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ある小国の、そのまた西の隅にある小さな街にモニは住んでいる。

人口1万人ほどの、農業を主な産業とする街だ。街の東側に位置する山脈を越え、3日ほど馬車で街道を進むと首都に着く。南西に向かえば丘陵があり、なだらかな地形が下り坂に変わるくらいが街のはずれである。そのまま数刻も馬車に揺られると海に出るが、切り立った崖であるので漁業はできない。崖沿いに北に進めばそのうち大きな港町に出る。ここは漁業の他に交易も行っており、国を横断する川が物流を支えている。その支川を利用して、モニの住む街にも多少の交易品が運ばれる。

小さな街ではあるが、周辺には広大な農地があり、いくつかの集落がある。何軒か地主がおり、それぞれの所有する農地の一角に屋敷を構えている。この街では地主たちと長老たちが農工会を運営しているが、だからといって彼らが租税やら町政やらに対して独裁権を持っているわけではない。そういったことは首都が決定しており、それなりに妥当な設定になっている。

役場、農工会、教会、卸売市場がある辺りを、街の住民は中心街と呼んでいる。その周辺には個人商店が立ち並び、中心街から離れるほど商店が減り住宅の割合が多くなる。中心街の西側には南北に川が流れており、川を越えると一気に民家がまばらになる。その川を越えた後、橋の袂から少し北に行った場所に、生垣に埋もれるようにして小さな家が建っている。

この家に、モニは叔父と二人で暮らしている。



「結構育ってきたね。そろそろ収穫できそうだ。半分はピクルスにする?」

「いいですね。空いてるガラス瓶が結構あるので足りると思いますよ。残りは干しますか?」

「そうしよう。ソースにしようかとも思ったんだけど、そっちは大きいトマトでやろうか。」

「アブラムシが付かなくて良かったですね。」

「本当にね。去年は大変だったからね。」

しゃがみ込んでミニトマトを確認していた男が立ち上がる。庭の隅に行き、じょうろに水を汲んで戻って来た。乾いた土に水をやりながら男は続ける。

「魚介のスープに干したトマトを入れると旨味が出て美味しいんだよね。よその国ではお米と一緒に炊くんだって。それも美味しそうだよね。ピクルスを多めに作るか、ドライトマトを多めに作るか、悩むね。」

「ピクルス多めで良いんじゃないですか。そのまま食べられるので、手軽で僕は好きですよ。瓶の消毒は手間ですけどね。」

男のそばでミニトマトを見ていた少年が、水がかからないように少し移動しながら答える。

「モニが言うならそうしよう。来週ぐらいでいいかな。大鍋を出しておかないとね。どうせ煮沸するなら、アンズもジャムにする?」

「叔父さん、三日前に砂糖壺を落として割ったの、覚えてます?」

あ、と言って叔父が動きを止める。

「そうだった、砂糖と壺を買わなきゃ。水をやり終わったら買い物に行く?砂糖がないとティータイムが寂しいんだよ。」

「そうしましょう。僕、先に着替えてきます。」

モニはそう言ってじょうろの先に両手をかざした。土を洗い流してタオルで手を拭き、裏口に向かう。

「そうだ、油と小麦粉の残りがどれくらいか確認しておいてくれる?」

水をやりながら声を掛けてきた叔父に手を上げて応えながら、モニは裏口から台所に入った。



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