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マジックパンク&ブルームハンドル  作者: 相竹 空区
EP.1 過去を失くした女
9/25

1-9 魔術


 霊柩車によるカチコミから始まった戦いは、サラによる的確な射撃によって燃料タンクを撃ち抜かれた事でド派手なスタートを切る事となった。


「があぁぁ!火が!」

「車が吹っ飛んだぁ!」


 ボスとネウマを安全な所に移動させようと、ギャング達はネウマを縛り付けられた椅子ごと抱え上げてボスにも声を掛けようとしたのだが。


『クソが!撃ちまくれ!』


怒りに震えるターボヘッドはひび割れるような怒声をサイバネティクスから放ち、近くに居た者達は耳に凄まじい衝撃を喰らいつつも、その声に従った者達によってガレージ内には無数の火線が走る。


 しかしサラは(ブルームハンドル)による立体的な機動に加えて、壁や様々な構造物を蹴って遮蔽物から遮蔽物へと素早く予測出来ない高速移動を繰り返し、その度に数発の弾丸を放って数人のギャングが倒れている。


「ぐぁ!」

「早えぇ!当たんねーぞ!」


 連続した射撃音の中に重い断続的な射撃音が混じり、床には空薬莢が落ちる心地よい金属音。

 両者撃ちまくっているこの状況で、たとえ隣にいようともまともに声など聞こえそうも無いのだが、それら全てを掻き消すような怒号が響く。


『クソが!たかが1人に手こずりやがって……!念の為〈カルト〉共との取引まで取っておきたかったが……」


 怒りに任せて手近な作業台を殴りつけ、金属製のそれに大きな凹みを作り出す。

 イレギュラーとはこれだったかと、ターボヘッドは血の上った脳裏で思考してニヤリと笑う。

 そうして次に放った言葉は威厳に満ちた支配者の言葉だった。


『──駆動せよ』


 それは命令。

 しかし配下に向けた命令ではない。

 これは通常目に見えない存在への語りかけ。

 

 高まる不可視の力を感じ取り、遮蔽物の裏でサラが舌打ちをする。


「チッ……アイツ脳筋っぽい見た目で魔術使うのかよ!」


 そう、ターボヘッドは魔術師だ。

 胸に埋め込んだエンジンのような形のサイバネティクスは魔術の補助の為に埋め込んだ魔道具で、彼の力を増幅させるための物だ。

 通常は兵器などに積む事はあっても人になど搭載しない物を、その巨体への度重なる身体改造で臓器の小型化を行ってスペースを空ける事で接続している。

 胸のエンジンは魔法の発動と共に目覚めて、エンジンのような駆動音と共に光を放つ。


『ククッ……アガってきたぜ……全員カッ飛ばすぞ!』


 胸のサイバネティクスから放たれる光がターボヘッドの両手へと流れ込み、それはエンジンのように力強く鳴動して配下のギャングメンバーに入り込む。

 光はまず心臓(エンジン)へと向かって、そのまま全身へ広がる。

 血管に合わせて走る光は全身に力を齎らして、そしてなにより全能感が彼等を支配する。


「ぉぉぉあおおぉお!!!」

「キタキタキタキタ!!!」

「トップスピードだァアァ!!」


 ターボヘッドが発動したのは筋力を上昇させる魔術と、精神の高揚を起こす魔術。

 ハイになったギャング達は上昇した筋力に物を言わせて地面を蹴り込みサラへと駆け出す。


「マジか!?接近戦!?」

「ィィイイイハアァァアァア!!!」


 迫る痩躯のギャングが手にしているのはポンプアクションショットガン。

 散弾を喰らわない為にはより大きな軌道で避けなくてはならない。

 サラは歯噛みし、滑るようなバックステップにて距離を取りながら両手で銃を構えて狙いを付ける。

 相手より早く撃ってしまえば良いのだと、距離を稼ぎつつ引き金に力を込め始めたその時。

 サラの頭上に大きな影が落ちた。


「喰ぅうぅらあぁぁあえぇぇ!!!」


 それは大型のタイヤを2つ、両手に1つずつ振り上げた新たな大柄な襲撃者。

 重量物の叩きつけはシンプルな破壊力で対処が難しい。

 サラは予想外の連続に思わず悲鳴を上げる。


「嘘だろ!?なんで近づいてくんだよ!」


 狙う事を諦め、叩き付ける直線的な軌道を予測しての回避に専念する事にしたサラは空中で体を捻ってその攻撃範囲からは逃れる事に成功する。

 

