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マジックパンク&ブルームハンドル  作者: 相竹 空区
EP.2 今を生きる人々
19/25

2-6 取引


 〈ストーンヘンジ〉において取引といえば大抵の場合、非合法の物品や本来金でやり取りされてはいけないモノを正規の販売者ではない人物が販売する事を指す。


 そのような後ろ暗い取引に使われるのは人気が無く、寂れていて、不衛生な場所が定番であり、今回は廃モーテルが選ばれた。


「指定された場所はここだ」

「指定した、んじゃなくてされたのか」

「かなり無茶なお願いをしてしまったからね。譲歩せざるを得なかった」

「相手がイラついてないといいけどな」


 サラは当然取引自体が罠の可能性も考えて行動している。このモーテルは2階建てのコの字型の建物が駐車場の三方を囲うようにして建てられている。

 仮に仕掛けるのであればモーテルの一室で取引し、その後外に出た時にクロスファイアを喰らう可能性は高いだろう。


「ヤバくなったら指示に従ってくれよ?」

「分かっているとも」

「えぇ!ヤバくなったら速攻で隠れますからね!」

「ガッツポーズで隠れる宣言するヤツ初めて見た」


 ムードメーカーのネウマが空気を和らげて、一行は駐車場内へと入る。駐車場には幾つかの車……の形をしたスクラップが転がっているが、歩いているとその中に丁寧に磨かれた1台のピックアップトラックが停車しているのが見えてくる。

 既に秩序などない駐車場内で几帳面に白線に従って停車したその車は、よく磨かれた車体と併せて持ち主の性格が窺えた。


「取引相手って怖い人ですかね?」

「真面目ではあるな。粗暴さなどが感じられない傭兵としては珍しいタイプだ」

「元企業エージェントとかか?中々()()は抜けねぇし」


 然程広い訳ではないものの、やはり緊張が漂う中で歩いた距離は実際よりも長く感じられてネウマは額を伝う汗を拭う。


「なんか、ききき緊張しますねぇ!」

「取引すんのはユーノス先生だし、なんかあった時に体張るのはアタシなんだけど……」


 ネウマは狙っていた訳では無いものの、自分より過剰に緊張している姿を見たサラとユーノスは僅かに肩から力を抜いてモーテルの階段を上がる。

 ユーノスが目指すのはモーテルの2階中央の部屋。そこが相手から指定された場所であり、危険を冒してでも手に入れたいモノがある場所。

 逸る気持ちが歩調を早くして、アタッシュケースを持つ手が汗で滑る。早く取引を終わらせたいと、心臓の鼓動が早くなり汗が滝のように流れ落ちる。


「ユーノス先生落ち着けって。ほら飲み物飲んだらどうだ?」

「あ、あぁ……すまない。焦ってしまってね」


 懐から取り出したのはボトルに半分程残った、すっかり温くなってしまったエナジードリンク。炭酸もほぼ抜けてしまったそれを逆さにし、喉を鳴らして飲み干すユーノスは舌の上を僅かに転がる泡の心地良さを楽しむ程度には落ち着きを取り戻せた。


