表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジックパンク&ブルームハンドル  作者: 相竹 空区
EP.2 今を生きる人々
18/25

2-5 武器屋


〈ブラッドバス〉を離れて歓楽街を抜けてサラ、ネウマそして護衛の依頼人であるユーノスは複雑に入り組んだ通り……と言うには些か立体的な構造の商店街に来ていた。

 無理な拡張工事を繰り返して陽の光が入らなくなった通りには、所狭しと店が詰め込まれて怪しげな機械を販売している。

 売っている本人でさえ何か分からない品も混じるような雑多な品揃えには盗品や禁制品すら混ざっており、つまりここは闇市(ブラックマーケット)である事を示している。


「それで?何処に行くんだ?」

「まずは店へ注文した品を受け取りに」

「何のお店ですか?」

「武器屋だ。身を守る為の道具をね」


 この時代の武器屋とは剣や槍を──販売していない事もないのだが、もっぱら銃やその弾薬、金属鎧ではなく防弾ベストなどを販売する銃砲店を指している。


「武器ですか……私もなんか護身用に欲しいです!デカくて強いやつ!」

「扱いきれずに振り回されるオチまで見えた」

「分かりませんよー?記憶を失う前は凄腕の戦士だったかも……」


 ネウマが空想の大業物を振り回してキメ顔でポーズを決めても、サラは呆れた顔で笑って先へと進みユーノスはそれを親のように見守る。

 護衛をしている最中であるとはまるで思えない様子の3人だが、サラは常に周囲へ気を配っていた。


(今のところ尾行は無し。仕掛けてくるにしても人通りの多い場所は選ばない……と思いたいが)


 大胆な犯行を重ねる〈トライアイ・カルト〉ではあるものの、この場で仕掛けてはタダでは済まないだろう。何故ならば客として訪れる者も、この場で店を構える商売人も、この闇市(ブラックマーケット)にいる殆どが荒事に慣れている者達だからだ。

 非合法の品を仕入れるにも、購入したあとそれを抱える事にも相応のリスクがあり、それは大抵の場合戦闘に繋がるのだ。


「ユーノス先生はこの辺りよく来るのかい?」

「必要な物がここでしか手に入らない事も多いからね」

「何が必要なのかは聞かないでおきます……」

「別に怪しい物は買ってないがね」


 そうして一行は入り組んだ迷路のような道を進み、昼間にも関わらず電灯が闇を照らす路地の奥へと辿り着く。

 ユーノスが立ち止まった為にそこが目的地だと分かったものの、看板すら掲げずに外観だけでは店であるかも定かでないのでネウマは本日何度目かも分からない溜め息を吐くのだった。


「はぁ……また入りにくい店」

「店主は変わり者でね。腕は確かなんだが自分が認めた客しか取らないんだ」

「客を選り好みしても食っていけるだけの実力って事か」


 一体どんな凄腕なのかと、その顔を見てやろうとサラはユーノスに続いてその店へと入る。

 まず最初に視界に映るのが、奥にある倉庫や作業スペースと客を遮る鉄板と金網。カウンターに設けられた防弾ガラスの覗き窓とスライド式の鉄扉、呼び出し用のインターホンが店としての機能を果たしている。


「エルダー。私です、ユーノスです。注文した品を受け取りに来ました」

『……待ってな。今行く』

 

 少しの間を置いてインターホンから聞こえたのはしゃがれた男性の声。いつの間にか聞こえたカツリ、カツリという固い物が床を叩く音が近づいて、機械の作動音と共に金網越しのカウンターに迫り上がって現れたのは金属製の杖を抱えた白髭のドワーフの老人(エルダー)

