、現実世界の同級生とか爆発しろって感じ。


 あの日、対戦中のMMORPGでかなり良い所まで行ってたのに、突然帰宅したお母さんに中断させられて無理やり連れだされた。何の用事かと思えば、銀行だった。僕は、僕には何の関係もない用事に最高に不機嫌だった。それにその後の強盗騒ぎは怖かった。

 でも、その全てが今に繋がってた。オニールを通してだけど、リアル“剣と魔法の異世界”に来れたんだ!

 お母さんに感謝しなきゃね。だって、僕だけで来れたからね。お母さんが一緒に付いて来てたら、楽しさ半減どころか、9割減だったと思う。


 まぁお母さんは居ないけど、ここにも余計な奴らは居る。

 優しい菊子おばあちゃんや美人で優しい彩音お姉さん、かっけー山田兄ちゃんの事じゃないよ。

 余計な奴ら筆頭は星屑野郎。趣味の悪いダサい服着て、頭悪そうな喋り方で、実際頭悪いし、僕に意地悪してくるし。彩音お姉さんに卑猥なジョークとか言って困らせてるし。

 もう一人、ザッキー。あいつ、絶対彩音お姉さんに惚れてる。け、け、け、けんそう・・・じゃなくて、懸想(けそう)って言うんだっけ?ぜったい頭の中であれやこれやイヤらしい事を想像してるんだ。ムッツリってやつ。

 だって、時々お姉さんの方を眺めながら鼻の下を伸ばしてニヤついてるんだもん。お姉さんを穢すなんて許せないな。

 斎藤おじさんは、まぁ、可もなく不可もなくかな。

 

 まぁ余計な奴はいるけど、ここでの生活には満足してる。だって僕はここでは頼りにされてるんだ。ここの【代役】メンバーの中で僕が一番、魔法に詳しいからね。

 いま一番の重要クエストは、1日でも早くオニールの(けつ)の円環術式を解明する事。

 何をするにも、ここから逃げるにも、とにかくオニールを魔力欠乏から解放しなきゃ話にならないからね。

 だから今日も僕は【控室】の【コルタベント家書庫】で『入門、円環術式』って魔導書を読んでるんだ。円環術式っていわゆる魔法陣の事だよ。

 【舞台】の世界では魔道具が発達していて、その制御に使われている円環術式は古語で書かれているらしくて、かなりの高等技術らしくて、魔道具技師って専門職もあるみたいなんだ。

 言語チートを持ってる僕らにとっては現代語も古語も関係なく読めるのでその辺は問題はない。

 ここに僕が来てなかったら大変な事になってたよ!他のメンバーじゃあ魔術の事や円環術式の事を調べて修得するなんて無理だったと思う。


 夕方になって、お姉さんが夕食の時間を知らせてくれた。

 お腹は空いてないけど、1日3食を【代役】メンバー全員で取る事になってるんだ。面倒だけど、お姉さんを困らせる訳にはいかないから、素直に従ってる。


「「「「いただきます」」」」

「いただきまーす」

「いただきーっす」

「はい、召し上がれ」


 三々五々、頂きますの挨拶をして箸を持った。

 今日の夕食は純和風だ。おばあちゃんセレクトだね。焼き秋刀魚、豆腐とエノキの味噌汁、ほうれん草のお浸し、里芋の煮っころがし、白米とたくわんの漬物。

 美味しい。おばあちゃんの出してくれる食事は優しい味がする。

 味付けって、それを出した人の味覚に沿うみたいで、同じメニューを出しても出す人によって味が変わるんだよね。

 日本では父・母どっちのお婆ちゃんとも疎遠だったから、ちゃんとしたお婆ちゃんができたみたいで嬉しい。


「おばあちゃん、美味しい!」


「お粗末様です、(ひかる)君。喜んでくれて嬉しいわ。でも、(ひかる)君くらいの歳の子はハンバーグやカレーの方が良かったかしら?」


「そんな事ないよ!日本にいた頃はこんな和風な食事はあまり出なかったから新鮮で嬉しい!それにおばあちゃんの味付け美味しいし!」


「おーおー、引きこもりのオタク君が無理して点数稼ぎしちゃってー」


「・・・」(星屑野郎め、無視だ、無視)


「おばあちゃんはお茶の入れ方も上手だし、年の功って言って良いのかな?尊敬しちゃうな」


「ふふ、ありがとうね」


「おーい、ネトゲ中毒少年、まるっと無視してんじゃねーよ」


「聖夜君、あまり(ひかる)君を揶揄っちゃだめよ。(ひかる)君、あまり気にしちゃだめよ。聖夜君は冗談で言ってるだけだからね」


「お姉ちゃん、ありがとう。大丈夫だよ。僕気にしてないし」


「気にしろよぉー。冗談じゃねーしぃ。オタクでネトゲ中毒少年の分際で俺様を無視するとか生意気だしぃー」


「・・・オタクでもネトゲ中毒でもないし」


「だってさぁー、魔法とか異世界とか、やらたと詳しーじゃん?完全にオタでしょー。ネトゲに嵌ってたんだよね?ネトゲ中毒間違いないっしょー」


「うっせー星屑、クズ。

 それに、“やらた”って“やたら”って言い間違い?