「逃がさねェぞ!」

「その綺麗な顔を蜂の巣にしてやんよ!」

「顔面褒めてくれてありがとうよ!」


 軽口を放ちながらサラは空中で体を捻った勢いのまま吹き飛ぶ事にして、地面を転がりながら強引に距離をとる。

 途中から(ブルームハンドル)を利用して滑るように飛び込んだのは銃撃の邪魔が入らない入り組んだ場所。

 しかし叩きつけられたタイヤは轟音と共に跳ね返り、一瞬で元の振り上げた体勢へと逆戻りして再び振り下ろす用意が完了する。


「もういっちょぉおぉぉお!!」


 向上した身体能力は、その大柄な体を踏み込みひとつで弾かれたような跳躍を実現する。

 海老反りになりながらサラへと猛進し、振り上げたタイヤは致命の威力を孕む。

 そして脅威はそれだけではない。

 大柄なギャングの背後には痩躯のギャングが控えており、隙を晒せば散弾で蜂の巣になってしまう。


 ならば、とサラは腹を括る。

 迫る2人を見据えて脚へと力を込めて後ろへと全力で跳ぶ。

 それでも力の籠り方が前方と後方では違っており、自分で選んだ入り組んだ場所は左右の逃げ場を無くてしまっていた。

 たとえ後ろに逃げてもいずれ潰される事に変わりはなく、ただ逃げる時間を引き延ばすだけ。


「クソッ……やりたくねぇけど……!」


 改めてサラは銃を構える。

 しかし例え迫る大柄のギャングの脳幹を撃ち抜いて即座の無力化に成功しようとも、吹っ飛ぶ巨体に潰されたあと身動きを取れずに奥に控えているショットガン持ちに殺されるだけ。

 1度に両方無力化しなければ、道はない。


 照準を定めるのは未来の位置。

 移動し続けるソレへの偏差射撃。

 ただ悠長に狙いを定める事も出来ずに危機は迫りつつある。

 大柄のギャングが振り上げたタイヤはいよいよサラを潰す事が出来る距離まで近づき、重力に引かれながら魔術によって強化された筋力で猛烈な加速でサラを潰さんとする。


 狙いを外さないように、最適なタイミングを研ぎ澄まされた集中の中で引き金に力を籠める。

 そして引き起こされたハンマーが振り下ろされて──


 ──爆発音。


 まさに空気の爆ぜる音がサラを、2人のギャングを、そしてガレージの中に居た全ての人を襲う。

 銃声とは比べ物にならない轟音は聞こえたものの、物陰で戦闘をしていた3人意外は何が起きたのか分からなかった。


「あ、あれ……」


 誰かの絞り出すような声が爆発の余韻の耳鳴りに苛まれる鼓膜に届いた。

 その声と共に指差す方向はサラが戦闘していた物陰から直線上に位置する壁面。


 そこには大きなホイールに体を潰された2人のギャング──サラを追い詰めていた2人が壁面にめり込んでいた。


「あああああ!!!!クッソ……耳痛え」


 続いてサラの大声が響き、彼女があの2on1の勝者なのだと示す。


 迫る脅威を前にしてサラが狙ったのは振り下ろされるタイヤだった。

 的確なタイミングで狙い撃ち、バーストされたタイヤは直前のメンテナンスで空気圧を高められていた事により内部の空気を爆発的に放って弾けて飛んだ。

 間近にいたサラは吹き飛ばされ、タイヤを持っていた大柄なギャングとその後ろにいた痩躯のギャングは文字通りの爆発的な加速をするホイールに押し除けられて、壁とホイールの間に挟まる形になった。


『どうした?たかが2人やられただけだ。ヤツを轢き潰せ!!』


 仲間の無惨な死体を目の当たりにして惚けた表情のギャング達も、ボスのひと声(シャウト)で戦意を取り戻して銃を構える。

 サラも耳鳴りから回復し始め首を回し、再び戦闘へと舞い戻る。


「どうしたどうした!さっきまでの勢いがないぜ!」


 挑発しながら縦横無尽にガレージ内を跳び回るサラに、無数の銃口は1つも追いつけずに弾丸は金属が跳ねる音を響かせる。

 サラは空中で派手に撃ちまくる、体を丸出しにしているターゲットから撃ち抜いて着実に危険を減らしてゆく。

 サラが銃火を迸らせるたびに1人、また1人と倒れるギャング達。

 それに1番焦れるのはボスであるターボヘッド。

 

(戦意高揚の魔術をこれ以上掛ければブレーキのブッ壊れた兵隊が同士討ちするだけ……負担はデカいが別の魔術を使うしかねぇ)


