1-8 襲撃
太陽が頭上に登り、時刻が正午に近づいた頃。
スラムの片隅、廃工場跡にあるガレージでは慌ただしく作業する人々の姿がある。
廃工場である為、彼等は当然作業員ではなくここを根城にする胡乱な者達だ。
それら〈モーターヘッド・ギャング〉はこれより取引を行う為に、少しばかり浮き足立っている状態になっている。
というのも取引相手は〈トライアイ・カルト〉。
道理の通じないイかれた悪魔崇拝者達とビジネスをするとなれば身構えてしまう事もあるし、そもそも〈モーターヘッド〉は体面を重視する事もあり威圧を兼ねた装備や戦闘車両の準備でガレージでは人と物が行き来していた。
「弾薬を車両に積み込め!車載機銃にも弾詰めとけよ!」
「燃料は満タンにするぞ!順番に補給する!」
他の作業の音に掻き消されないようにと張り上げた大声が飛び交うガレージには〈モーターヘッド〉が行った輸送車列襲撃によって得た無数の物資──燃料、弾薬、銃火器──が積まれている。
それらを活用して総動員した今回の取引、〈モーターヘッド〉は〈カルト〉が探している女ただ1人を渡すだけで大金を得る事になっている。
そう、たった1人を引き渡すだけで通常の人身売買で得られる金額などとは比べ物にならない額が手に入る簡単な取引だと……組織の長たるターボヘッドはそうは思わなかった。
どんな理由で大金を積んでいるのかは彼にも分からなかったが、それでも〈カルト〉にとっては何かしら重要な存在を自らが抱えている事は理解出来たし、大金が絡むとイレギュラーが起こるモノだと経験則から想定していた。
この過剰なまでの準備はその為。
『〈カルト〉の連中が引っくり返すとも限らねェ……準備しすぎって事もないだろう……』
着々と進む、もはや戦争の準備とすら言えるその様子をモーターヘッドは腕を組んで眺めている。
そしてその近くには椅子に縛り付けられた商品──ネウマが居る。
「私はこの後どうなるんですか」
『〈カルト〉の連中に引き渡したら……後は俺達には関係ねェからな、変な儀式にでも使われんのかもしれんなァ』
クックックと機械の駆動音のような笑い声でネウマを威圧するターボヘッド。
しかしネウマはこの先どうなるかという不安はあっても、目の前の恐ろしげな風体の男には引く事なく真っ直ぐに向かい合っていた。
「貴方達に道理を説いても無駄なのでしょうね」
『ああ、俺達にとっちゃ最高のマシーンこそ何事にも優先する……〈カルト〉にとっちゃいずれ復活する魔王とやらがそうなんだろうな?王の元へ馳せ参じるとか何とか言って、アイツらみたいにスキャナーで脳を焼くなんて死に方御免だが……アンタは果たしてどうなるんだろうなァ?』
モーターヘッドにとってはネウマがどうなろうと興味など無いのだが、戦う力が無いにも関わらず心が折れる様子のない珍しいタイプの人間には多少面白みを感じていた。
「その〈カルト〉の方々はそんなにも非道なのですか?」
『そりゃもうヒドイもんだ、アイツらの儀式は金持ちが背徳感を味わう為の乱行パーティとは訳が違う。部屋中真っ赤に血で塗り重ねて、ハラワタ掻っ捌いて作った魔術構造体とコンピューター繋げて都市機能に大規模なシステムダウン引き起こしたりな……現場の画像見たが人の所業とは思えねェ惨いモンだったぜ』
知る限りもっともインパクトの強い〈カルト〉の活動を思い出して、サイバネティクスの口を歪ませながら話すターボヘッドの愉快そうな様子に、ネウマは眉を顰めて黙り込む。
『いやァ俺は楽しまでしょうがねェ……金を手にしてアレを完成させて……クソ憎たらしいノマド共を皆殺しにしッ!俺達は自由な道を手に入れる……殺しも盗みも、俺達が全て手に入れる……ッ!』
〈モーターヘッド・ギャング〉の今後のの展望、それはこの〈ストーンヘンジ〉外の道路を支配する事にある。
例え時代と共に進歩した科学技術で移動が楽になろうとも、魔獣や盗賊の脅威は依然として存在する。
その為都市間の移動には護衛が付く事が大抵で、それを請け負うのは定住地を持たない放浪者達。
車列と共に移動する護衛を生業とする〈ノマド〉と、車列を付け狙う狙う〈モーターヘッド〉は天敵だった。
そんな状態から抜け出すべく、ターボヘッドは今回の取引で得られる報酬にかける期待は大きい。
眼下で作業する配下達と共に荒野の覇者となる未来を夢想し、ターボヘッドは悦に入る。
例えボスが未来を見ていても、下っ端は今の作業を行わなければならない。
車両のメンテナンスの手伝いをしていたメンバーもその1人で、出入り口のシャッターの側に積み上げた予備のタイヤを走って取りに向かったその時。
彼は外から聞こえる音が不意に気になった。
「?……なんだこの音──」
それは甲高く嘶くような鉄の唸り。
地を切るゴムの爪音。
〈モーターヘッド〉の魂に刻まれた──
──瞬間、轟音が響く。
金属の破断するけたたましく耳を裂く音と、スリップするタイヤの擦過音。
「騎兵の登場だ!」
滑って飛び込んできた黒い影──霊柩車から降りた、赤い髪を靡かせたシスターというには荒々しい女が吠える。
「全員跪いて神に祈りな!……あんま締まらねぇな、まぁ全員ブッ飛ばすから覚悟しろや」
ゆるりと脱力し不敵な笑みを浮かべたサラはガレージに蠢く数多の敵へ銃口を向けた──
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