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拍子抜けするほどすぐに池にたどり着いた。林自体があまり広くはなく、歩いて10分ほどで抜けることができたのだ。

「池のほとりで休憩すればよかったな。」

少し残念そうに叔父が言う。

池の大きさは直径100mほどで、表面には水生植物が生えている。モニは池に近づいた。勿忘草だろうか。花が咲いていないので判別できない。

「落ちないように気を付けるんだよ。」

叔父が声をかける。

「その言葉、そのままお返しします。」

顔をあげて辺りを見回す。対岸に小さな掘っ立て小屋があった。

「あれですかね。」

「他に小屋らしいものはないしね。行ってみよう。足元に気を付けて。」

池の西側をぐるりと回り、掘っ立て小屋に近づいた。12平米ほどの小さな小屋だ。近づくにつれ、これは農具小屋というよりは廃屋なのではとモニは思った。蔦が壁を這っており、地面に近い場所は苔むしている。傾いてこそいないが、肝試しでもなければ近づこうとは思わない。叔父も同じらしく、二人はしばらく扉に手をかけようとせずに、少し離れたところから小屋を眺めていた。

「これ、ドアを開けようとしたら崩れるとか、ないかな?」

叔父が呟く。

「なんでもありですよ。二人同時に入るのはやめましょう。」

「それがいいね。入る前に周りを少し調べよう。誰かがいた形跡があったら教えて。」

「了解。」

二人して小屋の周囲の地面を観察する。だがモニも叔父もレンジャーの経験はない。明らかに踏み荒らされた跡は見当たらなかったが、それだけだった。

「じゃあ、入ってみますか。モニは少し離れたところで待ってて。」

叔父は言って扉に手をかける。構造を見ると引き戸のようだ。両足を開いて立ち、力を込めて取っ手を引く。と、意外にもすんなり扉が開いた。叔父がたたらをふむ。

「これはこれは。」

体勢を立て直した叔父が呟く。

「中を確認するから、大丈夫そうなら呼ぶよ。」

そうモニに言って叔父は小屋の中に入る。幾ばくもしないうちに、どうぞ、と声がかかる。

中に入ってみると農具はほとんど無かった。壁際にさび付いて崩れそうな鋤や鍬がいくつか並んでいる。使われなくなって久しいのだろう。

叔父は入り口付近に片膝をついて、首をいろいろな角度に傾けている。

「いやね、床の埃に足跡がついてないかなー、なんて思ったんだけど、そうはっきりとは分からないもんだね。でも床の埃が薄いと思わない?そのへんにある鍬のさび具合と比べて。まあ、これもただの僕の主観だけどね。」

言われてみればそんな気もするが、モニにはよく分からなかった。藁くずと思しきごみが散乱しているし、そもそも薄暗くて床の様子などほとんど分からない。時刻は2時ごろ、秋口とはいえ日はまだ高い。小屋の入り口が北西を向いているので、日中でもほとんど日が入らないのだ。モニは一旦外に出て小屋の周囲を回る。2か所ある窓はどちらも外から釘で打ち付けられていた。

再度小屋に入り口に戻ると、あきらめて立ち上がった叔父が膝の埃を払っていた。

「それじゃあ、中を調べますか。踏み荒らしたらよくないと思っていたんだけど、この暗さだと気にしなくてもいいような気がする。」

「中といっても、ほとんど何もないですね。」

先ほど見たさびた農具の他は、部屋の隅の方に転がっている穴の開いた木箱と、壁に取り付けられたたくさんの金属製のフックくらいしかない。叔父が木箱の穴をのぞき込み、中身を引っ張り出した。大きな麻袋の束だ。市場でジャガイモが詰められているものと同じ袋である。木箱に入っていたためかほとんど埃をかぶっていない。

天井を見上げると中央にフックがある。ランタンを掛けるためのものだろう。あんなに高いところにどうやって掛けるのだろうかときょろきょろ辺りを見渡すと、壁際に藁くずに埋もれるようにして鉄の棒を見つけた。掛け棒というのだろうか。先端が二股になっている。さび付いており、掛けるべきランタンも持っていないので触らずそっとしておく。

叔父は部屋の四隅をめぐると、最後に2か所の窓を確認した。木製の両開き窓で、叔父が内側から押してみたが開かなかった。板の隙間から細く光が漏れて来るが、顔を近づけても外の景色はほとんど見えない。小屋の外に出て、叔父が窓を確認する。釘で打ち付けられているのを見て、道理で、と納得した。

「なにか気になること、あった?」

「今のところ、特には。」

「それなら、もう調べるところも残っていなさそうだし、次に行ってみようか。」

叔父の提案にモニは賛成した。暗いところはもう十分だ。二人は林に向かってもと来た道を進んだ。

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