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プロローグ

新しいお話を始めます

初っ端から銀行強盗のシーンになり、死傷者がでます

苦手な方はとばして下さい

 自宅から15分ほどの距離、灼熱の屋外を歩いてきた矢崎 泰敏(やすとし)は、銀行の自動ドアを潜った途端に全身を包んだ行内の冷気にほっと一息ついて、こめかみを流れた汗をハンカチで拭った。“地球温暖化”が叫ばれ始めてずいぶん経つが、いよいよヤバくなってきたな、と心の中で呟きながらATMに向かう。


 矢崎は大学院の国際学研究科を卒業した後、海外青年〇力隊に応募して2年の赴任を経て、職員として就職。3年目を迎える。30歳だ。昨日セルビア出張から帰国して、手持ちの金が心もとなかったので金を卸しに来たのだけれど・・・月末のためかATMの前には列ができていた。


 列の最後尾に並び、腕時計で時間を確認する。14時40分。何とか閉店までには間に合うだろう。

 時間つぶしに店内を見渡してみる。窓口にもまだそこそこの人数の客がいる。矢崎は人間観察が好きだ。普段から、勝手に他人の人生を想像して楽しんでいる。


 投資相談窓口では和装の高齢女性が行員と何やら真剣な様子で話している。資産家の未亡人かな。金にがめつい親戚に自分の資産を食いつぶされない為に対策を相談していそうだ。


 手続き待ちのソファーには20代後半のイケメンが足を投げ出してだらしなく座っている。ホストかな。髪は金髪のロン毛で、夜の街に似合いそうな光沢のある紫色のスーツを粋に着こなしている。女性を何人も泣かせいるに違いない。


(けしからんな)


 その隣には体格の良い青年が生真面目そうな表情で座っている。武道をやっていそうだな。坊主に近い短髪黒髪。耳たぶが変形している。柔道選手かな。挨拶は「押忍(おす)っ!」だろうな。


(おっす!)


 小学高学年くらいの男の子を連れた気の強そうな女性が順番待ちのカードを機械から引き抜いて、待合の後ろの壁に並んでいるテーブルに向かった。順番待ちの間に書類を書くのか。普通に考えて母子だろうな。学資保険の申し込みとかかな。しかし、今日は平日なのに少年は学校に行かなくて良いのか?臨時休校とか?テキパキと作業を進める様子から、お母さんはバリバリ働いてキャリアを重ねていそうだ。


(勉強頑張れよ!少年)


 金融窓口では制服を着たOLさんが手続きを行っている。会社のお使いかな。年齢的にはお局さんかもな。新人OLさんをねちねちと虐めておいて、新入社員の青年には甘ったるい声で話しかけていそうだ。


(偏見~~!)


 他にも数人手続き中の人が居るが、中年から高齢のおっさん達だ。おっさん達に用はない。


 そこに車椅子に乗った女性が介護の人に押されて入ってきた。20代後半だろうか?中々の美人だ。背筋が伸びて姿勢が良い。栗色の髪は緩やかにカールしていて、化粧はケバケバしくなく、その瞳から理知的な雰囲気が感じられた。そして惚れた。


 矢崎は女性に対して惚れっぽい。惚れっぽいが接するのは苦手で奥手だ。未だに彼女居ない歴=年齢であり、童貞だ。恋愛対象でない女性とはそつなく話せるが、惚れた相手とは目も合わせられないし、ぶっきらぼうにしか話せないので、相手に嫌われているとよく勘違いされる。


 車椅子女性との結婚生活を想像してみる。交際期間を素っ飛ばしてるが、気にしない。

 子供は3人以上。庭付きの家に住み、真っ白の大型犬を飼う。室内には猫が3匹。足の不自由な奥さんをサポートしながら、家族サービスにも余念がない俺。息子とキャッチボールして、成人後は酒を酌み交わしたい。娘には、幼い頃には「お父さんと結婚する!」って言われて、思春期には「お父さん汚い!」って叫ばれて、結婚相手を連れてきた時には「お前みたいな奴に娘はやらん!」って叫んで殴り飛ばした後、酒を酌み交わして「お義父さん」って呼ばれるのが夢だ。

 

(拗らせている自覚はある。ほっとけ)


 車椅子の女性との未来予想図を悶々と想像してる間に閉店5分前になって漸く自分の番が回って来た。

 矢崎がATMの操作をしようと機械に近づいたその時、猟銃の発砲音が店内に響き渡った。


 ターン!ターン!