「頭脳労働で溜まった疲労を癒す、デスクから解き放ってくれるブルーカラーのお供……ですね!」

「よく覚えてんなソレ」

「ハハ、お陰でリラックス出来たよ。さて、行こうか」


 目的の扉の前で息を整えたユーノスはノックを3回、続いて2回。


「ユーノスです。受け取りに来ました」


 ドア越しに外を伺っているのだろう。少しの間を置いて扉の向こうから男の声が届く。


「時間通りだが……連れがいるようだな?」

「護衛だ。〈トライアイ・カルト〉に狙われているからな」

「……そうか、こっちはドア越しにショットガンを構えてる。変な真似したらドカン!だ」


 ガチリと鍵の開く音がして、扉の向こうの気配が遠ざかる。

 変な真似をしなければ撃たれないだろうと頭で分かっていても、板1枚挟んだ向こう側では銃を向けて待ち構えているとなれば足も重くなるだろう。


「なんか……ユーノス先生の話の割に粗野な方でしたね」

「あぁ、事前にやり取りした男ではないな。2人組だと言っていたから、私の話した方が頭脳担当なんだろう」

「まだ罠の可能性もあるからな。ユーノス先生、アンタが最初に入らないと警戒されるだろうから頼んだ。ヤバそうならアタシが外に引っ張るから。あとネウマは最後に入れ」


 サラの指示に無言で頷きネウマは下がり、ユーノスはドアノブへ手を掛ける。捻るスピードも早くてはいけないような気になって、汗で滑るノブを確実に回してドアを押し開く。

 このようなら取引に以前も使われたであろうモーテルであっても、わざわざ扉に油を差す物好きがいる筈もない為に扉は頭に響く音を立てながらユーノスを室内へ迎え入れる。


「何モタモタしてんだ、入れ──ってサラ!?」

「ミュラー?待ち合わせってこれの事かよ」


 室内に居たのは、銃剣代わりに半月状の刃を取り付けた特徴的なレバーアクションショットガンを構えてアングリと口を開けたミュラー。

 眉目秀麗なその顔を驚きで歪ませつつも、銃口を下げて迎え入れる体勢へと変えた彼に促されてサラとユーノスは部屋へと入り、隠れていたネウマも続いて顔を出す。


「おぉ!ミュラーさん!奇遇ですねぇ」

「アハハ……やぁネウマちゃん。よく会う日だねぇ」


 最後のネウマが入室した事を確認し、ミュラーは入り口から外を見回した後扉を再び施錠する。

 そうして倒された部屋の中には汚れたベッドと、同じく汚れたテーブルと椅子。簡素な内装は廃墟らしく朽ちて、しかしベッドには青い箱。

 そして椅子を軋ませて座る咥えタバコの男。


「ミュラー、知り合いだからといってそう易々と警戒を解くな」

「サーセン……」

「貴方がバルトロか?私は依頼をしたユーノスだ」


 バルトロ。

 その男はこの街ではよく見る──筋肉で相手を威圧しミリタリージャケットを羽織ってカーゴパンツを履くタイプ。

 大型拳銃を納めたホルスターがチラリと覗き、鋭い眼光が全てを威圧するその様は荒々しさを感じるが、傍に携帯灰皿を持つ几帳面さは彼が駐車場のピックアップトラックの運転手である事──あるいはサラの言う()()の表れだろうか。


 軽薄そうなミュラーとは違いバルトロは警戒を解かず、カーテンを締め切って薄暗い部屋の中はヒリつく緊張感に満ちて空気が薄くなったような錯覚すら覚える。

 ただ椅子に座っているだけだというのに、バルトロはこの部屋で起きる事全てをコントロールしているかのように堂々とそこに存在して、サラには仮に仕掛けようとも瞬く間に制圧されてしまうだろうという確信が持てる程だった。


「そうだ。依頼された物はその箱の中に」


 バルトロが視線で指し示したのはベッドの上の青い箱。

 つるりとした質感のクーラーボックスの一種であるその箱を前に、ユーノスの顔は少し険しくなる。


「中を確認しても?」

「構わん」


 ゆっくりと箱に近づいて、カチリカチリとロックを外す。内部から漏れる冷涼な空気が心地良いと、緊張の中でユーノスは場違いな事を考えつつも中を検め始める。

 クーラーボックスの中で、更に厚手のポリ袋に入ったソレをガサガサと音を立てて掻き分け中身と対面したユーノスは、懐から取り出した手の中に収まる程度の機械をカチカチと操作して視線を慌ただしく動かし、視界内に表示される様々な情報と照らし合わせて依頼通りのモノが目の前にある事を確認し、ポケットの中へと機械を戻す。


「……あぁ、間違いない。これで……」


 内部の温度を保つ為に長時間の開放は良くないと、ユーノスは中身が望み通りであった事を確認すると素早く蓋を閉める。

 サラとネウマの立つ位置からは中身は見えなかったが、ユーノスの横顔が今日見た中で最も強い感情に満ちている事から、この取引に掛けるユーノスの思いが相当なモノであったと容易に察する事が出来た。