 椅子の高さを調節しながら抱えたケースをカウンターの上に置き、客へと向き直るなりサラとネウマを訝しげに睨め付ける。


「……知らんヤツがくっついとるな」

「護衛ですよ〈カルト〉に狙われているようなので」

「この小娘共は信頼できるのか」

「私は信頼してますがね」

「なら良い。品はここに、金は前払いで貰っとるからな」


 簡潔に、あるいは投げやりにエルダーはユーノスと会話をして鉄扉を開けてケースを通す。

 ユーノスも彼の態度には慣れた様子でケースを開けて中に入っている黒いゴタゴタとした筒──タクティカルライトを確認し、懐へと仕舞い込んでケースは再び鉄扉をくぐる。


「依頼通りの頑丈な造りに魔術構造を仕込んだ。棍棒(クラブ)としても短杖(ワンド)としても……もちろんライトの機能も使える」


「注文通りです。今回もありがとうございます」

「職人として当然の仕事だ……それで、前回の注文のそのアタッシュケースは問題無いか」

「えぇ、今も問題無く」

「そうか。〈カルト〉には気を付けろよ、企業のクソ共にもな」

「分かってますよ、ご協力ありがとうございます」

「フン……金貰って仕事してるだけだ」


 サラもネウマも、この見るからに偏屈な老人とユーノスの会話に横槍を入れる事など出来ずに居心地の悪さを感じでソワソワと落ち着かない状態だった。


「なんか職人って感じですね……!」

「化石みたいな人によく会う日だよな」


 ヒソヒソと声を顰めて気に触るような事をしないように部屋の隅で話す2人をエルダーは睨み、2人は驚いて少し体が跳ねる。


「おいシスター?か、そのふざけた格好の小娘。こっちに来い」

「あ、えぇ?なんかしたか……?」

「分かんないですけどコレ実力を認めてくれるイベントですよ……!」


 ネウマに背を押し出される形で老人の前に立ったサラは、大人に叱られる子供のようなバツの悪さを感じて肩に力が入ってぎこちない。


「銃は腰か、見せてみろ」

「は?いや、ユーノス先生の時間もあるし……」

「私は構わない。準備にやり過ぎなんて事も無いしね」

「そんじゃあ……コイツだ。大事に扱えよ?」

「愚問だ。馬鹿にしているのか?」


 眉を釣り上げて、エルダーはここで初めて感情を見せる。それは自らのガンスミスとしての矜持。触る銃は全て賓客であり患者だと示すように丁寧に下から受け取ったサラのリボルバーから弾を抜き取り点検してゆく。


「素晴らしい銃だ……小娘、もっと相応しい使い手になれ」

「はいよ、メンテはちゃんとやってるから不具合とかは無い筈だけど」

「この浮浪者のような汚らしい状態を指してメンテちゃんとやってる、と?」


 エルダーは慣れた手つきでリボルバーを分解して動作の妨げになる物がないか、部品は欠けていないかとひとつひとつ真剣な眼差しで確認して楽しげに口の端を持ち上げる。

 エルダーがブラシや布を這わせる度にリボルバーは美しい銀の輝きを取り戻してゆく。緻密で美しいエングレーブがささやかに輝き、まるで芸術品のように存在感を強める。


「これは高貴な銃だ。もっと丁寧にメンテナンスしろ」


 次にエルダーが取り掛かったのはグリップ。木製グリップは把持のし易い形で手によく馴染む。

 ひとつのささくれも見逃さないように丁寧に指先でマッサージをするかの如く優しく撫でて、その形状を確認する作業を行う。


「グリップは木製……やはり魔力伝導率を考えるなら素材は木だな。クラシカルな(ブルームハンドル)の良さは堅実さにある。最近のポリマーフレームの銃器をベースにした(ブルームハンドル)は加工のし易さや軽さで木製に勝るが安定性に欠ける。何よりワシが好かん」


 フンと鼻を鳴らしたエルダーはグリップを握り込み僅かに魔力を流して動作の確認を行う。魔力の操作に応じて機構が明滅し、一見それはただの光にしか見えないのだがエルダーは真剣に加減を付けて調()()する。