 素早く身を低くして窓口の方を見ると、茶色のニット帽を被り黒いスウェットの上下に黒サングラス、白マスクの大柄な男が窓口のカウンター越しに猟銃を行員の男性に向けており、現金をリュックサックに入れるように脅しているところであった。


「金!金!あるだけ入れろ!早よ!早よ!」


(銀行強盗か⁉ )


 矢崎は店内にいる客と行員の人数を確認する。客は閉店間際のために自分が来た時よりも減っていたが、それでもまだ十数人はいる。行員は二十人以上はいるか。

 ATMに並んでいる自分達は玄関の直ぐそばだ。後ろに並んでいた数人の客に声をかけて外に出る様に促す。彼らに続いて最後に自分が出ようとしたその時、強盗が再び発砲した。


ターン!


 振り返ると、待合にいた男性客が撃たれた様だ。床に上向きに倒れている。

 強盗の気が立っている。下手に動かない方が良さそうだ。


「こいつ!通報しようとしやがって!変な動きしたら、容赦しねぇぞ!

 おらっ!金!早くしろ!」


 女性行員達はその場でしゃがみ込んで泣いている様だ。男性行員達は手分けしながら奥の部屋から札束を運ぶ者、リュックサックに金を入れる者とと、連携して動き始めた。


 「もう良いっ!かせっ!」


 焦れた強盗が札束で半分くらい膨れたリュックを強引に奪って担ぎ、出口に向かおうとこちらに近づいてきた。矢崎は目が合わない様にしゃがんだまま下を向いた。強盗と矢崎の距離が最短になったその時、駆け付けた警察官が2人、銀行に飛び込んできた。


「銃を離して手を挙げろ!」


 警察官は犯人に銃を捨てるよう要求し天井に向けて威嚇発砲をしたが、強盗は警察官に向けて3発、発砲した。1発は1人の警察官の顔と、1発はもう1人の警察官の胸に当たって、1発は外れた様だった。

 一瞬の出来事だった。

 海外では治安の悪い場所にも行く事がある矢崎は人が死ぬのを何度も目にしてきた。だが、平和な日本でこの様な事件に遭遇するとは想像もしていなかった。

 顔を打たれた警察官は即死かも知れない。恐らく防弾チョキを着ていたのだろう、胸に被弾した警察官が意識のない同僚を引きずって銀行を出て行った。


 外からは何台ものパトカーのサイレン音が近づいて来るのが聞こえる。銀行強盗は逃走しようとして外を覗いて「チッ!」と舌打ちした後、銀行内に戻った。既に逃げられる状況じゃなかったのだろう。

 行員に玄関のシャッターを下ろさせる様に命じ、それから客と行員を待合の隅に集めた。矢崎も逃げるタイミングを逸したまま人質の仲間入りになってしまった。

 

 銀行に籠城した強盗は、猟銃で威嚇しながら行内の机や椅子で非常用出口や階段を塞ぐバリケードを作らせた。バリケード完成後、全員を整列させて点呼させ、「金をすぐに用意しなかったから逃げる時間が無くなったじゃねぇか!!」と言って年配の行員を至近距離で射殺した。

 行内に人質達の悲鳴が上がるが、強盗が再び発砲「煩せぇ!!」と怒鳴ったため、静寂を取り戻す。しかし女性たちのすすり泣く声はどうしようもなかった。


 矢崎ら人質達は2人の遺体を横目に蹲って視線を下げて、強盗の逆鱗に触れない様に静かにしている他なかった。

 暫くして、警察官が拡声器を使って犯人に投降する様に呼びかけ始めた。強盗はこの呼びかけの一切を無視して、イライラとしながら行内を歩き回っていた。

 数時間が経っただろうか、イライラが最高潮に達したらしい強盗が、ホスト風のイケメンの男性に対して、「目つきが生意気だ」「香水が臭ぇ!」と怒り再び猟銃を発砲した。銃弾は彼の右肩に当たった。即死では無かったが、出血量が多い。そばに居た女性がハンカチを押し当てるが焼け石に水だった。直ぐに処置を受けなければ命に関わるだろう。