 現在も稼働している胸のサイバネティクスに手を当て思案するターボヘッドは、そこから魔力の光を掴み取るとソレをガレージ内に停めてある車両へ向けて放った。

 ソレらの光は渦を巻き、エンジン(心臓)へと入り込み仮初の命を吹き込む。

 蛍光を纏う車両は上部に据え付けられた機銃を1人でに動かして、術者の命令を実行する簡易的なゴーレムだ。

 すなわちサラ(あの女)を殺せ。


「そんな事も出来んのかよ!?」

『ぐぅっ……クソがこんな術まで使わせがやがって……ぶち殺してやる』


 一層力を強める胸のサイバネティクスの負荷に喘ぐターボヘッドの苦悶と怒りに満ちた言葉に呼応して、無数の車載機銃がサラを狙う。

 さながら対空砲火とでも言えるような猛烈な金属の雨が逆転して降り注ぐ。


「ヤッバ……!」


 もはやガレージの天井はその役割を全う出来る程の面積が残っておらず、陽の光が光芒の如く内部を照らす。

 そんな中で宙を舞うシスターは幻想的ではあるが、当のサラに余裕は全く無い。


「う、おおおぉ!?やるか!?やるしかないのか!?」


 冷静になる為の自問自答で舌を噛みそうになる錐揉み回転で飛び込んだ機銃の角度的限界にて、サラは僅かに呼吸を整える。

 リボルバーをトップブレイクして空薬莢を排出、スピードローダーにて給弾する一連の動作を僅かな時間でこなす間にサラは幾分冷静になれた。

 サラにとってこれはただのリロードではなく、おまじないとして行う事がある。

 弾を込めたら自分自身にも戦う力が充填されたような感覚となり、銃のリブを額に当てれば幾度も困難を乗り越えた経験が蘇り背中を押してくれる。


「よし、よし。このまま隠れてたって包囲されるだけ……きっと今より良いさ、やるか!」


 すっくと立ち上がり、サラは右手に銃を左手に拳を握り締める。

 現状1番の脅威はゴーレムと化した車両だろう。

 機銃の破壊力はギャング達が携行している銃の比ではない。

 ならば機銃の破壊を考えるところだが、いくら威力に優れるサラの愛銃とてあれらを破壊する事は難しい。

 というのも車両が纏う蛍光には耐久力を上昇させる効果があるのだ。

 魔術の防御を破るのは容易ではない。

 流石〈モーターヘッド・ギャング〉を束ねる長と言うべきか、複数の車両に貼られた防護は完璧に機能して穴が無い。

 とあれば破る手段は殊更に少ない、術者を叩くか対抗する防護破りの術を使うのか……どちらも現状サラに取れる手段ではないだろう。

 この銃火を潜り抜けて術者を叩かに向かうのは自殺行為だ。

 そしてサラは防護破りを修めていない。


「派手に行こうぜ……!」


 しかし最も単純な方法が事態を解決に導く事もある。

 即ち力押し。

 遮蔽から飛び出したサラは()()()()()()()を突き出して告げる。


「──迸れ」

 

 術者の命令に従い魔力が渦巻き、サラの突き出した拳の内へと向かって収束する。

 瞬間的に高められた圧力を、サラは握った手を開く事で解放する。


「ブッ飛べっ!!」


 赤々と力強い烈火が迸り、空気を焼きながら猛進する。

 狙うは車両、間に挟まる障害物(ギャング)は全て焼き払う。

 勢いを微塵も衰えさせない激流は車両へと激突し、まるで蛇が獲物を締め上げるように渦巻く炎が金属を焼く。

 法則外の炎の大蛇はその熱量を内側へのみ向けて、周囲へ熱を逃さない。

 それは余計な物を焼かない気遣いではなく、確実に対象を灼き尽くす意思の表れ。


 放たれてから僅かな時間で車へと取り付いた炎の大蛇は、熱を余す事なく一瞬にして内向きに放出する。

 瞬間的に温度の上昇した車両には満タンの燃料が積まれており、熱が放たれ切った後には燃料の爆発が訪れる。


 今度は制御などされていない全方位へ向けてのエネルギーの放出だ。

 熱された金属片と共に爆炎が放たれ周囲のギャングを吹き飛ばす。

 ただの一撃でこの破壊を成し遂げた本人は、まるで熱さも感じないように炎の中を悠然と突き進む。


「天国までブッ飛ばしてやるよ……神サマによろしく言っといてくれ」


 敵を見据えて獰猛に笑うサラは、闘気と共に炎を握り締めた──


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次回更新は明日、21時22時の2回更新です。

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