 ほっんと頭悪いよね」


「あぁー!反撃してんのぉ?オタが反撃してんのぉ?なぁーまいきぃー!」


 ああ、星屑さえいなければ、もっと楽しいのに。鬱陶しいったらない。

 僕は星屑の事は無視して食事を続けた。

 星屑はその後もしばらくギャーギャー言ってたけど、僕が完全無視してたらそのうち諦めて、山田の兄ちゃんとかザッキーに絡んでた。ほんとウザい。

 

 食後のお茶を飲みながらのんびりしていると、【舞台】ではオニールが休むために自室のベッドに入ろうとしていた。

 僕はちょっと急いで【舞台】に上がってオニールと入れ替わる。

 魔力操作の訓練をやるんだ。

 

 【舞台】に上がったとたん、全身を酷い倦怠感と打撲の痛みに襲われる。今日も酷く虐められたみたいだ。

 ちくしょー。反撃する力のない子供を大人が寄ってたかって良いようにやりやがって。ここも獣の集団じゃないか。

 体の辛さに顔を顰めながらベッドの下に隠してあった『初めての魔術』ってタイトルの魔導書を引っ張り出す。【舞台】の方の侯爵家の書庫から拝借してきた。

 それをベッドの上でページを捲って魔力操作のページを開く。毎回、訓練前に目を通すことにしてるんだ。

 何十回となく読み込んだ文字を今日もゆっくりと目で追い、それから静かに息を吐く。


 坐禅を組み、瞳を閉じて自分の中の魔力を探る。深く、深く意識の中に潜り込むように。すると、下腹の辺りに小さな熱源のようなものが感じられる。それが(オニール)の中で生み出される魔力だ。それを少しずつ動かす。

 丁寧に、慎重に。

 初めてやったときは、手で掬おうとした水が指の間を零れて流れ出てしまうみたいに、ちっとも思い通りに動かせなかった。

 小学校の理科の授業で習った人間の全身の血管の走行を思い浮かべながら、魔力が血流にのって全身を巡るのをイメージする。

 (オニール)の体内魔力は凄く少ない。それを一滴ずつ血流に乗せてあげる。点滴みたいに、てき、てき、てき・・・

 どれくらいの時間そうやっていただろう。限界を感じて目を開けたら、汗だくだった。頭がくらくらする。

 何とか魔導書をベッドの下に隠して、そのまま僕は体を後ろに倒して、もそもそと掛け布団の中に潜り込んで、意識を手放した。


 目を開けると、そこは【控室】だった。


(ひかる)君、お疲れ様」


 大好きなお姉さんが優しく声をかけて労ってくれる。

 僕は起き上がって、円卓に戻った。


(ひかる)君、お疲れ様でございます。私は休ませていただきますね」


 オニールを抱いていたんだろうおばあちゃんはソファから立ち上がった。


「おばあちゃん、おやすみなさい」


「菊子さんおやすみなさい」


 僕とお姉さんの応えに、おばあちゃんはにっこりと笑って自室に入っていった。


 【会議室】には僕とお姉さんの2人だけだ。他の【代役】メンバーは僕が魔力操作の訓練をやってる間にそれぞれの部屋に戻ったんだろう。

 お姉さんは僕を待っててくれたのかな?ホットミルクを出してくれた。僕はそれを飲みながらお姉さんと少しお喋りした。

 お姉さんは美人だし、大人だし、優しいし・・・それに、いい匂いがする。

 僕、彩音お姉さんみたいなお母さんが良かったなぁ。


 ミルクを飲み終わったらお姉さんに促されて、僕も自分の部屋に入った。

 夜は【会議室】にいちゃダメなルールなんだ。

 規則正しい生活なんて日本でもやってなかったし、ここでは尚更、何の意味もないって僕は思うんだけど、お姉さんやおばあちゃんは規則正しい生活肯定派だから、僕も賛同してる。


 僕の部屋は魔法使いのお婆さんが住んでる家っぽい内装なんだ。【控室(ここ)】では何でも思い通りに出せるからね。僕が思い描いた通りになってる。

 棚に並んでるたくさんの本の殆どはイミテーションで棚から抜き出す事もできないんだけど、【コルタベント家書庫】から借りて来た本を仕舞っているコーナーがあって、そこから『初級魔術』って魔導書を抜き出した。

 自室では何をしてても自由なんだ。どうせ眠くなったりもしないし、僕は一晩中、魔導書を読んだり魔術の練習をしたりして過ごしてるんだ。

 最初、死ぬ前にやってたMMORPGの続きをやろうとしたんだけど、そのゲームも今までやってきた他のゲームも全部、僕が生前にやったところまでしかやれないんだよね。しかも全部同じシチュエーション、同じ結果の繰り返し。全然面白くなくて直ぐにやめちゃった。

 窓の外にはスライムとかホーンラビットの姿が見える。僕は魔導書の『火弾』の項目を確認してから、窓を開いた。

 さぁ、シューティングゲームを始めよう!




お読みいただき感謝です

週1更新の予定です

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