 誰かが失禁した様だ。濃厚な血の匂いと尿臭、そして極度の緊張から数人が嘔吐した。

 その後も強盗は、人質達に向けて威嚇射撃をするなどいたぶって喜んでは、些細なことで癇癪を起こして怒鳴り散らしたりした。威嚇射撃では数人の行員や客に怪我人が出た。怪我人を手当てしようと動く人も射撃の対象になるために、皆その場から動けない。せめて隣の人が止血したり小声で安否を問いかけたりできる程度だ。


 若い行員が、「怪我人と女性やお年寄りと子供だけでも開放してくれないか」と交渉を持ちかけたが、強盗は「煩せぇ!殺すぞ」と怒鳴りながら、真剣な顔をして銃口を突きつけてきて、行員の男性は黙るしかなかった。強盗は黙り込んだ行員の頭を猟銃で思いっきり殴った。殴られた行員は失神してしまった。


 そうこうしていると、銀行の電話が鳴った。強盗に指示された女性行員が電話に出ると、それは警察からの電話だった。強盗は電話に出ていた女性行員に食事と酒、逃走用の車を要求させた。食事はステーキとワインを指定していた。

 こんな状況でよく肉が食えるな、と矢崎は思ったが、他の人質も同じような事を考えていたに違いないとも思った。


 夜になり、強盗が要求したステーキとワインが届けられた。人質にはサンドイッチや胃薬が差し入れられた。強盗は毒や薬物の混入を警戒したのか、差し入れられた食事は全て人質達に毒味をさせてから口にしていた。

 数時間後、逃走用の車の準備が遅いことに腹を立てた強盗はロッカーに向けて何発か発砲した。この流れ弾が車椅子の女性と小学生の2人の腹部と胸部に当たってしまった。男の子の母親が悲鳴を上げて騒いだが、両隣に居た人たちが母親を宥めて静かにさせていた。これ以上強盗の神経を逆なでする行為は慎まなくてはいけない。2人の意識はある様だが、危険な状況だろう。


 そして時間は深夜になり、人質達にも強盗にも疲れが滲み始めてきた。撃たれた人達は生きているのだろうか。先ほどまでは複数の呻き声が聞こえていたが、いまは静かになっていた。早く病院に搬送してあげたい。


 椅子に座った強盗が人質達に向けて構えていた猟銃の先端が不自然に揺れている。揺れながら徐々に銃口が下がって来た。今なら飛びかかれば何とか抑え込めるだろうか?と腰を浮かしかけたその時、バンッ!!と言う轟音と共に行内が光と煙、かなりの人数の足音と怒号に包まれた。

 警察が突入してきたのだろう。どこかから行内の様子を観察していたのかも知れない。

 寝落ちしかけていた強盗も目を覚まし、視界を奪われた状況で無差別に発砲し始めた。そのうちの1発が自分に当たったらしい。胸に衝撃を受けた。「痛い」と言うより、「熱い」と言う感覚を覚えた後、矢崎の意識は暗闇に包まれた。





▲▽▲▽▲▽


 朝7時のニュースをお届けします。

 昨日15時頃、東京都〇〇区の銀行に猟銃のようなものを持った男が押し入り、行員に猟銃の様な物を突き付け「金を出せ」と言って脅しました。その後、駆け付けた警察と打ち合いになり、一人に重傷を負わせ、銀行のシャッターを下ろして立てこもりました。

 男は警察の説得に応じず立てこもりを続けていましたが、本日未明、突入した警官隊に男は取り押さえられ、強盗未遂と殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されました。

 店内には客12人と行員25人の合計37人が人質に取られていましたが、複数の死傷者が出ている模様です。死傷者が出たのが突入時によるものかは現時点では分かっていません。

 警察は男の身元と持っていた猟銃の入手経路や動機など慎重に捜査する方針です。


ーーーーーーーー











 夕方6時のニュースをお届けします。

 昨日15時頃、東京都〇〇区の銀行で発生した、強盗未遂、立てこもり事件の続報です。逮捕されたのは住所不定無職の川梅明男容疑者、54歳で、持っていた猟銃は盗んだと供述していると、警察への取材で判明しました。

 人質になっていた客12人と行員25人の合計37人のうち、死者7名、重傷者3名、軽症者5名と判明しました。負傷者は現在都内の救急病院で治療を受けているとの事です。また、川梅容疑者と打ち合いになった警察官一人が意識不明の重体で病院に救急搬送されましたが、搬送先の病院で死亡が確認されたとの事です。


明日も更新します

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