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マジックパンク&ブルームハンドル  作者: 相竹 空区
EP.1 過去を失くした女
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1-6 彷徨う


 当て所もなくネウマは歩く。

 暗い夜道ではあるものの、街灯が道標にはなるし彼女の持ち前の好奇心が見知らぬ土地を彷徨う恐怖を上回っていた。


「当然ですけど、全然見覚えとかないですねぇ……」


 アパートメントや店舗が立ち並び、しかし深夜である為に人通りは全く無い。

 そんな道を歩くネウマは右を左を、キョロキョロと周囲を見回して何かを探すような仕草を取る。


「これからどうしましょうかねぇ……私はどこの誰なのか、家族とかいたら心配してくれてるでしょうか……」


 鳥の雛が生まれて初めて見たモノを親だと思うように、何も分からないネウマにとってサラは唯一辿れる道しるべだった。

 しかしネウマは感じ取ったのだ、あのダイナーや寝床としている霊柩車がサラにとって特別な場所であると。


「サラさんにとっての特別場所……私にもそんな場所があったのかなぁ」


 自分はそこに図々しく入るべきではないと思ったネウマは当てもなく歩き続ける。

 何かが見つかるかなんて分からないが、ネウマは黙って座り込むより動き回る事を好ましく思える性格だったのだ。


「人っ子一人居な──おや」


 対面の車道には車が1台走っている。

 街灯以外の灯りが無い中でライトを付けたその車はよく目立ち、ネウマの視界に光が強く差し込む、


「眩しっ」


 クラリと目眩がくる様な光量に思わず手をかざして光を遮るネウマ。

 顔を掌で覆って何も見えない状態で、耳が車の接近を感じ取り──止まった。


「?ひゃあっ!?」


 急に車道側へと引き込まれ、何やら袋を被され手脚を拘束される。

 そんな状況にネウマの胸中は驚愕に満ちて、自らを襲った何者かを誰何する言葉を繰り返し続ける事しか出来なかった。


「な、何!?誰ですか!?」

 

 ネウマの視界は暗闇に包まれ、僅かな時間の内に道から姿を消す。

 この道には1台の白いバンが走り去るのみ、誰の姿も見えなくなった。


◆◆◆


 〈ストーンヘンジ〉は発展した先進都市──という喧伝をしているが、実際は急速な都市開発により取り残された地区がスラムと化し、ブラックマーケットやギャングが1箇所に押し込められるのではなく、幾つかある発展した区画の隙間に分散して入り込んでいる。

 そのようなスラム街は警察機構によって整備された監視カメラも無く、怪しげな企みにはもってこいの場所だ。

 この都市の発展から取り残された工場跡地も幾度となく後ろ暗い取引や拷問、犯罪組織の潜伏場所に利用されており、今回もまた同じような目的の為に工場跡地の端に建つ、古いガレージに大勢の人が集まっていた。


 そのガレージはかつては社名が書かれていたであろう外壁も錆で覆われ、放置されて時間が経っている事が窺える。

 ガレージの周囲には見張りが立っており、銃を携えてはいるものの装備が統一されておらず各々の好みに任せている状態だ。

 

 そんなガレージに1台の車が近づく。

 徐々に減速する車は見張りの前で車を停めて、運転席の窓が開いた。


「よう、捕まえてきたぜ」

「あいよ、中でボスが待ってる」


 見張りがガレージのシャッターを叩き仲間の帰還を伝えると、キイキイと不快な音を立てながらシャッターが上がる。

 劣化して滑りの悪い巻き上げ機が車1台が通るのに十分な隙間を開けると、バンはガレージの中へと進む。

 中では何やら大きな機械に向かって作業をしている者達で騒がしく、バンはそれらを避けるように隅に停まる。


「おい、ボスは?」


 バンの運転手が近くの仲間に声を掛ける。

 呼び止められた男は広いガレージ内にある独立したスペース、かつては事務所として使われていたであろう部屋を顎でしゃくって指し示す。


「〈カルト〉の連中と交渉してる。女は?」

「中で気絶させて……あぁ手は出してないぜ?」

「当然だろ〈カルト〉の連中が何でキレるかわかんねぇからな」


 軽口を交わす2人は人を拉致したとは思えない気軽さだ。

 彼等の名は〈モーターヘッド・ギャング〉

 都市間の輸送車襲撃や車泥棒などを主なシノギとするギャングであり、今回のような拉致などはイレギュラーな仕事と言える。

 しかし車を盗むより簡単だと、彼等はむしろ拉致には然程も抵抗感などは無かった。


『おーう、戻ったかぁ!』

「ボス!女は捕まえました!」

『ご苦労、ご苦労!ハハハ!気分良いなぁ商談が上手い事纏った時はよぉ!企業勤めの連中より才能あるんじゃねぇか?』


 ノイズがかったような、まるでエンジン音のようなけたたましい笑い声と共に現れた豪胆な男はこの〈モーターヘッド・ギャング〉のボス、ターボヘッド。

 2mを越す大柄に、車のパーツを模したサイバネティクスを埋め込んだ生粋の車好き(モーターヘッド)

 胸部から下顎にかけて大規模な身体改造を行い、まるで胸にターボエンジンが埋め込まれているかのような威圧感のある見た目で配下達から絶大な尊敬を得ている。


『聞け!〈カルト〉の連中との取引が成立した!明日女を引き渡す!そんで俺らは金を手に入れる!そんで!そんでぇもって遂に!俺らの秘密兵器が完成する!」


 機械の腕を振り回して、大仰なパフォーマンスと共に配下を煽るターボヘッド。

 作業をしていた者達も手を止めて、ボスの言葉に耳を傾け熱狂する。


「よっしゃぁ!!遂に最ッ高!のマシンが完成するんだ!」

「流石俺達のボスだ!ターボヘッド万歳!〈モーターヘッド〉万歳!!」


 異様な熱に包まれるガレージは、これこそが〈モーターヘッド〉の強みだ。

 カリスマ性のあるリーダーと、熱狂的で忠実な配下。

 〈カルト〉とは別方向にイかれた連中だと言われる事も多い彼等だが、ハンドルを握るターボヘッドが居る間はその爆発的な衝動を推進力に変えて突き進む恐るべき集団と化す。


『この世でもっとも素晴らしいモノは教会の連中が崇めてる神でもなけりゃ〈カルト〉の連中の三つ目野郎でもねぇ!マシーンだ!!』


 〈モーターヘッド・ギャング〉のその熱狂がバンの中にいるネウマに否が応でも届いて、気絶していたネウマを起こす、


「ん……あ、あれ?私は、一体……」


 目隠しと拘束をされて転がされている為に、状況が分からずともこれがマズイ事態だとはネウマにもすぐに分かった。

 自らの事も知らず、身動きも取れず、助けてくれるような友人知人にも宛がない。

 それでもネウマはこの細い繋がりに縋らずにはいられなかった。


「サラさん……っ」


 祈るように、ネウマは目を閉じた──


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本日2回更新です。次回更新は1時間後、22時頃となります。

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