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マジックパンク&ブルームハンドル  作者: 相竹 空区
EP.2 今を生きる人々
14/25

2-1 プロローグ

レイアウトを少し変えて読みやすくなるように試行錯誤中です。


 ネウマがダイナー〈ダイスロール〉で働き始めて数日。

 仕事にもすっかり慣れて、サラの霊柩車にネウマの物も増え始めた頃。


「私、お休みですよ!」

「出掛けるか?」

「えぇ!?」

「そういう事じゃねぇのかよ」

「いやでも……えぇ!?サラさんから!?」


 そう、今日はネウマは休みの日。

 普段はサラより早く起き出すネウマもサラの起床時間に合わせてゆっくりと眠り、今日1日はサラと共に過ごす腹づもりだったのだが。まさかサラの方から誘うなんて考えもしなかったネウマは驚き目を見開く。


「んだよ行きたくねぇならアタシ1人で──」

「行きます行きます!何処ですか!?」


 元々そのつもりであった為に食い気味に詰め寄るネウマと、だるそうに頭を掻くサラ。

 テンションの違いが明白な2人ではあるもののサラは眠気を堪えて、ネウマ浮き足だって支度をして2人は街へと繰り出した。


◆◆◆


 〈ストーンヘンジ〉は広大だ。

 都市の中の移動ですら時間がかかる。

 複雑に入り組んだ道に高低差、徒歩でも移動は可能だが大抵は車に乗るか公共交通機関の利用をする。


 今回サラが選んだのは後者のモノレールだった。

 

「うわぁ!凄いですよサラさん!」

「お前の連れだと思われると恥ずかしいんだけど」


 1本の軌条の上を走るモノレールは、窓から街を見下ろせる。

 といっても薄汚い灰色が並ぶだけのサラにとっては見慣れた、見飽きた景色なのだがネウマにとっては新鮮なアトラクションとして全てが輝いて目に映る。窓に張り付き舐め回すように全てを目に収めようとする姿は、田舎者か子供のそれだ。

 それを見たサラは呆れてシートの上で足を組んで、通勤通学ラッシュの時間を過ぎた車両を広々と使っている。


「はやー……うぇ、なんか気持ち悪くなってきた」

「下ばっか見るからだろ……ほら座れって」


 グロッキーなネウマはふらふらとサラの隣の席へと座り込み、青い顔で天井を見つめる。

 

「うあぁ……そう言えばなんで車じゃなかったんですか……」

「意地でも会話続けようとすんのマジすげぇよ。あの車な、ほら移動にあんまり適してないからさ」

「前はバンバン走ってたじゃないですかぁ」

「広い道とかならともかくなぁ……家でもあるから危険な所にあんま置いときたく無いし……」


 サラは傭兵である為に、仕事で赴く所は大抵銃撃戦になる。

 そんな場所に資産の全てを持っていくリスクは犯せないと、サラは頻繁に公共交通機関を利用している。


「というか何処に向かってるんですか?これ」

「流石に記憶なんも戻らないままって訳にもいかないからな、色々調べてみようかと」

「へぇー」

「他人事みたいによぉ……」


 そのように何気ない会話を交わして揺られていると、目的の駅へと到着したモノレールが停車する。

 サラに着いてネウマも降りて、駅の中を通っていると多数の広告が貼られた通路に辿り着く。


「あ!これドワーフさんのお店ですね!」

「ん?あぁ奢らされたな」


 貼られた広告は2人が出会った日に入った飲食店のもの。

 