「刻まれている魔術は──」

「強度上昇、弾丸の加速と安定化」


 顔を上げてサラへと問いかけた自らの言葉を遮り素早く答えたサラに対して、エルダーは眉を吊り上げニヤリと笑い手元へ再び集中する。


「シンプルで分かりやすい。問題なく動いている……メンテナンス気取りで魔術構造をメチャクチャにする馬鹿もいるからな」

「流石にそこまで馬鹿じゃないって」

「フン……この銃は最近の魔術構造をゴテゴテ付けて複雑になった(ブルームハンドル)とは違う。銃としての機能を阻害しない範囲で魔術を発動する為にエングレーブにも工夫が施されている……戦術的価値と芸術的価値を両立した逸品、上手く使えよ」


 磨き上げられたパーツを寸分の狂いも無く元の形へと組み上げて、シリンダーを回してハンマーを起こし引き金を引く──問題なく動作する事を確認した後、トップブレイクして弾を丁寧に装填し直したエルダーは満足げに鼻を鳴らした。


「ん……良い感じ、あんがとさん」

「オイ、ユーノス。この小娘、腕は良いようだから上手く使えよ」

「えぇもちろん、頼らせて貰いますよ」

「小娘、今後はワシの所に銃を持って来い。企業の息が掛かった店にその銃を預けるなよ」

「まぁ、腕は良い爺さんみたいだからな。使わせてもらうよ」


 サラの言葉にエルダーはクツクツと喉を鳴らして笑い、鉄扉を閉めて椅子を下げ、その姿をカウンターの向こうへと消した。

 そしてエルダー消えたのを見届けたネウマはここでようやく部屋の隅から動き出し、緊張で固まっていた反動のようにふにゃふにゃと頼りない足取りでサラへと近づく。


「ほわぁ……メッチャカッコいいじゃないですかぁ……!」

「うぉっ、ゾンビかよ何だその歩き方びっくりすんなぁ」

「プロ同士の会話──って感じで痺れましたよぉ!」

「そうかい、楽しめたようで何よりだな」

「えぇ!いやー良いなぁ、私もなんか欲しいなぁ」

「また今度な、ユーノス先生時間は?」


 サラの言葉と左手を振るジェスチャーでユーノスは腕時計を確認し、頭の中の予定と照らし合わせて頷く。


「そろそろ移動したほうがいいだろうな。行こうか」

「だってよ、行くぞネウマ」

「絶対ですよ!私もなんか仕事道具が欲しいんですよぉ」


 次の目的地へと、一行が歩き出したその時。カウンターの向こうから呼び止める声が届く。


「オイ小娘、名を聞いてなかった」

「サラだ。エルダーってのはあだ名だろ?別に名前聞きたい訳じゃないけどさ」

「そうだ。ワシはただの老人(エルダー)……せいぜいくたばらんようにな」

「心配してくれてんの?なんか……いがーい」

「年寄りは自然そうなる。ユーノスを頼むぞ」

「仕事だからな。報酬いただくまでは傷ひとつ付けさせない……気概で頑張るよ」


 そう言い残してサラは店を出た。

 それを見送ったエルダーは、扉が閉まる音を聞くなり椅子に飛び乗って両拳を握り締める。


「ククッ……あんな良い銃を見れるとは、年甲斐もなくはしゃぐところだった。顔に出んようにするのが大変だったが……」


 ニヤニヤと笑いながら白髭を撫で付けて、目を閉じ瞼の裏にサラのリボルバーを想起する。


「サラか……相応しい使い手に成長するのが待ち遠しい。あの娘の成長を見届けるまでは死ねんな」


 エルダーはまるで子供のように、遠くない未来の楽しい事を待ち遠しく思って心を踊らせた──


よろしければ感想、評価、ブックマークお願いします。


次回更新は時間を変更してみます。

更新日は変わらず4/29土曜日ですが、時間を遅くして21:11で更新します。

時間に関しては今後細かく変更する可能性がありますが、その都度後書きにて報告させていただきます。


せっかくなら読まれる時間に浮上したいですからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