「何の為に必要なのかは知らんが、まずは報酬を」

「あ、あぁそうだな……送金した」

「こちらでも確認した。よし、ミュラー撤収するぞ」

「アイサー。そんじゃあネウマちゃんまたねぇ〜」


電子マネーの送金を行いHUD内にてその増減を確認したユーノスとバルトロは、その瞬間に契約は完了してそれぞれ別に動き出す。

 椅子から立ち上がったバルトロはミュラーと共に撤収を初めて、ユーノスはクーラーボックスの肩掛けベルトを肩に通して重さを分散できる位置を調節している。


「完了ですね!」

「あぁ、ありがとう。あとは帰るだけだ」

「だったらまだ気は抜けねぇな、ちゃーんと無事に帰るまではよ」


 緊張から解き放たれて和やかな笑みを浮かべるユーノスに喝を入れるようにその背を叩き、サラも笑って見せる。

 無事に送り届けると、報酬以上にその信頼に報いる為にサラもユーノスと同じく瞳に覚悟を宿して覚悟を示す。


「よろしく頼むよ。アクシデントに遭遇せずに帰れるといいんだが──」

「そうもいかないようだな。お連れ様が見えている」


 ユーノスの願望から出た言葉を遮るように、バルトロの声が室内に響く。

 サラ達よりも早く撤収しようとしていたバルトロとミュラーは扉を少しだけ開けたその隙間から外を覗いて、緊張感に満ちた険しい顔で銃に手を掛けている。


「やっぱ来たか」

「サラえ?マジ?予測してたの?」

「……依頼人は〈カルト〉に追われていると、事前に説明した筈だが」

「いやぁ、アッハハハ……」


 サラとバルトロを交互に見て、ミュラーはから笑いで誤魔化そうと試みる。


「外の状況は?」

「駐車場から2階まで展開しているな。囲まれるのは不可避だろう」


 気まずそうなミュラーを無視してサラはバルトロに状況を確認し、顎に手を当て思案する。


「……ダメだと思うけど裏も確認しとくか」


 サラはそう呟くと、部屋を横断してモーテルの裏側の窓からカーテンの橋を摘んで慎重に外を窺う。するとそこには物々しい、銃を抱えた荒くれ者が待ち構えており仮にここから飛び降りたり、(ブルームハンドル)で飛行したとしてもクレー射撃のように撃ち落とされて終わりだろう。


「うん、やっぱダメだったわ。正面から叩き潰そうぜ」

「仕方ない。降りかかる火の粉は払わねばな」

「しゃーねぇーなぁ、オレも一丁カッコいいところ見せますかね!」


 戸惑いの見えるネウマとユーノスとは打って変わってサラ、バルトロ、ミュラーはそれぞれ戦闘準備を開始する。


「2人は取り敢えずこの部屋の中に隠れといてくれ。外のはアタシ達が何とかする」


 ネウマとユーノスに指示を出したサラはメンテしたてのリボルバーをホルスターから引き抜き、シリンダーを回転させ動作に問題がない事を確認して額にリブを当てて目を瞑り集中する。


「流石に金を貰ったらもう無関係、ってのは後味が悪いからな」


 バルトロは腰のホルスターから特徴的な大型オートマチック拳銃を取り出す。それは銃口下部にレーザー照準システムを縦に3()()連ねた一見して無駄な、せいぜい反動の軽減に使えない事もないようなただの電飾。

 しかしサラにそれを聞いている時間的余裕など無く、バルトロはその奇妙な拳銃のマガジンをリリースして残弾を確認して戻した後、スライドを引いてチャンバーチェックを行ないセーフティを解除。最後に携帯灰皿にタバコの灰を落とす。


「なんか今日は良い事と悪い事が交互に起こる日だなぁ……」

「アタシと遭遇したの悪い事カウントしてる感じか?ソレ」

「ヤッベ……」


 サラから顔を背けたミュラーは得物のレバーアクションショットガンのレバーを動かしてチャンバーへと弾を1発送り込み、ポーチから取り出した追加の1発を装填して準備は完了。


「よし、準備いいか?」


 サラの言葉と共に交わした視線に、バルトロとミュラーは無言で頷いて応える。

 既に戦士の顔へと変わった3人は迫り来る〈カルト〉の脅威を振り払うべく、戦闘を開始した──


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次回更新は5/3水曜日、21:11です。


後書きに人間味を出すと良い。というハウツー的なのを読んだので何かしら書こうかと思います。

人間味ってなんですかね?「テスト期間なので更新頻度下がります!」が人間味ですかね?GWだから逆か。

そんな訳で相竹はGWも特に変わらず週2回更新です。

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