「他にも色んなお店のが並んでますねぇ」

「大体が〈ヘルメス社〉か〈G(ガンドテック)M(ミリタリー)S(システムズ)〉だけどな。本社あるから影響力が強いんだよ」

「〈ヘルメス社〉は前に聞きましたね、〈GMS〉って何を売ってらっしゃるんですか?」

「武器だな。ここの広告だと銃器──ほらアレ『一家に一丁護身用、子供にも持たせて安心の使い捨て拳銃。ケースレス弾使用』あんなの売ってる」


 サラが指差した広告には大きく拳銃が写っていた。

 白やピンク、ブルーなどのプラスチックで出来たカラフルでシンプルなデザインのハンドガンが、まるでオモチャかお菓子の広告のようなポップなデザインの広告で宣伝される。


「……子供にも武器を持たせるんですか?」

「嫌な世の中だよな」


 露骨に嫌悪感を表すネウマに、サラは諦めを含んだ同意を返して歩き出す。

 この通路に掲示されている広告は殆どが〈ヘルメス社〉と〈GMS〉のもので、〈GMS〉の広告は似たような──ネウマが眉を顰めるような──内容のものだった。


【家族を守る、ショットガン】

【弾薬のサブスクが登場!】

【GMSの警備サービスなら()()()もお任せ!】


 しかし反対にヘルメス社の広告には比較的に穏当な内容が多く、ネウマはモラルの差にクラクラと精神が揺れ動く気持ち悪さを感じてしまう。


【ヘルメス社の人工腎臓をご利用の方は、ヘルメス社のクリニックでの透析でポイント還元が受けられます!】

【ヘルメス社のポーションセットは常備薬として長年愛されてきた歴史があります】

()()()()()()な臓器もヘルメス社なら!】


 ネウマは足速に通り抜けようと、サラへと追いつき息を吸う。

 サラも多くは語らずそのまま歩き続けて通路を抜け、階段を降りるとそこが駅の出入り口。

 外には猥雑な街並みが広がっている。

 様々な看板が折り重なるように主張して、得体の知れないケーブルが建物と建物の間を繋いで蜘蛛の巣のように伸びる。

 胡乱な品を売る露天商が通行人を呼び止めて、露出の多い服を着た男や女が裏通りへと誘う。


「うわぁ……なんか、ゴチャゴチャしてますね!新鮮な空間吸いたかったんですけど、今割と気持ち悪いです!」

「だったら無理してテンション上げんなって……なんか飲み物買うか」


 そう言ってサラは出入り口近くの自動販売機へと向かい、水を購入してネウマへと差し出す。

 冷えた水を受け取ったネウマは、そのひんやりと骨を突き抜けるような感覚にぼんやりとしていた意識がが戻るのを感じる。


「ありがとうございます、んくんくっ……ぷはぁ!生き返りますねぇ」

「そりゃよかった。あとはコレだけ買っとくか」


 続けてサラはエナジードリンク──ツキヨミ製薬製OCHI!──を購入し、しかし飲まずに手に持ってネウマを待つ。


「もう大丈夫か?」

「あ、はい。飲まないんですか?それ」

「手土産だからな。近くだとここでしか売ってない、自動販売機限定フレーバーだから面倒なんだよ……」


 怠そうに首を回して歩き始めたサラに、ネウマは喧騒に飲まれないようにピッタリと着いて歩く。

 周囲には多くの人がおり、皆生気に満ちた様子で仕事に励んでいる。時にそれは衝突を招く荒々しさへと変わるのだが、それすらありふれた日常として街並みに溶け込んで、怒声もBGMのひとつとして良く馴染む。


「ここらは物も人も雑多に入り乱れててな、他の地区に行けばエルフだのドワーフだのが高ぇ服着て他種族相手に威張ってるんだが、ここじゃ種族とか関係なく集まってるから情報も集めやすい」

「へぇー。私はみんなで仲良くしてるのが好きです」

「ならこれから会う奴にも仲良くしてやってくれ」


 今まで通っていた太い通りを途中で折れ曲がり、サラとネウマは横丁へと入る。

 そこは日中だというのに高い建物が密集する事によって日光が遮られて薄暗く、点々とまばらに灯る光がむしろ暗闇を強調するような場所だった。


「なんか薄気味悪い場所じゃないですか…?」

「霊柩車で寝泊まりしてるアタシ達が言える事じゃねぇわな」


 サラは慣れた様子で光を辿り、ネウマは恐る恐るその背を追って見えてきたのが目的地であるマンションだった。


「とうちゃーく」

「はぁ、精神が疲弊します……」


 控えめな看板は暗闇に消えかけて、無骨な金属製の扉は来客を拒むよう。

 自転車やタバコの溢れかえった灰皿が置いてあり、やたらと生活感はあるのだが初見では入る事を躊躇う見た目のその場所に、サラは迷いなく扉を開けて入ってしまう。


「あっ!これ入っていい建物なんですねぇ〜」

「当たり前だろ」


 最低限の灯があるだけの薄暗い通路を進み、階段を上がった2階の通路で目的地が見えてくる。

 同じデザインの扉が続くマンションにおいて、そこは他の部屋とは違う見た目である為によく目立つ為に、ネウマにもそこが目的地なのだとすぐに分かった。

 

 離れていても目立つのは暗闇に光る無数の光。

 監視カメラにセンサー、扉のロック機構と、固められたセキュリティが正常に動作している事を示す緑のランプが星のように暗闇で輝く。


「目印いっぱいで親切ですね!薄気味悪いですけど……」

「確かに分かりやすいよな。悪目立ちしてる気もするが」


 光を頼りに辿り着いた扉をサラは拳で叩く。


「おい!開けろ!アタシだ!」


 ガンガンガンと重い金属を叩く音が廊下に響き、少しの間を置いて扉の内と外でロック機構が動く音がした。


開けごま(オープンセサミ)だ」

「開けゴラ!、じゃなかったですか?」


 そして扉は1人でに開き、2人を迎え入れる。

 扉の導きに従って中へ入ると扉は再び1人でに動いて閉まり、ロックを掛け直す。

 

「お邪魔しま〜す……」


 ネウマが恐る恐るの挨拶と共に内部を伺っても、カーテンを閉め切っているようで部屋の中も外と負けず劣らず薄暗く、廊下を真っ直ぐ進んだ先の部屋から漏れる人工物の光以外に光源は無い。

 ネウマはサラを追って、しかし忍び足でそろりそろりと牛歩で進んで部屋へと入る。


「何やってんだ?」

「いえ、なんか怖くって」


 呆れ顔のサラは壁に寄りかかって腕を組み、ネウマはその横へと体を滑り込ませる。

 そうしてサラの見ている方向へと視線を合わせると、それがこの部屋の光源でもある無数のモニター。

 この部屋の外の監視カメラの映像から、マンション周辺までの無数のカメラ映像が映し出されたそのモニターの前にはサラとネウマに背を向ける形で、様々なな機械が取り付けられた椅子が配置されている。


「ようこそ、薄気味悪くて悪目立ちしているボクの家へ」


 そう言って椅子を回転させて現れたのがこの部屋の主。

 幼さが残る顔立ちに、小柄な体躯の茶髪の少年。

 彼は椅子と無数のケーブルで繋がるヘルメットのような機械を被ってネウマへ挨拶をした。


「ひぇ!?あ、あのですねあれはなんというか〜、ここ素敵なお部屋ですねぇ!」

「別に怒ってないから慌てなくても……ボクはケファ、情報屋。貴女はネウマさんだよね?よろしく」


 そう言って少年は優しく笑った──


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次回更新は4/15土曜日、7時です。

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