34
目を覚ますと昼前だった。カーテンの隙間から差す光が、日が高く昇っていることを示している。起き上がって辺りを見渡す。見慣れた自室だった。肉の焼ける香りがする。叔父が台所で何か作っているようだ。日常が戻ってきたことに安心し、もう一度ベッドに横になる。昨日の今日だ、もう少し寝坊したって構わないだろう。
しばらく布団の温もりを味わっていると、叔父がそろりと扉をあけ、モニの様子を伺いに来た。
「なんだ、起きているじゃないか。おはよう。」
「もう昼ですけどね。」
「昨日の今日だし。もう少し寝とく?」
「いいえ、起きます。おなかが空きました。」
「だろうと思ってソーセージを焼いたんだ。顔を洗って着替えておいで。元気があったら体も流すと良い。昨日はそのまま眠ってしまったから。」
確かに体が埃でざらざらする。後でシーツも洗わなきゃな、と思いながら、モニは浴室に向かった。
身なりを整えて台所を覗くと、食卓にソーセージとパン、コーンスープが並んでいたが、叔父はいなかった。どこに行ったのだろうと思っていると、裏口から叔父が入って来た。
「シーツ、掛け替えておいたから。今週は僕が洗濯当番をやるからいいよ。」
「ありがとうございます。叔父さんがこんなに気が利く人だったなんて、僕、感動しました。」
「無駄口を叩いてないで早く食べよう。冷めてしまう。」
「いただきます。」
しばらくは二人とも無言だった。昨日の出来事について話したいが、何から切り出せばいいか分からない。
「食べ終わったら、少し留守にする。」
叔父が言った。
「事情聴取ですか?」
「うん。夜には帰ると思う。モニはもう少し眠ったらいい。スープを多めに作ったから、おなかが空いたら温めなおして食べておいて。」
「僕も行きます。」
「だめだ。子供に聞かせる話じゃない。一緒に行ったとしても、聴取室には入れないよ。」
「僕、そんなに無垢な子供じゃありません。叔父さんや神父さんが濁したこと、大体察しは付いていると思います」
「それでもだ。頼むから家で待っていなさい。小屋に着いて来ることは許しても、今回はだめだ。」
叔父がそこまで言うのなら、ここは引き下がるべきなのだろう。事件は幕を下ろした。結末はあとで叔父に聞けばいい。
「ロビンは元気にしていますか。」
「ああ、ロビンね。全然元気にしていない。モニが回復したら、ロビンをヘレナに会わせようと思ってね。この件で一番楽しいイベントだよ。わくわくするよね。」
叔父の声がうきうきと跳ねる。3日前、小屋から帰っていくときのロビンの様子を思い出した。早めに会わせてあげた方がいいだろう。ただ、この一件に関する口裏は合わせておかなければならない。
「そろそろ出る準備をしないと。」
叔父が立ち上がり、食器を片づけながら言う。
「モニは寝ていなさい。家から出ず、しっかり休むこと。あと、分かっていると思うけど、この件はまだ口外しないようにね。」
「はい。」
叔父を見送って、モニは自分用に紅茶を淹れる。物思いにふけりながら適当に淹れたところ、かなり好みの濃さに仕上がった。叔父にも感想を聞こうと思って、一人だったことを思い出す。カップを両手で包み、ぽつねんと食卓で物思いにふける。それにしても昨日はあんなに怖がることなかったな、叔父が人を呼んでいることは知っていたんだから。思い出して少し恥ずかしくなる。これから街は騒ぎになるのだろうか。内容が内容なので、うやむやにされるのだろうか。首を横に振る。グリュンワルド家が決して許しはしないだろう。ロビンも事情聴取を受けるのだろうか。可哀そうだな。事情は全て叔父が知っているし、手紙も叔父が持っているんだから、ロビンの代わりに叔父に聞いて欲しい。ロビンのお母さんは怒るだろうか。きっと泣いて心配するだろう。おなかの赤ちゃんに影響がないと良いんだけど。神父さんも事情聴取を受けているのだろうか。あまり思いつめないで欲しいな。
いくらも時間が経たないうちに、頭が回らなくなっていることに気づいた。やっぱり疲れているんだな。叔父のいう通り、もうひと眠りしよう。紅茶を飲み干し、自室の綺麗なシーツに飛び込んで、モニはもう一度眠った。